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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
172/530

架陰奪還編完結 その③

星星を見る少女と


三日月を見る私


瞳は暗幕を向いているけれど


宿す光は違ってる

3


「ヤア、スバラシイネ・・・」


拍手の音が響き渡ったかと思い振り返ってみれば、そこには身体中に包帯を巻いた男が立っていた。


(あの人・・・!!)


アクアの背中におぶられた架陰の瞳孔が見開かれる。


(悪魔の堕慧児の、親玉・・・!!)


今までの動向と、悪魔やジョセフの言葉から、架陰は不明瞭な結論を抱いていた。


あの包帯男こそが、悪魔の堕慧児のリーダーだと。


その考察は、間違っていない。


包帯男は、笹倉を使役して、架陰をこの施設に拉致した。そして、架陰の【魔影】の能力を奪おうとした。


この目で見たのだから、それは紛れもない事実だ。


「スコシ・・・、ヌカッタヨウダ・・・」


そう言って、包帯男は、自身の顔に巻きついた包帯に手をやった。


スルスルと包帯を解く。


その包帯の下から見えた顔に、一同の視線が集まった。


「あの顔はっ!!」


その男には、顔が無かった。


正確に言えば、顔はある。眼球、鼻、口。


だが、どれも焼け爛れてまともな形状を留めていないのだ。鼻は削ぎ落とされたようにへしゃげ、黒い穴が二つの状態。唇はべろりと剥がれ、骸骨のような歯が覗いている。


そして、目は、乳白色に染め上げられていた。


(黒目が・・・、無い?)


まるで人体模型のような姿をした男は、白目をギョロりとさせて架陰を見た。


「ボクノ目的ハ、キミノ【魔影】ノ能力ヲ手ニ入レルコトダッタ・・・」


その言葉に、架陰は奥歯を噛み締めた。


やはり、あの包帯男は、架陰の【魔影】の能力を狙っていたのだ。


包帯男はあからさまに肩を落とした。


「ダガ・・・、失敗シタヨ・・・」


「失敗?」


あの時。架陰の額に手を伸ばしてきた時に、魔影に弾かれたことを言っているのだろうか・・・。


「マザッテイル・・・」


「混ざる?」


「邪魔ナ男ガイル。サシズメ・・・、悪魔ノ依代ニナッタ【ジョセフ】ダロウケド・・・」


「ジョセフのことを知っているのか・・・」


鑑三が低い姿勢になって男を睨んだ。


「ジョセフガイル以上・・・、ボクハ拒否サレテ、悪魔ノ力ヲ奪エナイ・・・」


(ジョセフさんが邪魔?)


つまり、架陰の【魔影】を奪おうとしているものの、欲しいのはあくまで【悪魔】であり、悪魔にくっついているジョセフは必要ないということか。


(この人・・・、一体何者!?)


すると、突然包帯男の身体がぐらりとバランスを崩した。


瓦礫だらけの床に倒れ込む寸前で、鬼丸が支える。


「大丈夫ですか?」


「アア、アリガトウ・・・」


包帯男は鬼丸に支えられて立っていた。


「時間ガ無イ。デモ、今日ハ奪エナイ」


すると、男は包帯に巻かれた手を挙げ、架陰たちにヒラヒラと振って見せた。


「今日ノトコロハ、退散スルヨ・・・、マタ今度・・・、キミノ能力ヲ奪イニクル」


そう言って、架陰たちに背を向ける。


鑑三と味斗が身構えるのが分かった。


二人とも、目が訴えかけている。


「今倒すべきだ」「今、不穏の根を摘み取るべきだ」と。


だが、その二人の意を読んだかのように、鬼丸が指を鳴らした。


その瞬間、瓦礫の影で身を潜めていた【女郎】が動き始める。


「能力、【鬼蜘蛛】・・・」


悪魔の堕慧児の一人である女郎の能力は、【鬼蜘蛛】。


手から、粘着性の糸を発射することができるのだ。


「っ!?」


死角から白い粘液が飛んできて、鑑三、味斗、アクアの足に命中する。


「これはっ!?」


抜け出そうとするが、糸は強固に瓦礫と固着して身動きが取れない。まるで瞬間接着剤を足に満遍にかけられたかのようだ。


「安心してください。熱があれば直ぐに溶けます」


女郎が瓦礫の影から顔を出した。


「じゃあ、さっさと逃げさせていただきます」


三人の足を止めるという役目を終えた女郎は、すたこらと包帯男と鬼丸の後を追った。


「待て!!!」


待てと言われて待つはずもなく、轟音が響き、崩壊を始める戦場の奥に、三人は消えてしまった。


「追うぞ!!」


鑑三が藻掻くが、女郎の能力で固定された足は全く動かなかった。


「僕が炎を吐きます!!」


味斗がタブレットケースを取りだした。


その時だ。












突然、瓦礫の奥から炎が迫ってきて、三人の足元を焼いた。


「っ!!」


「熱っ!!」


あまりにもの熱さに、慌てて飛び退く。粘着糸は直ぐに溶けて消えた。


ザッザッと、草履で地面を擦りながら、誰かが近づいてくる。


先程の炎は、明らかに殺意のこもっていない攻撃だった。つまり、三人の粘着糸を溶かすための一撃。


ならば、味方か?


土煙が晴れた。


「やあ、こんにちは」


そこに立っていたのは、灰色の着物を着た男だった。穏やかな目をして、髪は女のように長くなっている。


そして、その手には架陰の【名刀・赫夜】が握られていた。


「これ、落ちてたから返しておくよ」


刀をアクアに向かって投げる。


アクアは器用に柄の部分を掴んだ。


何歳くらいだろうか? 二十歳、もっと、三十歳くらいか?


男はニコニコとしながら、アクアの背中におぶさる架陰を見ていた。


「君の刀・・・、【名刀・赫夜】って言うんだね」


「・・・、はい」


殺意は感じなかったので素直に頷く。


「へえ・・・」


その瞬間、男に殺意が宿った。


「その刀を打った刀鍛冶に言っておいてよ。次に会って、またその程度の(なまくら)しか造れないのなら、容赦なく叩き折るってさ・・・」


「・・・!?」


確か、名刀・赫夜の刀鍛冶は、【二代目・鉄火斎】。


言うことだけ言った男は、満面の笑みを浮かべると、くるりと踵を返した。


その背中に声をかける。


「あの!! 貴方は、何者ですか?」


「ボク?」


男が首だけで振り返った。











「僕の名前は、【一代目鉄火斎】だよ」











そう言い残して、鉄火斎は立ち去った。


ゴゴゴゴと、建物全体が軋み始める。


天井が崩れ、数多の瓦礫が降り注いだ。


「脱出だ!!」


鑑三の一声で、三人はいっせいに駆け始めた。


元来た道を戻る。


階段を駆け登り、地下二階にたどり着く。


そこで、倒れている響也と八坂を回収。二人は鑑三が背負った。


階段を駆け登り、地下一階にたどり着く。


そこで、疲労困憊しているカレン、鉄平、山田を回収。三人には走ってもらう。


階段を駆け登り、地上一階にたどり着く。


そこで、疲労困憊しているクロナと真子を回収。二人にも走ってもらった。


「よし!! 全員生きているな!!」


「「「「はい!!!」」」」


クロナは疲弊した身体に鞭を打って走った。そして、アクアの背中に背負われている架陰を見て、ほっとする。


「架陰!! あんた!! よく生きてたわね!!」


「はい、何とか・・・」


桜班、椿班一同が駆ける足音が響き渡った。


思い出したように、鉄平が叫ぶ。


「よし!! 【市原架陰奪還作戦】!! 大成功だぜ!!!」


そう言えばそんな作戦を立てていた。


アクア、味斗、鑑三、架陰、クロナ、響也、カレン、鉄平、真子、山田、八坂。


計十一名。


全員が外に出た瞬間、悪魔の堕慧児がアジトとして使っていた施設は、轟音と共に崩れ落ちた。


山全体にその衝撃が響き渡り、白い砂煙が舞い上がる。


辺りの鳥たちがいっせいに逃げ出し、木の葉を揺らした。


(悪魔の堕慧児・・・)


アクアの背中で揺られながら、架陰は下唇を噛み締めた。


(強かった・・・)


人間とUMAの力を併せ持つ生物。


そして、架陰の【魔影】の能力を狙う謎の包帯男。


奴らとの戦いは、これからも続いていく。


(僕は・・・、もっと、強くならないと・・・)


ふと顔を上げると、クロナ、そして、カレンが架陰の顔を覗き込んでいた。


「なあに、ぼーっとしてんのよ」


「そうよぉ。無事で何よりよぉ」


「はい・・・」


架陰は無理やりに笑って見せた。


「皆さん、ありがとうございます!! 僕を、助けに来てくれて・・・」


「当たり前でしょ!!」


クロナが架陰の頭を叩く。


「あんたは大事な仲間なんだから!!」


「はい!!」


架陰は泣きたくなるような気持ちを抑えて頷いた。


ああ、やっぱり、UMAハンターになってよかった。


こんな素晴らしい人達に、巡り会えたんだ。


自分の危機の時に、命を賭けて助けに来てくれる人。


「さあ!! 帰りましょう!!」



















【架陰奪還編】完結

次回より新章【ハンターフェス編】開幕!!

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