【第57話】開幕式 その①
ドッペルゲンガーは笑わない
つまり私のことだ
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「この先にお進み下さい」
壁の奥に続く通路を指さして、村瀬は一礼した。
桜班の五人は、迷うことなく通路へと足を踏み入れた。
「綺麗なところですね・・・」
白い床は、ワックスが掛けられ、鏡のように歩く者を反射していた。
百メートルほど進むと、体育館のような広い空間に出た。
「うわっ!!」
架陰は思わず声を出していた。
それもそのはずだ。
そこには、数多のUMAハンター達が集結していたのだ。
「凄いな・・・」
響也もうつむき加減に、その壮観に感嘆の声をもらしていた。
「こんなにUMAハンター達が集結しているのを見たのは初めてだ・・・」
UMAハンターは、【班】に分けられ、各地域へと派遣される。そして、【班】のユニフォームとも言える、【戦闘服】を支給されるのだ。
戦闘服は、班によって形が違う。
桜班は着物で、椿班は赤スーツである。
その体育館のような広大な空間には、色々な種類の戦闘服を身にまとったUMAハンター達で溢れかえっていた。
花魁のような豪華絢爛な着物を身にまとった者たち。
忍者のような黒装束を装備した者たち。
中世ヨーロッパを想起させる、鉄の鎧を装備した者たち。
黒いタキシードに身を包んだ者たち。
研究者のような、白衣を羽織った者たち。
「すごいわね」
アクアが頷いた。
「【百合班】に【菊班】、【向日葵班】もいるわ・・・」
「知っているんですか?」
「一応、下調べはしておいたから」
架陰は、首筋を刺すような視線を感じ取った。
(え?)
横目で、辺りを見渡す。
心做しか、他のUMAハンター達から見られているような気がした。
特に、あの黒いタキシードを着た男。
気味が悪くなり、思わずカレンの背後に隠れる。
「あらぁ、どうしたの?」
突然自分の背中に隠れた架陰に、カレンはニコッと笑いかけた。
「いや、見られているような気がして・・・」
「見られている?」
「はい、気のせいかもしれないてますけど・・・」
そう言うと、クロナが架陰の頭を小突いた。
「気のせいじゃないわ」
そのまま架陰をカレンの背後から引き剥がし、自分の背中に隠す。
「誰かに見られてる。私も、気配を感じたわ・・・」
「だからと言って、架陰くんを自分の背中に隠す意味があるのかしらぁ?」
「いえ、カレンさんには迷惑をかけられないので・・・」
クロナの頬が少し染まる。
カレンはその様子を微笑ましく見ていた。
「そういえば・・・」
響也が思い出したように口を開いた。
カレンの方を見る。
「お前、今日は、西原さんはどうしたんだ?」
西原とは、城之内家のお嬢様である、【城之内カレン】の執事を務めている老人のことだ。
「いつもなら、お前の傍に控えているはずだが、今日は、登校してきた時もいなかったじゃないか」
「そうなのよぉ・・・」
カレンは頬をぷくっとふくらませた。
「西原、三日前から、『有給をください』って言うものだから・・・」
「執事って、有給とるんだな・・・」
「西原がいないおかげで、リムジンに乗れなかったから、遅刻しそうになったわぁ」
「お前はもう少し自分の力で日常生活を送ることを覚えることだな・・・」
そうやって、終始脱力するような会話をしていると、五人のもとに、バタバタと走ってくる者がいた。
「かいーん!!!」
「あ、鉄平くん」
椿班班長の、堂島鉄平だった。
「久しぶりだぜ!!」
そのままの勢いで、架陰に飛びつく。
「久しぶりだなぁ!! お前らもハンターフェスに招待されていたんだな!!」
「う、うん」
架陰は鉄平を引き剥がした。
「椿班も招待されていたんだね」
「おう!! バンイップ討伐の時の功績が評価されてな!!」
バンイップ戦。
架陰と鉄平が再開した任務のことだ。
「オレと架陰の感動の再会だったからな!! 嬉しいぜ!!」
「ああ、うん・・・」
殺気に満ちた空間に、鉄平の陽気な声が響き渡る。
これでまた、架陰は周りから見られることとなった。
「こら、大人しくしなさい」
聞き覚えのある声。
椿班総司令官の火村味斗が、鉄平の赤スーツの首根っこを引っ張って、架陰から引き剥がした。
「あ、味斗さん!」
「ごめんね、架陰くん、うちの鉄平が迷惑をかけて」
「い、いえ、とんでもない・・・」
「じゃあ、僕達はこれで」
味斗は、桜班に一礼をすると、鉄平を引きずったまま、人混みの中へと消えて行ってしまった。
「あいつ、何しに来たんだ?」
「さあ・・・」
しばらく雑談をしていると会場の照明が落ちた。
「?」
突然の出来事に、会場は水を打ったように静かになる。
ギリギリと、何かの機会が駆動するような音がしたと思えば、スポットライトが照射された。
白い光が、会場の天井付近に吊り下げられた足場に立つ男を照らし出す。
「みなさーん。こんにちは!!」
白い光を一心に浴びて、男が叫ぶ。
「私は、【四天王】の、スフィンクス・グリドールです!!!」
その名を聞いた瞬間、会場のUMAハンター達がいっせいにざわつき始めた。
「四天王?」「スフィンクスグリドール?」「なんでそんなすごい人がここに!?」「ご本人登場かよ!」
「あれが、四天王?」
架陰は首を擡げて、天井付近に立つ男を見上げた。
「この大会の主催者、【スフィンクス・グリドール】・・・」
その②に続く
その②に続く




