鎖に閉ざされし鬼の逆襲 その③
桜前線進行中
花吹雪接近中
染井吉野乃花盛
3
「ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁあああっっ!!!!」
狂華の右足首に、焼け付くような激痛が走った。
巻きついた鎖が擦れ合い、狂華の足首の肉を削ぎ落としていく。
血が吹き出し、骨に刃がくい込んだ。
背筋にかけて、電流のようなものか駆け抜け、脳髄に到達した途端、まるで火花が弾けるかのように、視界が点滅した。
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ!!!
鎖が唸りながらカレンの元へと返っていく。
狂華は苦痛に眼球を見開いて、喉の奥から引きつったような悲鳴をあげた。
ドサッと、背中から倒れ込む。
その様を見て、カレンは発情したように頬を紅潮させた。
「ふふふ、まずは足・・・」
まずは。ということは、攻撃は続くということだ。
狂華は「冗談じゃない」と思った。
足首のアキレス腱が切断され、血が噴水のように吹き出している。肉は、ミンチのように散り散りに切り刻まれ、白い骨が顔を覗かせていた。
「くそ、軸足をやられた・・・」
この程度の傷なら、回復薬を利用すれば治る。それか、能力【妲己】を発動させれば、完全に治癒する。
(だけど、まだ回復薬を使う訳には行かない・・・)
特に、後者の能力の発動は阻まれた。
狂華は、自分が悪魔の堕慧児であるということを、百合班のメンバーにはひたむきに隠している。
もちろん、ほかの班にもバレたくはない。
バレたら、即、討伐の対象になる可能性があったからだ。
例え、悪魔の堕慧児であろうと、この百合班の戦闘服を着ている間だけは、一人のUMAハンターでありたい。
それが、半分人間、半分UMAである、人間の方の狂華の感情だった。
「だけど、まずいわね・・・」
片足だけでも、幸い戦うことができる。軸足を左脚に変えればいいだけの話だ。
だが、戦闘能力は著しく落ちているのは確か。
特に、機動力がガタ落ちしていることだろう。
(これじゃあ、あのカレンの武器の攻撃はかわせない・・・)
カレンの【鎖に閉ざされし鬼の逆襲】の射程距離は半径二十メートルほど。
その中に入れば、四方八方から、刃が付いた鎖が襲いかかってくる。弾くことはまず不可能。弾いたところで、直ぐに起動を曲げて、死角から一矢報いに来るのだ。
(あの攻撃、まるで蛇・・・、いや、もっと恐ろしいものね・・・)
狂華は腹筋を利用した反動で、上体を起こした。
その瞬間、カレンが再び【鎖に閉ざされし鬼の逆襲】の長棒を振る。
ジャラジャラジャラジャラ!!!
鎖が生き物のように動き出し、狂華に迫った。
「くっそ!!」
「次は左足よお!!!」
狂華は刃下駄の刃を引っ込めて、踏み込みやすくすると、砂利を左脚で蹴って後退した。
だが、利き足ではない脚では上手く力が発揮出来ず、カレンの【鎖に閉ざされし鬼の逆襲】の射程から逃れることは出来なかった。
ビシッと、鎖が狂華の左足首に巻きついた。
「くそ、終わった!!」
狂華は負けを理解した。
さっきと同じだ。
カレンは長棒を引く。
鎖が足首にくい込み、肉を削ぎ落とす。
(ダメだ!!)
狂華は目を強く閉じ、これからやってくる激痛に耐える準備をした。
その時だ。
「狂華!!!」
森の奥から、女の声が響いた。
次の瞬間、薄紅色の刃の薙刀が一直線に飛んできて、カレンの長棒にぶつかった。
ギンッ!!
「何っ!?」
カレンの力が緩む。
それに呼応して、狂華の左足首に巻きついた鎖が緩んだ。
「しめた!!」
狂華は直ぐに足を引いて、鎖の束縛から逃れる。
木々の影から、狂華の同じ、百合班の戦闘服を身にまとった女が飛び出した。
その姿を見た時、狂華の顔が朝日に照らされたかのように明るくなる。
「は、班長!!!!」
それは、狂華の上司にあたる者だった。
「待たせたわね!! 狂華!!!」
百合班班長、【香久山桜】
突如、部下のピンチに駆けつけた、百合班の班長は、カツカツと下駄を踏み鳴らして、カレンに接近した。
まとめていない、長い長い黒髪が、翼を広げた鳥のようにバサバサとうねる。
地面に落ちた薙刀を、素早い動きで拾い上げた。
「よくも、私の部下をいたぶってくれたわね!」
「あら、あなたも死にに来たの?」
カレンは動揺することなく、逆に、切り刻める相手が増えたからか、余計に興奮したような笑みを浮かべた。
標的を、狂華から、百合班の班長へと切り替える。
「【鎖に閉ざされし鬼の逆襲】!!!」
長棒を振って、二十メートルはある鎖を操った。
だが、初見だと言うのに、百合班の班長はうろたえない。
薙刀を中段に構え、流麗な動きで振った。
「喰らえ!! 名刀、【ソメイヨシノ】!!!」
第62話に続く
狂華「班長!! 来てくれたんですね!!」
香久山「ええ、あなたのピンチに駆けつけたわ」
狂華「すごく心強いです!! 一緒に戦いましょう!!」
香久山「あなたはここで見ていなさい。私の班長たる威厳を見せつけてあげるわ」
狂華「凄い自信!!」
香久山「よしよし。痛かったわね。もう大丈夫だからね」
狂華「次回、第62話【名刀・ソメイヨシノ】!!」
香久山「さあ、鬼狩の時間よ」




