架陰と山田 その②
天井の隙間に蠢くは
闇に縫い付けられた蜘蛛
手を伸ばせば牙を向け
うねる腹より糸を吐く
2
突然背中を叩かれた架陰が振り返ってみると、そこには、椿班副班長、山田豪鬼が立っていた。
「お久しぶりですね、架陰殿」
「あ、お久しぶりです・・・」
架陰はぺこりと頭を下げる。
二メートルはある体躯が、架陰を見下ろした。
丸メガネが、白く輝く。
(ちょっと苦手・・・)
これだけ威厳のある姿をしているというのに、山田は架陰に対して下に出る。もちろん、班長である鉄平にもだ。
「そう固くならないでください。架陰殿。私はあなたに会えて少し安心しているのです」
「安心?」
架陰はぱっと顔をあげた。
山田はメガネを押し上げる。
「あの門をくぐった瞬間、ここに飛ばされましてね。鉄平さんも、真子も八坂も居ない状況で、困り果てていたのですよ。ですが、顔見知りであるあなたを見つけて、一安心です」
「あ、ああ」
実を言うと、架陰も少し安心していた。
「本題に入りましょう」
山田は、防砂林を抜けた先に佇む、校舎を指さした。
「見てください、あの古びた校舎を・・・」
「あれが、どうしたんですか?」
レプリカとは言え、かなりリアルに造られている。外装の汚れ具合とか、割れた窓ガラスとか。
あと、校庭の雑草とか。
「先程、一匹のUMAが校舎内に侵入したのです・・・」
「え」
架陰は首をグルンと回して、山田を見た。
なぜ、そんなことを教えてくれるのか。
「どんな姿でした?」
「ゴートマンです」
「ゴートマン?」
架陰の記憶が蘇った。
蛇山での、白蛇討伐任務の時に、桜班一行に奇襲をかけてきた人型UMAだ。
「ゴートマンは、Aランク。倒せば、三ポイント入りますよね・・・」
「もしかして、協力してくれって言ってます?」
「いいえ。私が協力するのです」
「へ?」
「ここは、ギブアンドテイクと行きましょう。さすがに、ゴートマンを一人で倒すのは難しいです。そのため、私が架陰殿に手を貸します。その代わりに、次に遭遇したUMAの討伐権を私にください・・・」
ギブアンドテイク。
つまり、架陰がUMAを倒すのを手伝う代わりに、次に遭遇したUMAの討伐を、架陰が手助けするということだ。
「無理なら構いません。私はCランクを探してちまちまと狩ります・・・」
「やりましょう」
架陰は力強く頷いた。
山田は少々面を食らったようだった。
「いいのですか?」
「はい。もちろん、僕も山田さんを援護しますから、二人の方が、狩るスピードも早くなりますよね?」
確実に三ポイントが手に入るのだ。
この交渉、乗らない手はない。
「そうですか」
山田は架陰に向かって、深深と頭を下げた。
「感謝致します」
「あ、はい・・・」
やはり、ここまでの巨体の男に感謝されるのは、不思議な感覚だった。
「とにかく、乗り込みましょう!!」
「はい。私が援護します」
同盟を結んだ架陰と山田は、校舎へと乗り込んで行った。
律儀にも正門を潜り、玄関から中に入る。
扉のガラスは粉々に破壊されていて、踏み込んだ瞬間、足元でパキリと破片が砕けた。
心做しか、空気の温度が三度下がった気がした。
「とりあえず、私が目撃したゴートマンを探しましょう・・・」
「そうですね・・・」
架陰は落ち着きなく辺りを見渡した。
手持ち無沙汰なのが落ち着かず、腰の刀の柄を握りしめる。
その校舎は、上空から見れば、『H』の形をしていた。
今、彼らがいるのは、『H』の真ん中の線の部分だ。
「まずは、右に行きましょう!!」
架陰は勘を働かせて、右へと進路を変更した。
山田はコクりと頷いて着いてくる。
二人は一階を一通り見て回ったが、ゴートマンも、UMAの気配も感じ取ることは出来なかった。
「どこにもいませんね・・・」
「そうですね」
山田はメガネを押し上げた。
「では、二階を見て回りましょう・・・」
ちょうど目の前に、二階への階段が立ち塞がっていたのだ。
ところどころ、天井が崩れていて、瓦礫が散乱している。
砂埃は積もっているものの、足跡を見つけることは出来なかった。
二人で並んで、階段を上る。
その時だった。
架陰の懐に入れたトランシーバーが、震える。
山田の赤スーツの内ポケットに入れたトランシーバーが震える。
「・・・、なんでしょう・・・」
二人で同時にトランシーバーを取り出した。
液晶に、【残り78人】と表示されている。
「残り、78人?」
まさか、もう二人が脱落したというのか?
「参加班は合計で二十班です。つまり、八十人の参加。二人、戦闘不能になったようですね・・・」
山田は無機質な声で言った。
「出来れば、真子や八坂でないことを祈りますが・・・」
「僕も、響也さんとか、クロナさん、カレンさんじゃないことを祈ります・・・」
「残念、オレたちが殺ったのは、【木瓜班】の三席と四席だ・・・」
「っ!?」
「何っ!?」
頭上から、しわがれた男の声が降ってきた。
咄嗟に顔をあげる。
天井から、忍者の黒装束の着物を身にまとった男がぶら下がっていた。
その手には、顔を真っ青にした、二人の男が掴まれて、ブランコのようにぶらぶらと揺れている。
「お前はっ!?」
「こんにちは」
忍者の姿をした男が、ぱっと手を離す。
戦闘不能になった男が、二人、床の上に落ちた。
「俺の名前は、【藤班】副班長の、東堂樹。コードネームは、青鬼とでも名乗っておこうか・・・」
その③に続く
残り【78】人
ハンターフェスルール追加
・CランクのUMAは【1】ポイント。BランクのUMAは【2】ポイント。AランクのUMAは【3】ポイント。
そして、人間は【10】ポイントである。




