薔薇班襲撃 その②
我々の生きていく意味など
薔薇の水やりで充分だ
2
UMAハンターは、任務の時にスマートフォンを持つことは基本的にない。
激しい戦闘や移動時に重く、邪魔になってしまうからだ。
そのため、連絡手段は、支給されたトランシーバーで行う。
そのトランシーバーとは名ばかりで、音声の受信だけでなく、簡易連絡の受信など、機能は一昔前の携帯と大差は無い。
「・・・・・・」
薔薇班・副班長の齋藤は、持ち込んだスマートフォンの画面をじっと眺めていた。
地図上で、赤い点がゆっくりとこちらに近づいてくる。
「桐谷・・・」
「なんですか?」
薔薇班の三席である、桐谷は不機嫌な目を齋藤に向けた。
齋藤はスマホの画面を桐谷に見せる。
「敵が近づいてくる・・・」
「敵?」
桐谷は目を細めて画面を見た。
「赤い点・・・、これ、桜班の三席じゃないですか・・・、お嬢様が欲しがっている市原架陰の上司ですよ?」
薔薇班のメンバーは、このハンターフェスが始まる前に、桜班のメンバーに、バレないように発信機を取り付けていたのだ。
そして、赤い点は、桜班の三席である、【雨宮クロナ】を指している。
「あの女、この近くに飛ばされたようですね・・・」
「ああ・・・」
齋藤は眉間にシワを寄せて頷いた。
「少し、まずいな・・・」
薔薇班の目的は、ハンターフェスの優勝と言うよりも、【市原架陰を手に入れる】と言うことだった。
(お嬢様が、市原架陰殿に一目惚れしてしまった・・・。どうにかして、彼を薔薇班に引き入れ・・・、ゆくゆくは城之内家の時期当主として・・・)
市原架陰を手に入れ、お嬢様と婚姻をあげるには、その他の桜班のメンバーは邪魔な存在だった。
「桐谷、上司命令だ」
「なんですか?」
「この発信機の赤い点、雨宮クロナを始末しろ」
「あ?」
桐谷は肩を竦めた。
「冗談じゃないですよ。確かに、ハンターフェスの裏ルールで、人間は【10点】になってますけど・・・、さすがに、これからお嬢様の夫となる男の上司ですよ?」
「分かるだろう? 我々が市原架陰を奪おうとすれば、確実に桜班の他のメンバーは阻止に入る・・・。不安要素は摘むべきだ・・・」
「そうですけど・・・」
「いいからいけ。私はお嬢様の護衛をしなければならない・・・」
「はいはい、行けばいいんでしょ?」
桐谷は、幸せが逃げていくような深いため息をつくと、重い腰をあげた。
パタパタと砂埃を払い、地面に突き立てていた、ハードレイピアを握る。
「じゃあ、さっさと始末してきますよ。オレのこの、【名剣・甲突剣】で・・・」
「自惚れるな。お前はまだ三席だ。そして、桜班の雨宮クロナは三席だ・・・。舐めてかかれば返り討ちに遭うぞ?」
「そんなこと言うなら、齋藤さんが行ってくださいよ・・・」
「私はお嬢様の護衛だ。いつどんな時でも、戦力はお嬢様に裂く」
齋藤がそう言った瞬間、背後に、その【お嬢様】が立った。
「もう!! 齋藤!!」
艶のある茶髪が上品に後ろでまとめられ、お嬢様らしいゴスロリの黒いドレス。白い頬を紅潮させ、二人の執事を睨みつける。
「何回も言っているでしょう? 私はもう十八歳なの! 自分の身くらい自分で護れるわ! あなたたちは、架陰様を探して来なさい!」
彼女の名前は、【城之内華蓮】。
薔薇班の班長である。
「ですがお嬢様・・・、さすがに、貴方様を一人にするわけにはいきません・・・。それに、西原殿からもきつく言われていますので・・・」
そう言ったあと、齋藤はスマホの画面を横目で見た。
マップ上の、黄色い点が消えている。
(そういえば、西原殿は、「この黄色の点だけは絶対に追うな」と言っていたな・・・。消去法で言えば、副班長を指し示すことになるが・・・)
「ですので、桐谷が市原架陰殿を捕らえて来るまでは、私から離れてはいけません・・・」
「もう、わかったわよ・・・」
華蓮お嬢様は、頬を真っ赤にして、そっぽを向いた。
さしずめ、市原架陰に会えることを想像してあるのだろう。
ゴスロリのドレスを着た我が身を抱きしめ、くねくねと身体を揺らす。
「ああ、早く会いたい。私の架陰様・・・」
「そうですね・・・」
齋藤は横目で桐谷に合図をした。
今のうちに、雨宮クロナを倒してこい。と命令したのだ。
桐谷はこくりと頷くと、地面を蹴って行ってしまった。
「お嬢様。市原架陰殿の写真を見ますか?」
「もちろんよ!」
お嬢様は齋藤からスマホを受け取り、アルバムを開いて、そこに保存された架陰の写真を眺め始めた。
欠伸をする架陰。
戦う架陰。
戦闘服に着替えようとする架陰。
歩いている架陰。
寝起きの架陰。
すべて、齋藤の暗躍によって撮られたものだ。
(結構大変だったんだよな・・・)
お嬢様の要望により、架陰以外の者の写真は入れることが出来なかった。
そのため、架陰が一人になる時を狙って撮影をしたのだ。
「ああ、早く会いたい。早く会いたい・・・。そして、この方を、私の殿方に・・・」
顔を真っ赤にしてそう言うお嬢様を見て、齋藤は真顔で頷いた。
(このひと、結構狂ってるよな・・・)
その③に続く
その③に続く




