【第59話】青鬼VS架陰&山田 その①
海のような空の下で
月のような太陽を眺めている
1
「この方は、我らが班長の【堂島鉄平】が認める実力の持ち主です。貴方は今にも、ポイントとなり、架陰殿桜班の優勝への糧になるでしょうね・・・」
山田が静かな、それでも、はっきりとした意志を持った口調でそう言った。
それを聞いた藤班副班長の東堂樹、コードネーム青鬼は高らかに笑った。
「はははは!!! 面白い!! このオレを倒してポイントにする気か!!」
笑いがピタリと止む。
「しかも、敵同士のはずの椿班が、弱小の桜班に対して言っている。これもまた一興・・・。椿班は、世界を救った世代の【火村味斗】が総司令官となったと聞いていたが、ここまで、他者に媚びを売る者だとは思わなかった・・・」
そう言って、腰に差した脇差を抜いた。
わずか三十センチ程の短刀。刃は、毒々しい紫色をしていた。
「ならば、その実力を見せてみろ」
「もちろん・・・」
山田はグローブのように大きな手をバキリと鳴らした。
架陰も、腰の刀を抜く。
桜班下っ端【市原架陰】
&
椿班副班長【山田豪鬼】
VS
藤班副班長【東堂樹】
両者の間に、糸を張ったような、緊迫した空気が流れる。
まるで身を刺されるような殺気が、無差別に辺りを行き交う。
天井の一部が崩れ、小さな破片が床に落ちた。
「参る!!」
先に動いたのは、青鬼。
忍者の黒装束を身にまとった青鬼は、消音性能のある足袋で床を踏みしめ、ぬらりと架陰に接近した。
「名刀【毒華】!!!」
「名刀【赫夜】!!!」
ギンッ!!
二人の刀の刃が衝突する。
青鬼は、細い身体ながら、さらに強く踏み込んで架陰を押した。
刃と刃が擦れ、不快な音を立てる。
「へえ、なかなかいい刀を使っているじゃないか・・・」
「くっ!! 重い・・・!!」
「だが、オレの名刀【毒華】の敵じゃない!!」
そう言うと、青鬼は押し込んでいた刃を引いた。
いきなり力を抜かれた架陰は、押し相撲のように前のめりになる。
バランスを崩したそこに、青鬼の短刀が振られた。
「くっそ!!」
架陰は咄嗟に身体を仰け反らせ、その刃を躱す。
(躱したか・・・)
青鬼は心の中で舌打ちをした。
我々、藤班の戦闘モットーは、【静かに殺す】こと。
毒を使い、音を立てずに、誰にも気づかれないように、殺す。
忍者の戦闘服も、その意志の現れ。
周りも者が「卑怯」だと言おうが、関係の無いことだ。
我々が相手にしているのは、UMA。未確認生物だ。
それを倒す過程で手に入れたこの暗殺技術を、人間に対して使っている。ただそれだけだ。
(長引かせん!!)
長期戦には持ち込まない。
この、神経毒をたっぷりと塗りたくったこの【毒華】で、勝負を決める。
「えっ!!」
次の瞬間、青鬼は壁に叩きつけられていた。
(なんだと!?)
何が起こった?
顔を上げて見れば、山田がファイティングポーズをとっていた。
「架陰殿に夢中になっていたので、少し、ゲンコツを食らわせて頂きました・・・」
「なんだと・・・」
青鬼は直ぐに壁から身を剥がして、体勢を整えた。
視界がグラッと揺れる。
「これは、脳震盪・・・」
「はい。私の腕力があれば、簡単なことです・・・」
「くっそ!!」
青鬼は遠のきかける意識を繋ぎ止めると、床を蹴って距離を置く。
「逃がしません!!」
「逃がさない!!」
架陰と山田が追いかけてくる。
青鬼は懐から注射器を取り出すと、自らの肩に刺した。
ぐっと、中に入っていた液体を体内に注射する。
「あれは、回復薬!?」
「違う、【気付け薬】だ!!」
ふらついていた青鬼に知識がはっきりとする。
肩から注射器を抜くと、空になったそれを、架陰目掛けて投げた。
まるでダーツのように、鋭い投擲。
「はっ!!」
架陰は咄嗟に刀で弾いた。
その隙に、青鬼が架陰との間合いを詰めた。
「愚かな。毒の塗られたこの刀を警戒するのならまだしも、空になり、無毒であることが証明されている注射器を防ぐとはな・・・、そのしくじりで、お前は、オレに隙を見せた!!」
架陰に向かって刀を振る。
死角から豪腕が伸びてきて、青鬼に腕を掴んだ。
山田だ。
「愚かな・・・、架陰殿に気を引かれて、私の方の注意が散漫になるとは・・・」
「愚かなのはお前の方だ!!」
その瞬間、青鬼の細い腕を掴んでいた山田の手の内側がカッと熱くなった。
「っ!?」
思わず、手を離す。
見れば、山田の手のひらに、真っ赤な火傷の痕が残っていた。
「これはっ!!」
困惑する山田の左頬に、青鬼に回し蹴りが炸裂する。
吹き飛ぶまでには至らなかったが、山田はグラッとバランスを崩した。
「火炎拳!!」
そう叫び、架陰の懐に正拳突きを叩き込む青鬼。
次の瞬間、架陰の腹と、腹に触れる青鬼の手のひらの間で爆発が起こり、架陰を吹き飛ばした。
「がはっ!!」
架陰は唾を吐いて、奥の壁に激突する。
「オレは忍者の格好をしているんだぜ? 暗器くらい見抜けって話だ・・・」
そう言って、青鬼は、先程の正拳突きで発火した腕の袖を切り落とした。
「オレの身体のあちこちに、火薬が仕込まれている。それはそれを任意で発火させて、炎を発生させているんだよ・・・」
その②に続く
その②に続く




