青鬼VS架陰&山田 その②
藍色の絨毯に
子供が宝石をばらまいたような
空の下で
2
「忍者ってのはな、いかに敵の意表を突いて、いかに早く殺すことが大切なんだよ・・・」
青鬼の顔を覆う黒装束の奥の口がニヤリと笑った。
指をパチンと鳴らすと、その先で小さな炎が上がる。
「オレは、身体のあちこちに火薬を仕込んでいる。それを、任意のタイミングで着火して、炎を放つことができるんだよ・・・。もちろん、この戦闘服は耐火性能があるからな。貴様らの戦闘服もそうだろう? だが、火薬の爆発は、単なる正拳突きでも威力をあげることができる・・・」
そう言って、山田に火傷を負わせ、架陰を正拳突きで吹き飛ばしたことの説明をした青鬼は、右手で刀を握り、左手を鉤爪のような形にした。
「さあ、直ぐに終わらせてやる・・・」
「くそっ!!」
架陰はめり込んでいた壁から背中を剥がすと、床を蹴って青鬼に斬りこんだ。
青鬼は涼しい顔をして、左手を振るう。
黒装束の袖から、黒い粉・・・、火薬が巻かれた。
パチンと指を鳴らした瞬間、その火薬に引火して、真っ赤な炎を上げる。
「くっ!!」
架陰は着物の袖で口を覆った。
炎を吸い込んでしまうと、喉の粘膜が焼けてしまうからだ。
「名刀【毒華】!!!」
炎を斬り裂いて、青鬼が短刀を振り下ろす。
ギンッ!!
何とか殺気を感知して、赫夜の刃でいなした。
「まだまだ!!」
青鬼は畳み掛ける。
だが、横から山田の手が伸びてきた。
直ぐに顔を逸らす。
山田の爪が、青鬼の右目のこめかみ辺りを掠めた。
カッと熱いものが走り、血が吹き出す。
「ちっ!!」
青鬼は架陰を襲うのを辞め、山田へと目標を定めた。
すうっと姿勢を低くして、山田の広い腹に左手を押し当てる。
かなり硬い腹筋だ。
「はあっ!!」
腕に仕込んだ火薬を炸裂させる。
ドンッ!!!
山田の腹で、強烈な爆発が巻き起こった。
「ぐっ!」
山田は唸り声を上げてよろめいたが、吹き飛ぶには至らなかった。
「お前、硬いな!!」
「それはどうも!!」
山田が豪腕を振り上げた。
放たれた拳が、青鬼の右肩にめり込む。
見事なカウンターだった。
ミシミシと、鎖骨辺りの関節が軋んだ。
「ぐっ!!」
青鬼は歯を食いしばったが、耐えきれずに殴り飛ばされた。
先程の架陰と同じように、壁に叩きつけられる。
「架陰殿!! 叩き込みましよう!!」
「はい!!」
山田と架陰が迫る。
青鬼は舌打ちをして、火薬を四方八方に撒き散らした。
「火炎霧!!」
それに引火させて、炎の壁を作り出す。
「うわっ!!」
架陰はビタッと、炎の前で立ち止まった。
炎は気をつけなければならない。
単に焼いてくるだけではなく、目くらましにも利用できるからだ。
思い出すのは、【架陰奪還作戦】時の、架陰と夜行との戦い。
夜行は、炎を使って架陰の視界を遮ったあと、背後から架陰の背中を貫き、心臓を握りつぶしたのだった。
(集中しろ!! 敵は必ず、炎に紛れて攻撃をしてくる!!)
架陰は【魔影】の能力を発動させた。
架陰の眼球に魔影が集まり、白目の部分が真っ赤に染まる。
魔影壱式【魔影眼】。
これを使用している間は、反射神経が爆発的に上昇する。
「殺気!!」
炎から、三枚の手裏剣が飛んできた。
架陰は名刀【赫夜】の刃で三枚の手裏剣を弾く。
「手裏剣は陽動だ!!」
炎の壁から、青鬼が飛び出した。
クナイを握りしめ、架陰へと一直線。
「架陰殿!!」
山田が架陰の前に立ち、振り下ろされたクナイを受け止めた。
「捕まえた!!」
「甘い!」
その瞬間、青鬼の身体から白い煙が放たれた。
青鬼に身体を捉えていたはずの山田の手の中から、青鬼の【身体】の感触が消え失せる。
「っ!?」
「知らないのか? 忍者ってのは、【変わり身の術】を使えるんだぞ?」
架陰の背後に、青鬼が立つ。
「いつの間に・・・!?」
「終わりだ!!」
青鬼は一瞬の間に、握りしめた短刀を振り上げた。
架陰の背中がカッと熱くなり、生温い血液が吹き出した。
青鬼の攻撃は終わらない。
その血が吹き出す傷口に、左手を押さえつけた。
「火薬、着火!!!」
ボンッ!!!!
架陰の背中で火薬が爆発する。
「架陰殿!!」
その爆風に煽られ、架陰は吹き飛ばされた。
まるで水切りの石のように、廊下の床の上を数回跳ねた。
教室の柱にぶつかって止まる。
「くっ、そ・・・」
架陰は刀を床に突き立てて立ち上がった。
この程度の傷、あの程度の爆発で、戦闘不能にはなれない。
「まだまだ・・・」
そう、身体に鞭を振って、青鬼に斬りかかろうとした。
ズキンッ!!と、架陰の背中が痛む。
「ぐっ!!」
架陰は片膝を立ててうずくまった。
青鬼はニヤリと笑った。
「刀に、神経性の毒を塗っている。今にもお前は、戦闘不能になるぞ?」
その③に続く
残り【78人】
その③に続く




