ハンターフェス編開幕 その②
月の裏側に立つ
サンタクロースはまだ帰って来ない
月の裏側に立つ
兎の餅はまだ焼けない
2
桜班専用の戦闘服である、「着物」を身にまとった四人は、アクアに連れられて、校門の前に立っていた。
直ぐに、黒塗りのマイクロバスがやってきて、並んだ五人の前に停車した。
右側の運転席が開き、舞踏会で被るような仮面を着けた女性が降りてくる。
スーツを着たその人は、「どうも、こんにちは」と、五人に向かって腰を折った。
「私は、【ハンターフェス】の案内人を勤めさせて頂く、【村瀬】と申します・・・」
アクアが一歩前に出て、村瀬と名乗った女にお辞儀をした。
「よろしくね。私は桜班の総司令官のアクアよ」
「はい、貴方様の話は、主人より聞いております・・・」
村瀬は機械的な返事をすると、右手に握っていたリモコンキーのボタンを押した。
マイクロバスの扉が開く。
「どうぞお乗りください。私が、【ハンターフェス】の会場へと案内します」
「ええ、よろしく頼むわね」
アクアが先陣を切って、マイクロバスへと乗り込んでいく。
村瀬がその背中に声をかけた。
「なお、座席にはアイマスクが置いてありますので、それをお着けください」
「え?」
マイクロバスに片足が入っていた架陰は、身を乗り出してバスの中を眺めた。
確かに、座席には黒いアイマスクが置かれていた。
「今から案内する場所は、極秘の場所であります。私が許可するまで、絶対にアイマスクを外さないでください・・・」
村瀬は丁寧な言葉で言った。
若干、腑に落ちない気持ちを抱えながらも、ふかふかの座席へと座った五人は、アイマスクを装着した。
「全員乗りましたね?」
桜班の五人が座り、アイマスクを装着したのを確認した村瀬は、運転席に座り込んだ。
エンジンをかけ、サイドブレーキを解除して、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
「それでは、今から出発します」
マイクロバスはゆっくりと動き出した。
「会場に着くまでに、私、案内人の村瀬が、【ハンターフェス】のルールについて説明させていただきます」
そう言って、村瀬は、これから始まる【ハンターフェス】という大会についての説明を始めた。
「ハンターフェスとは、四天王のスフィンクス・グリドール様が主催した、UMAハンター達の戦闘能力強化交流会です」
(強化交流会?)
架陰はアイマスクを着けたまま、一人で首を傾げた。
「ルールは簡単です。スフィンクス・グリドール様が所有する土地に放たれたUMAを狩るのです。UMAの種類によって、ポイントが割り振られ、合計ポイントが高い班が優勝となります」
「優勝するとどうなるんだ?」
響也が口を開いた。
村瀬はハンドルを切りながら答える。
「班のランクを上げることができます。また、スフィンクス・グリドール様からの直接の支援を受けることができます」
「直接の、支援?」
「はい。スフィンクス・グリドール様は、SANAのUMAハンター最強の称号【四天王】の一人です。その【多聞天】の称号を得るグリドール様から、直接の支援を受けることができるのです。例えば、武器の調達や、人員の派遣など、今の環境より、かなり充実したUMAハントを行うことができるようになるのです」
(支援ね・・・)
武器を得たり、人員を派遣することができる。
きっとそれは、名誉であることなのだろうが、あまりピンと来ない内容だった。
架陰は、今の環境に満足していた。
それは響也やカレン、そして、クロナも同じようだった。
「別に、そこまで支援してもらう必要なんて無いんだけどな・・・」
「そうねぇ。私も、今の場所で満足しているし、今更新入りを募集する必要もないわねぇ」
「そうですか」
村瀬は読み上げるように頷いた。
「ですが、大会への参加は強制です。これも、スフィンクス・グリドール様のご意向なので・・・」
「ご意向って・・・」
響也が心底不思議そうに呟いた。
「どうして、私たちは呼ばれたんだ? そこまで強い班ではないだろう?」
「いえ、桜班は、近頃目覚しい戦績をあげています。未確認であった【吸血樹】の討伐に始まり、荒くれ者として知られる椿班を従えた【バンイップ】の討伐。そして、10年前に雨宮黒真を殺した、凶悪UMAの【白蛇】の討伐。私の主人は、この急速な成長に感心されてましたよ」
「そうか・・・」
第三者から、客観的に褒められると、悪い気持ちはしなかった。
「なので、私の主人は、貴方達【桜班】を、今年のハンターフェスに招待することを決断したのです」
「ちなみに、他の班はどんな奴らがいるんだ?」
「【椿班】と、【薔薇班】、【向日葵班】に、【百合班】などが招待されています。他にも多くの班が招待されていますが、会場に着いてから自身の目で見た方が早いでしょう・・・」
「椿班も来るのか・・・?」
「はい、椿班の皆さんは、班長である鉄平の体術や、山田の剛腕。そして、真子と八坂の狙撃技術の連携がかなりの好成績を収めているため、今回、招待されました」
そう言って、村瀬はハンドルを切った。
「もうしばらくお待ちください。ハンターフェスの会場は、まだまだ先になります」
その③に続く
その③に続く




