青鬼VS架陰&山田 その③
覚悟とは口に出す言葉ではない
自らの血肉を差し出して盟約するものだ
3
「刀に、神経性の毒を塗っている。今にもお前は、戦闘不能になるぞ?」
青鬼はニヤリと笑った。
炎で奴らの視界を封じて、変わり身の術で山田を引きつける。
そして、架陰の背後に回り込んで、この、毒がたっぷり塗られた刀を叩き込む。
作戦通りだった。
架陰は背中に傷を覆い、その傷口から、神経毒が体内へと入った。
この神経毒は、UMA用。死にはしないが、直ぐに視界が混濁して、意識は沼に呑み込まれるように消えていく。
詰みだ。
詰みなのだ。
「さあ、桜班の市原架陰は終わった。あとは椿班の副班長、お前だけだ」
青鬼は刀の鋒を山田に向けた。
山田は無表情のままだったが、頬からつうっと汗が伝う。
その様子を見て、また、ニヤリと笑った。
「分かるぞ。分かるぞ。お前は今。動揺している。自分が信じて、共闘を願い出た男か殺られ、動揺している・・・」
勝ちだ。
勝ちなのだ。
今の、一瞬の攻防でわかったことだ。
山田には武器がない。素手で戦ってくる。
対して、青鬼は武器を所持している。この短刀だけでは無い。手裏剣も、クナイも、火薬だって装備しているのだ。
「詰みだ。副班長よ。オレは、お前に勝っている。断言してやる。お前は負けている・・・」
「・・・、そうですか・・・」
山田は静かに頷いた。
「では、私も断言しましょう。貴方は、負けていると・・・」
「なんだと?」
青鬼は鼻で笑った。
主戦力の架陰がやられたというのに、よくもそんな軽口が叩けることだ。
次の瞬間。
ざわり、青鬼の背中に、刺すような殺気が浴びせられた。
「何!?」
青鬼は勘だけで短刀を振るった。
ギンッ!!
刀を握る手の中に、重い衝撃が加わった。
「くっ!! 仕留め損ねた!!」
「お前は!!!」
青鬼に背後から襲撃してきたのは、毒を仕込んだはずの架陰だったのだ。
「貴様っ!! なぜ毒を入れられて動ける!!」
青鬼は動揺に満ちた声をあげた。
あの神経毒は強力だ。先程倒した、木瓜班の人間だって、一撃を食らって、たった十秒で気絶に至っていた。
架陰に毒を入れて、どれだけ経った?
約一分。
一分だ。
それなのに、架陰はあの距離から、気配を消して、青鬼の首の裏にピンポイントで斬撃を当てようとしてきた。
「毒がきいていないのか!!」
「効いてるよ!!!!」
架陰は宙で身を捩ると、名刀赫夜を振った。
ギンッ!!
青鬼の名刀毒華が防ぐ。
「くっそ!!」
架陰は床に足を着くと、低い姿勢から斬り込む。
ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!ギンッ!!
二人は激しい剣戟を繰り広げた。
架陰は目を見開き、充血した眼球で青鬼を睨む。
歯を食いしばり、消えゆく意識に鞭を打って、刀を振った。
「舐めるな!!」
青鬼が下がる。
その瞬間、架陰はグラッとバランスを崩した。
「やはりきいているな!! 気合いで意識をつなぎ止めているだけか!!」
そんな根性論で負けてたまるか。
青鬼は懐から手裏剣を抜き取ると、素早く投擲した。
架陰はそれを刀で弾く。
そして、そのまま、自らの肩に刃を突き立てた。
「ぐっ!!」
赫夜の刃が、架陰の肉を突き破り、血を噴出させる。
架陰の切れかけていた意識が、つなぎ止められた。
「こいつ!! 自分で自分を攻撃して、目を覚ましただと!?」
「覚悟だ!! 僕には覚悟がある!!!」
青鬼は知らなかった。
架陰が、前回の【架陰奪還作戦】で、想像を絶する悪夢を見てきたということを。
架陰は一度死んでいる。
夜行に心臓を握りつぶされて死んでいる。
夜行に腹を刺され、腸をえぐり出された。
鼓膜を潰した。
こんな生半可な神経毒程度では、動じなくなっていたのだ。
「こんなもの!! 効いても効かない!!!」
意識が飛びそうになったからなんだ?
身体を傷つけて、目を覚ませばいい。
多少のダメージは、敵を倒すための代償と思え。
「僕は、お前みたいな!! 姑息なやり方でしか勝てないハンターじゃない!!!」
「くっそ!!」
青鬼はさらに後退した。
だが、架陰は緩急を入れることなく間を詰めてくる。
「だったら!!」
青鬼は懐から、紫色の手裏剣を取り出した。
奥の手だ。
象すらも、卒倒する超強力な神経毒を塗りたくった手裏剣。
これで、やつにトドメをさす。
「火炎!!」
まずは、炎を放って視界を奪う。
そして、完全なる死角から、この手裏剣を投げるのだ。
「勝った!!」
勝ちなのだ。
詰みなのだ。
過程が変わろうと、その結果は変わることは無い。
「死ねぇ!!」
ギンッ!!
煙幕に使った炎の奥で、金属が弾ける音がした。
「え?」
まさか、刀で防いだというのか?
そんな馬鹿な。
その瞬間、炎の奥から、今しがた自分が投げた手裏剣が飛んできた。
ドスッ!!
手裏剣の刃が、青鬼の肩に突き刺さる。
「がはっ!!!」
象をも卒倒させる毒。
青鬼は白目を剥いて倒れたのだった。
第60話に続く
残り【77人】
第60話に続く




