番外編【真子の奇妙な冒険】その⑤
一条
二条
三条
死条京下
5
「直ぐに斬り殺すタイプだ!!」
男はそう叫ぶと、さらに強く踏み込んだ。
刃をライフルで受け止めていた八坂さんの足が、数センチ下がる。
「八坂さん!!」
私は援護をするため、弓に矢を掛けた。
引き絞って放とうとした瞬間、殺気を感じ取った男がその場から飛び退く。
男は私と八坂さんから二十メートル程の距離を保つと、握っていた刀を中段に構え、いつどんな時、どんな方向からの攻撃にも対応できるように身構えた。
「まあ落ち着け」
八坂さんが宥める。
「僕達は戦いに来たわけじゃない。君に話を聞きに来ただけだ・・・」
「話すことなんて何も無いぞ・・・」
男は獣のように低く唸った。
だけど、なんだろう・・・。この違和感。
私は思わず、引き絞った弓の力を弱めた。
「オレはこの化け物を狩り尽くす・・・、ただそれだけだ!!」
あの男の子の声・・・。
少し、違和感を感じる。
すごく漠然としているけど、「男らしくない」声だった。
口調も、語尾の強め方も、男特有の、乱雑なものだ。
だけど、声色というか・・・、声の高さが、想像の何倍も高い。
まるで、変声期前の男の子。
ハッキリ言ってしまえば、女の子みたいな声・・・。
「邪魔するやつは、斬り殺す!!」
またも、やや高く透き通るような声でそう叫んだ男は、ぬらぬらと八坂さんに襲撃する。
「くそ!」
八坂さんがライフルのスコープを覗き込んだ。
「だったら、眠ってもらうしかない!!」
そう言って、引き金を引く。
ドンッ!!!
ライフルの銃口から麻酔弾が放たれた。
掠っただけで、対象を眠りへと誘う弾丸。
眠らせて一気に勝負をかけるつもりだった。
だが。
「遅い!!」
男が稲色の刀を振ったかと思えば、ギンッ!!!と金属音が弾け、弾丸が真っ二つになった。
「っ!?」
「弾丸など、直ぐに斬り捨ててやる!!」
そう言って、八坂さんの間合いの内側に入ると、振り上げた刀を振り上げた。
「八坂さん!!」
私は矢を放った。
鏃に付いた薬品が、空気との摩擦熱で発火して、矢が炎を纏う。
「俸禄火矢!!」
「っ!!」
炎の矢が、男が振り上げていた魔影の刃に直撃した。
炎と矢の勢いには勝てず、男の刀が手から吹き飛ばされた。
「チャンス!!」
私は背中の弓矢ケースから予備の矢を取り出すと、立て続けに引き絞った。
「喰らえッス!! 【爆煙火矢】!!!」
炎を纏った矢が男に迫る。
「ちっ!!」
男は先程と同様に、地面を蹴って後退した。
矢は背後の木の幹に刺さる。
くそ、躱された。
男は地面に突立った刀の柄を掴んで抜く。
せっかく武器を落としたのに・・・。
「もう一発!!」
私は背中のケースから新しい矢を抜く。
「待て!! 真子!!!」
八坂さんが止める。
「やつは人間だ! 下手に傷つけるな!!」
「でも、こいつ、私たちに敵意むき出しッスよ!!」
「僕の【麻酔弾】で抑え込む!!」
八坂さんは、麻酔弾が装填された【NIGHT・BREAKER】の引き金を引いた。
ドンッ!!!
「甘い!!」
男は刀を振って、正確に弾丸を弾く。
「オレの特技は、【精神統一】!! お前らの殺気がこもった攻撃なんぞ、簡単に見極めれるんだよ!!」
「精神統一?」
なんじゃそりゃ。
と、考えている間に、男が地面を踏み込んで接近する。
攻撃対象は、私だった。
「まずはとろそうなお前からだ!!」
「とろくないッスよ!!」
私は弦に掛けた矢を引く。
「待て!! 真子!!!」
この後に及んで、八坂さんが矢を射ることを止めてくる。
「くっ!!」
私は土壇場で躊躇って、後退した。
だが、男はさらに強く踏み込んで、私との間合いを詰めてくる。
「行くぜ、【心響流】・・・」
刀を右手に、鞘を左手に握り、地面と平行に構えた。
ズズッと、殺気が地面を這って私に迫った。
なにか、仕掛けてくる!!
「一の技・・・」
「くっ!!」
私は我慢出来ず、火矢を射った。
「【一条】!!」
男が刀を一閃する。
暗闇に琥珀色の光が走り、炎の矢を鏃から両断した。
「私の矢が!!!」
「まだだぜ・・・」
矢を斬り落としただけでは男は止まらない。
「【心響流】・・・」
さらに姿勢が低くなった。
「【二の技】・・・」
「にのわざ!?」
私は慌てて矢を抜こうとするが、テンパっているせいで、上手く掴めない。
その間にも、男は低い姿勢から地面を蹴り上げ、私に迫る。
「【二条】!!!!」
ギンッ!!!
「あっぶな!!」
切り上げられた刃を、何とか【名弓天照】の木の部分で受け止める。
ミシッと音がして、刃が弓にめり込んだ。
うう、ごめん、天照。
「まだだ!!」
えっ!! まだあるの!?
「【三の技】!!!」
男は刀を引き、空中で身体を捻る。
捻りの動作で勢いを付け、一閃した。
「【三条】!!!!」
ギンッ!!!
「きゃあっ!!!」
受けきれない。
吹き飛ばされて、地面を転がる。
受け身を取れ!!
「くっ!!」
何とか体勢を整えて、地面に手をつく。
ズサササと、足と手を使って失速した。
「よし!!」
「まだだ!!」
「えっ!?」
顔をあげる。
目の前に、刀を構えた男が迫っていた。
嘘でしょ!?
もうあの間合いを詰めてきたの!?
まずい、もう防ぐことも出来ないし、躱すことも出来ない。
殺られる!!!
「【四の技】!!!」
男が、目にも止まらぬ速さで刀を振った。
「【死状京下】!!」
その⑥に続く
その⑥に続く




