【第56話】ハンターフェス編開幕 その①
血肉なんてもう食べない
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【架陰奪還作戦】から、一ヶ月が経った。
悪魔の堕慧児達との激闘で負った傷も癒え、ようやく元の日常。と言っても、毎日毎日UMAを狩る日々が戻ってきた。
「クロナさん!!そっちに行きました!!」
「はいよ!!」
架陰とクロナは、木々が鬱蒼と茂る山の中を駆けていた。
草木がガザガサと揺れたと思えば、褐色の体表を持った、平べったい蛇が飛び出してくる。
「来たな!! 【ツチノコ】!!」
クロナは腰の刀に手をかけ、こちらに向かってくる蛇に一閃した。
ツチノコは、「キャアッ!!」と鳴き、頭と胴体が両断された。
地面にべチャリと落ちる。
しばらくは胴体が暴れ回っていたものの、次第に動くのを止めた。
「よし、討伐完了ね!」
クロナはトドメと言わんばかりに、ツチノコの死骸に刀を突き立てた。
そして、30分後。
「お、いたいた!! おーい!! クロナさん!! 架陰くん!!」
草木をかき分け、SANA未確認生物研究機関桜班分署の研究員である、【平泉良】がやってきた。
「いやー、久しぶりですねー」
平泉の、牛乳瓶の底のようなメガネが白く光った。
「平泉さん、お久しぶりです」
クロナは平泉に一礼すると、足元のツチノコを指さした。
「これが、今回討伐したUMAですよ」
そう言うと、平泉の眉間にシワがよった。
クイッとメガネを押し上げる。
「クロナさん、どうして首と胴体が離れているんですか? 死骸の損壊が酷くて、研究対象になりませんよ・・・」
「だって、ツチノコなんてありふれたUMAじゃないですか・・・」
「まあ、そうなんですけど・・・」
平泉はゴムの手袋をはめると、ツチノコの死骸をつまみ上げた。脇に抱えた瓶の中に入れる。
「じゃあ、死体は回収させて頂きました」
「はい、お願いします」
ツチノコ討伐と、その死体処理という任務を終えた三人は、雑談を交わしながら山を下りた。
平泉はボサボサの髪を無意識に整えながら、嬉嬉として語り始めた。
「聞きましたよ? 皆さん、鑑三さんと、味斗さんに会ったんですよね?」
「え、あの人達のこと、知っているんですか?」
「もちろんですよ。特に、アクアさんと味斗さんとは同期ですから。鑑三さんは、【奈良決戦】での恩人ですからねー」
そう語る平泉の目はうっとりとしていて、現役として活躍していた頃の思い出に浸っていた。
「あと、二人。僕たちには同期がいるんですけど、何処かを放浪していまして、最近は連絡が取れていないんですよね。ああ、また会いたいなあ・・・」
「そうですか、仲間っていいですね」
架陰はニコッと笑った。
自分も最近、仲間の大切さを身に染みて分かったのだ。
架陰が悪魔の堕慧児に拉致された時、桜班、椿班の者たちが、命をかけて助けてくれた。
「ふふふ・・・」
「何よ、気持ち悪い」
「いや、改めて嬉しくて・・・」
「はあ?」
架陰は思い出していた。あの、悪魔の堕慧児のアジトから脱出した時、クロナの身体はボロボロだった。
他のもの達もそうだ。
みんな、満身創痍だった。
それだけ、自分のことを思って戦ってくれたことが、嬉しかった。
「クロナさん、あの時は助けに来てくれてありがとうございます!」
改めてお礼を言うと、クロナは頬を赤らめてそっぽを向いた。
「別に、響也さんとカレンさんが行くって言ったから着いて来ただけよ・・・」
クロナはそう言うものの、架陰は知っていた。
響也から聞いたのだ。架陰が拉致されたと知った時、真っ先に「助けに行く!!」と言ったのは、クロナだったということを。
「じゃあ、僕はこれで!」
移送用のトラックに戻った平泉は、二人に手を振ってからアクセルを踏んだ。
ブロロロと、調子の悪いエンジン音を立てながら、冷凍コンテナを搭載したトラックが走り去っていった。
「さて、僕達も帰りましょう!!」
「そうね!」
架陰とクロナはのんびりと歩いて、成田高校に戻った。
校舎の裏の、古びた部室棟の床に備えられた扉を引き上げて、地下へと続く階段を下りる。
そこに、【桜班本拠地】があった。
「待ってたわよ!!」
階段をおりて直ぐの廊下で、アクアが仁王立ちで待ち構えていた。
「ど、どうしたんですか?」
クロナは上擦った声をあげた。自分がツチノコの死骸を損壊させたことを咎められるのかと思ったのだ。
アクアはニヤリと笑う。
「行くわよ!!」
「行くって、どこに?」
「ここよ!!」
そう言うと、アクアは手品のように、スーツの袖から白い封筒を取り出した。
「なにこれ?」
二人して封筒を覗き込む。
中には白いカードが入っており、金箔の施された文字でこう書かれていた。
招待状・・・桜班一同様
貴班を、○月○日に開催される、UMAハンター戦力強化交流会【ハンターフェス】に招待します。
代表・・・四天王スフィンクスグリドール
「ハンター、フェス?」
「そうよ、ハンターフェス!!」
アクアは指を鳴らした。
「簡単に言えば、最強の班を決める大会よ!! これに参加して、一気に桜班の知名度をあげるわよ!!」
その②に続く
その②に続く




