番外編【真子の奇妙な冒険】その③
盲目の龍は飛び続ける
瞼に光る陽を見るまでは
盲目の龍は飛び続ける
肌を焦がす陽を見るまでは
3
そこは、とある学校の裏に広がる森だった。
「入るぞ」
立ち入り禁止のテープを潜って中へ足を踏み入れる。
約二メートル間隔で並んだ木々の間を抜けながら、UMAの目撃情報があった場所を目指した。
八坂さんは、歩きながら、ライフルケースから【名銃・NIGHT・BREAKER】を取り出して、弾を装填し始めた。
鬱蒼とした森。
どこからUMAが襲ってくるか分からない。
私も、唾を飲み込み、【名弓天照】の弓を握りしめた。
「ここだな・・・」
しばらく進むと、視界が開けた。
そこは、半径十メートル程の沼だった。
水が灰色に濁り、中心からボコボコと粘性を持った泡が湧き出している。
「沼・・・、完全に鬼蛙の生息地だな・・・」
八坂さんはそう言って、足元に落ちていた木の枝を拾い上げた。
振りかぶって投げる。
べチンッ!!
枝は、八坂さんの足元に落ちた。
「・・・、今のはナシだ」
「いや、完全に失敗してましたッスよ」
八坂さん、ライフルに没頭しすぎて、肩の力が赤ちゃん並みに弱っているんだ・・・。
「任せてくださいっす」
私は木の枝を拾い上げ、弓の弦に掛けた。
引き絞って放つ。
反動で飛んでいった枝は、沼の中央にボチャッと落ちた。
その瞬間、沼から大きな口が飛び出して、枝を丸呑みにする。
「下がれ!!」
八坂さんの合図で、私たちは地面を蹴って後退した。
沼から、肉の塊とも言える巨大な蛙が這い出てきた。
「やはり鬼蛙か・・・」
八坂さんは頷いて、スーツのポケットからとある機械を取り出した。
「発信機・・・」
それを、鬼蛙に向かって投げようとする。
「待ってくださいッス」
私はその手を掴んで止めた。
「何をする」
「いや、学習しましょうよ」
先程、枝を投げるのに失敗したんですよ?
私は強引に八坂さんから発信機を奪い取ると、矢の鏃に括りつけた。
「私がやるっス」
そう言って、発信機付きの矢を放った。
矢は鬼蛙の肉厚な腹に突き刺さる。
痛みを感じていないのか、鬼蛙が特に暴れることはなかった。
「よし、撤退だ・・・」
「倒さないんっスか?」
「鬼蛙ごとき雑魚、いつでも殺せる。僕たちの任務は、【UMAハンターでは無い誰か】を突き止めることだ・・・」
なるほどッスね。
私たちは鬼蛙にバレないように、さっさとその森から撤退した。
あとは地味な作業。
あの鬼蛙が住み着く沼に近寄ろうとする者を探すだけだ。
私と八坂さんは狙撃手だ。
森の前に建つ小学校の屋上に上り、見晴らしのいい場所から偵察をすることにした。
八坂さんは、ライフルの手入れをしている途中、ふと手を止めて、腕をコキコキと動かし始めた。
「どうしたんすか?」
「いや、よく治ったなあって・・・」
「治った?」
「ぼくは、【市原架陰奪還作戦】の時の戦闘で、敵に腕を切り落とされたんだ・・・」
「え?」
初耳っスね。
「綺麗に斬られた。それに、首も落とされかけたから・・・、本来なら死ぬところだったんだ・・・」
「なんで死ななかったんすか?」
「お前が言うとムカつくな・・・」
すみませんね。
八坂さんは、繋がった腕の感触を確かめながら、生き残った理由を語ってくれた。
「あの時、【鑑三】という男の人がいただろう?」
「はい、いたっすね」
「あの人に、変な薬を注射されてな・・・、しばらくしたら治ったんだ・・・」
変な薬?
まさか、ヤバイ系のやつじゃないですよね?
「恐らく、あれは【回復薬】の一種だ。僕達が普段使っている、【椿油】とか、【桜餅】よりも強力な・・・」
「椿油よりも強い回復薬があるんすか?」
椿油の効果はかなり凄い。傷口に塗るだけで、切り傷も骨折もたちどころに治ってしまう。
だけど、切り落とされた腕を治すような力は持ち合わせていない。
「もしかしたら、僕達はあの一件で、やばい組織に手を出してしまったんだろうな・・・」
八坂さんに改めて言われると、 背筋の辺りがゾゾゾってした。
確かに、私たちの前に現れた謎の組織【悪魔の堕慧児】たちは異常だったと思う。
人間とUMAの力を併せ持つ生物。
ちなみに、私とクロナ姐さんが相手にした【唐草】という男は、【山羊男】という能力を使用してきた。
強かったなぁ。
まあ、私が勝ったんだけど・・・。
その後、私と八坂さんは、十時間近く、校舎の屋上の上で森を監視し続けた。
「来ないっすねぇ・・・」
私は双眼鏡で森の方を見ながらボヤく。
「疲れてきました・・・」
薄暗くなったせいで視界が悪い。
発信機を付けた鬼蛙にも異常はない。
森に近づく者はいれど、入ることはしない。当然だ。「立ち入り禁止」のテープが張られているのだから。
私は飽きて、双眼鏡から目を離した。
その時だ。
「おい・・・」
ライフルのスコープで偵察をしていた八坂さんが呼び止めてきた。
「来たぞ・・・」
「え?」
私はすかさず双眼鏡を覗き込む。
そこには確かに、森の中への足を踏み入れる男がいた。
なぜ男だとわかったのか。
それは、その者が、薄暗闇に紛れるような学ランを着ていたからだ。
「どうするんすか?」
「行くぞ・・・」
八坂さんがライフルを構える。
私も、弓矢を握りしめた。
その④に続く
その④に続くッスよ!!




