【第63話】薔薇班襲撃 その①
美しい薔薇には毒と棘
もうわかったでしょう?
「近づかないで」
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「・・・・・・・・・」
薔薇班の戦闘服である、黒いタキシードを着た男は、血まみれのカレンを抱えたまま、森の中を駆け抜けていた。
「申し訳ございません!!! カレン様!!」
必死に謝るが、カレンは目を閉じたまま動かない。
その瞬間、バラバラバラと、ヘリコプターの音が近づいてきた。
男の胸元のポケットに入ったトランシーバーが声を受信する。
『薔薇班の四席さん。その子はもう、戦闘不能ですよ?直ぐにこちらに引渡してください?』
「・・・、分かりました・・・」
ぴたっと走るのを辞める。
すると、頭上でヘリコプターが固定され、縄ばしごが降りてきた。
それを使って、スーツを着た女が降りてくる。
「・・・、では、そちらの方をこちらに・・・」
「お願いします」
薔薇班四席は、カレンを女に引き渡した。
女は、ぐったりとするカレンを脇に抱える。
「大丈夫ですよ。カレンさんは、直ぐに治療を受けます。死にはしません」
「はい・・・」
そう言われても、気が気ではなかった。
カレンがヘリコプターで運ばれて行くのを見て、薔薇班四席は、仮面の奥で歯を噛み締めた。
「申し訳ございません。カレン様。あなたを、お守りすることが、出来ませんでした・・・」
右手に握ったステッキの柄を強く握る。
「ですが、【あの方】にあなたが接触しなくて、本当に良かった・・・」
小さくなっていくヘリコプターを眺める。
「あの方の姿を見てしまえば、あなたは、本当に、心が壊れてしまうでしょうから・・・」
場面は移り変わる。
「ったく、西原さんはどこに行ったんですかね?」
薔薇班の黒いタキシードを身にまとった、低身長の男が、キョロキョロと辺りを見渡した。イタズラっぽい八重歯が光り、吹き付けた風に、特徴のない髪が揺れる。
「お嬢様をお守りしないといけないのに・・・」
「こら、桐谷。お前がそれを言うな・・・」
低身長の男の頭を、高身長の男が小突いた。
目は切れ長で、髪をオールバックに固めている。上品かつワイルドな雰囲気が漂っている、執事の格好をしている男だ。
桐谷と呼ばれた低身長の男は頭を押さえて、高身長の男を睨む。
「齋藤さんだって、人のこと言えないじゃないですか!! オレよりお嬢様の元に駆けつけるのが遅かったんですよ!!」
「飛ばされたところが遠かったからな。だが、その間に、二、三体のUMAを殺してきた」
「けっ!! オレなんか、四体ですよ!!」
「Cを四体殺して何になる? 私はAを三体だ」
「ああああああああぁぁぁ!! ムカつくぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
言い合いの喧嘩をしている二人は、薔薇班のメンバーである。
薔薇班・副班長・【齋藤】。
薔薇班・三席・【桐谷】。
二人が睨み合っていると、それを、穏やかな女性の声が宥めた。
「コラコラ、二人とも。喧嘩はダメよ」
その言葉に、二人はぴたっと睨み合うのを辞め、一斉に言葉を放った女の方に振り返った。
「西原はきっと来てくれるわ。あの人は、元班長だったものね。今頃、バッタバッタとUMAを倒してくれているのよ」
「そうだといいのですが・・・」
桐谷は下唇を噛み締めながら言った。
それを見て、女はくすりと微笑む。
「そんなことより、早く、殿方を見つけに行きましょう」
「そうですね」
齋藤が頷いた。
「お嬢様、既に下調べは終わっております」
そう言って、タキシードのポケットからスマートフォンを取り出した。
「開会式の時に、対象には発信機を着けて起きました。これを使えば、追跡できます」
「ありがとう。さすが齋藤ね」
「光栄の極み・・・」
お嬢様と呼ばれた女は、スマートフォンを受け取ると、画面に表示されているGPSのマップを確認した。
それから、一度ホーム画面に戻り、アルバムを開く。
スクロールしていくと、そこには、大量の写真が残されていた。
一面、桜班の下っ端である、【市原架陰】の写真。
市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰市原架陰
「ああ、早く会いたいわ。私の殿方・・・」
お嬢様は瞳をうっとりとさせた。
それを見て、齋藤と桐谷は深深と腰を折る。
「かしこまりました。直ぐに、市原架陰を連れてきます・・・。【城之内華蓮】様・・・」
その②に続く
その②に続く




