開幕式 その③
チューベローズの花束を送る
快楽の園に堕ちていく
3
『さあて、今から、ルールの説明を始めます・・・』
天井の足場で、スフィンクス・グリドールがニヤリと笑った。
細長い腕で、観音開きに開かれた門の先を指さす。
その先には、鬱蒼とした森が広がっている。
『ルールは簡単!! この先の、私の私有地の中に放たれたUMAを倒すことです!!!』
それを聞いて、響也が「まあ、そうだな」と、予想通りだと言うように頷いた。
そもそも、ここに車での道中で、村瀬に説明を受けたところだったのだ。
「UMAハンターがUMAを狩らないでどうすんだって感じだな・・・」
確かに、UMAハンターの能力を上昇させるための目的の大会なのだから、UMAを相手にしないと意味が無い。
さしずめ、UMAをより多く倒した班が優勝なのだろう。
スフィンクス・グリドールは続ける。
『UMAを倒す事に、ポイントが貰えます!! Cランクなら一ポイント!! Bランクなら二ポイント!! そして、Aランクなら三ポイントです!!』
村瀬の言っていた通り、ポイント制。
CランクのUMAを多く倒して、ポイントを乱獲すふか、Aランクに絞って、一気にポイントを稼ぐか・・・。
はたまた、遭遇したUMAを一気に倒すのか。
戦い方で勝敗が分かれそうなルールだ。
『なお、UMAハンターは、安全のために、戦闘不能になった時点で脱落となります!!』
「脱落?」
『耳をすまして見てください!!』
そう言われ、ざわついていたUMAハンター達がしんと静かになった。
バラバラバラバラ・・・。
「この音は?」
ヘリコプターのプロペラが回転する音が、スフィンクス・グリドールの私有地の方から聞こえた。
『あれは、私がチャーターしたヘリです。あの場から、皆さんを監視させていただきます。そして、戦闘不能になり、命の危機に陥った場合には、即刻回収させていただきます!!』
なるほど。
安全面には一応気を使っているらしい。
戦闘不能になれば、動くことが出来ない。そうすれば、UMAに狙われてしまう。その前に、回収するのだ。
『なお、戦闘中、各一人に【支給品】が与えられます!!』
「支給品?」
『支給品です!! 皆さんは、いつも、連絡用の【トランシーバー】を所持していると思いますが、それを通して、私に連絡を頂きましたら、ヘリから一度だけ支給品を落下させることができます。支給品の種類は主に、【武器】や、【回復薬】、【戦闘補助用品】などですね!!時と場合により、考えて使いましょう!!』
そう言われ、架陰は着物の懐に入ったトランシーバーの感触を確かめた。
連絡用に使われるトランシーバー。
これを使えば、一度だけ支給品を得ることができる。
怪我をすれば、回復薬。
武器を失えば、武器。ということか。
ちなみに、懐には回復薬の桜餅が既に入っていた。
スフィンクスグリドールが手をパチンと叩いた。
『ルールの説明は以上です!! それでは、これより、【ハンターフェス】を開幕します!!』
その瞬間、スフィンクス・グリドールを照らしていたスポットライトが逸れて、戦場の入口を照らしだした。
『行け』と言っているようだった。
『五分以内に、門をくぐって、私の私有地へと入ってください。全員が出た時点で、戦いは始まります!!』
そう言われても、ハンターたちの足が動くことはなかった。
やはり、未知の場所に足を踏み入れることには勇気が必要だった。
四天王の一人が作り出した場所だ。どんな危険なUMAが潜んでいるか分からない。
『早く行かないと、ハンターとしての資格を剥奪しますよ?』
悪意のこもった声が降ってきた。
その言葉に背中を蹴飛ばされ、ようやく集団が動き出した。
人混みの流れが出来て、門へと流れていく。
「僕達も行きましょう!!」
架陰は腰に差した名刀赫夜を握りしめ、響也の方を見た。
響也は気だるそうに頷く。
「行くしかないな・・・、あまり腑に落ちないがな・・・」
いつの間にか、アクアが消えていた。
総司令官は参加出来ないルールらしい。
ぞろぞろと、何十人ものUMAハンター達が、入口に向かって歩いていく。
架陰も、響也も、カレンも、そして、クロナも、その流れに乗って歩いた。
心臓の音が早まっていく。
これから、ハンターフェスが始まるのだ。
「沢山UMAを狩って、優勝するぞ・・・」
「そうねぇ」
カレンがニッコリと微笑んだ。
「せいぜい死なない事ね」
クロナが架陰に向かってイタヅラっぽく言った。
響也は黙ったまま歩く。
四人は、戦場への門を、くぐり抜けた。
「あれ?」
気がつくと、架陰は岩の上にたっていた。
「あれ?」
辺りを見渡す。
まるでピラミッドのように切り出せれた岩の上。
その周りは、砂漠のような黄土色の地面が広がっている。
はるか先に、森。
「なんで?」
響也。カレン。クロナが消えた。
いつの間にか消えている。
「僕は、門をくぐったはずじゃあ・・・」
間違いない。
自分は門をくぐったのだ。
その時、隣には仲間がいた。
はぐれることなどないのだ。
バラバラバラバラバラバラ・・・。
青い天蓋の下を、ヘリコプターが飛行していた。
トランシーバーが、音声を受信する。
スフィンクス・グリドールの声だ。
『なお、あの門には、私が開発した【異次元転移装置】が組み込まれていますので、入った瞬間に、別の場所に飛ばされます!!』
「え?」
『メンバーとバラバラになるという想定外の事態でも、冷静に対応するのがUMAハンターです。一人の状態で、頑張って仲間を探しつつ、UMAを狩りましょう!!』
そう言って、音声が途切れた。
つまり、架陰は仲間から引き離された。
他の班も同様に、仲間から引き離された、バラバラの場所へと転移されたのだ。
「つまり、この状態で戦うのか・・・」
架陰は全身の血の気が引いていく感覚に襲われた。
あちこちで、獣が鳴くような声が聞こえる。
「まじか・・・」
ハンターフェス、開幕。
残り、【80】人。
第58話に続く




