伝説の力 その③
悠久の時は
雨風を攫ってきて
この刃を錆びさせる
悠久の時は
勇者を運んできて
この剣を握らせる
3
悪魔が、味斗の懐に潜り込む。その腕には、漆黒の魔影を纏わせていた。
完全に、不意を突かれた。
「死ね!!」
悪魔が、魔影を纏わせた拳を振り上げる。
その瞬間、味斗がとった行動は、躱すでもなく、逃げることでも無かった。
「【ノーマルミント】」
自らの左手を、悪魔の拳に合わせるようにして突き出したのだ。
当然、魔影から衝撃波が発生する。
パキパキと、味斗の手の甲から左肩までの骨が粉砕する。裂けた皮膚から血が噴き出した。
「愚かな・・・」
真正面から受けて立つことを選んだ味斗を哀れみの目で見ると、そのまま味斗の身体を吹き飛ばす。
あの腕では、戦力はかなり落ちた。
悪魔の勝利は、目に見えた。
その瞬間、悪魔の視界に、奇妙なものが映りこんだ。
「っ!?」
先程殴り飛ばした、味斗の顔。
笑っている。
「頂いたぜ!!お前の【魔影】!!!」
味斗が握りしめていたのは、真っ黒なミントタブレットだった。
身を捩り、着地する味斗。すぐさま、黒いタブレットを口に放り込んだ。
「こいつは、【ノーマルタブレット】。鑑三さんが開発してくれたものだ・・・」
味斗の口から、黒い息が漏れ出た。
「効果は、【衝撃吸収】!! こいつで吸収した衝撃波は、僕の能力で実体化できる!!」
味斗の能力は、【味】の実体化。従来なら、市販のタブレットを使い、「凍えるような辛さ」「燃えるような辛さ」「痺れるような辛さ」を使い分け、様々な効果を得る息を吐いていた。
味斗の持つそれは、何もしないうちは、無味無臭のタブレットである。だが、衝撃を加えれば、その衝撃に見合った味に変換される。
それを口の中に放り込めば、【味】の能力を発動できるのだ。
つまり、味斗は、【魔影】を使えるようになったのだ。
「【魔影息】!!!」
息を吐いた瞬間、先程の悪魔が放った衝撃波とほぼ同等の力の衝撃波が放たれる。
「っ!!!」
悪魔に直撃した。
ドンッ!!!!
味斗の息の調整で、かなり的を絞っていたそれは、悪魔の右脚を穿った。
骨が粉砕して、悪魔が跪く。
「おのれ!!!」
「もう一度畳かけろ!!!」
味斗が右腕を犠牲にして切り開いたこのチャンス。
逃す訳にはいかない。
鑑三が瞬時に切り込む。
悪魔は身の回りに魔影を張り巡らせ、結界を作り出した。
「【魔影盾】!!」
ただの結界では無い。魔影の結界だ。触れれば、直ぐに衝撃波が発生して吹き飛ばされる。
「アクア!!」
「はい!!」
アクア魔影に向かって水砲を放った。
水の塊が魔影に直撃。
直ぐに衝撃波が発生して、水を跳ね返した。
「ダメ!! 破れない!!!」
「これでいい!!!」
おかげで、少しだけ魔影の勢いが弱まった。
鑑三は右脚にエネルギーを蓄積させ、魔影の結界に向かって振り放った。
ドンッ!!!!
衝撃と衝撃波のぶつかり合い。
鑑三も吹き飛ばされまいと力を込め、悪魔も破らせまいと力を込めた。
「邪魔を、するなあっ!!!!」
「そういう訳にはいかん!!!」
力は、互角。
鑑三が弾き返されると共に、悪魔の魔影も消え去った。
「相殺した!!」
「くそ!!」
相殺だけじゃダメだ。直ぐに次の結界を張られる。
鑑三が体勢を整えて再び向かう時には、悪魔は次の結界を張り巡らせていた。
「アクア! もう一度水砲を放て!!!」
「わかってますよ!!」
アクアの突き出した手のひらに、水の塊が出現する。
「【水砲】!!!」
強烈な水圧を持って放たれた。
「援護する!!」
味斗が水に向かって雷撃を放った。
水と雷が力を合わせ、悪魔の魔影結界に衝突する。
ドンッ!!!!
手応えあり。
強力な水圧と、軋る雷撃が、悪魔が張り巡らせた結界を消し飛ばした。
「ちっ!!!」
悪魔は再び爪を床にくい込ませて、魔影を張ろうとする。
しかし、それよりも先に悪魔の懐に鑑三が潜り込んだ。
「遅い!!!」
放たれる蹴り。
悪魔は魔影を張るのを中断して、防御に転じた。
腕を十字に重ねて防ぐ。
「ぐっ!!」
防ぎ切れない。
蹴り飛ばされる。
悪魔は足の爪を地面に突き立てて衝撃を緩和するが、鑑三が直ぐに間を詰めて追撃した。
悪魔の腕がミシミシと軋み、骨にヒビが入っていく。
ぶらん、と腕が垂れた。
(まずい、腕を・・・!!!)
悪魔は思考を巡らせた。
次の一撃が来るまで、約0,1秒。
腕の再生を行うか。
魔影を発動させるか。
後退するか。
「っ!!」
考えがまとまらない。
何も出来ぬまま、鑑三の蹴りが、悪魔の顔面に直撃した。
「終わりだ!!!!」
第54話に続く
鑑三「お前たち、かなり腕を上げたな!!」
アクア「鑑三さんこそ、その歳になってもまだまだ現役ですね!!」
味斗「架陰を取り戻せるかは、僕達にかかっています。全力で畳み掛けましょう!!」
アクア「そうね。悪魔討伐まであと一歩!」
鑑三「ここに来る時に、桜班と椿班が死闘を繰り広げているのを見てきた。子供たちのためにも、絶対に勝つぞ!!」
味斗・アクア「「はい!!」」
鑑三「次回第54話【精神の激闘】」




