伝説の力 その②
村人は村人だ
勇者は勇者だ
しかし村人は
大地の神の恩恵を受ける
しかし勇者は
天の神の恩恵を受ける
2
「雷息!!!」
味斗が息を吐いた瞬間、口から眩い雷撃が放たれる。
雷撃は空中にジグザグの軌道を描いて、アクアの能力で固定されている悪魔に直撃した。
ドンッ!!!!
爆発のような光が発せられ、悪魔を捉えていた水が破裂する。
蒸発した水が、煙のようになって立ち込め、その中から悪魔が飛び出す。
「仕損じた!!」
ここまでは想定内だ。水で動きを封じて、雷撃を当てたぐらいでは、あの悪魔が倒せるとは思っていない。
「追い込め!!!」
鑑三が悪魔との距離を詰める。
悪魔と鑑三の拳が衝突した。
ドンッ!!!!
うち負けたのは悪魔の方だった。
腕がパキリと折れ、バランスを崩す。
そこに、鑑三が蹴りを入れる。
「がっ!!」
悪魔は蹴り飛ばされ、奥の壁に身体をめり込ませた。
鑑三は追撃する。
「【蓄積】!!」
走りながら、右腕の筋肉にエネルギーを蓄積させていく。
悪魔は腕を再生させると、壁にめり込んだ身体を引き剥がした。
(エネルギーを蓄積した拳を受けるのはまずいな・・・)
だが、奴の能力の封じる方法は分かる。
悪魔は指先に魔影を発生させた。
ビー玉程度のそれを、鑑三に向かって放つ。
「っ!?」
飛んできた魔影が、鑑三の足元に直撃して、衝撃波を発生させる。
「くっ!!」
バランスを崩した。
直ぐに悪魔が壁を蹴って鑑三との距離を詰めると、素早く鑑三の右腕に爪をくい込ませた。
「終わりだよ」
「ちっ!!」
その瞬間、鑑三の腕から、「ボンッ!!!」と、機械がショートした時のような音を立てた。
「っ!!」
鑑三の顔が苦痛に歪む。
「お前の能力の弱点だ。エネルギーの蓄積中に、外部から攻撃を入れられると、エネルギーが暴発して、筋肉が粉砕する」
悪魔は鑑三の腕を掴んだまま、鑑三を振り回して、床に叩きつけた。
ドンッ!!!!
先程の仕返しのように、鑑三の身体が床にめり込んだ。
「鑑三さん!!!」
アクアが後方から援護する。
手を突き出し、超強力な水砲を放った。
「っ!!」
悪魔は上へと飛んでそれを躱した。
「逃がさない!!」
アクアが印を結び、放った水を操作する。
水が生き物のように蠢き、上空の悪魔に迫った。
「させん!!」
悪魔の手のひらから衝撃波を放ち、水砲を相殺する。
散り散りになった水が、豪雨のように降り注ぐ。
床の上で水が跳ね、霧を立ち込めさせた。
「味斗!!!」
場は水気で満たされた。
味斗の出番だ。
「了解!!」
味斗はミントタブレットのケースから、青色のタブレットを取り出した。
「【コールドミント】!!」
口に放り込む。
味斗の能力は【味】の実体化。舌先で感じた「冷たい」「熱い」「痺れる」ような痛みは、現実の冷気、炎、雷撃となって口から放つことができる。
「【氷息】!!!」
味斗の口から冷気が放たれた。
冷気は鈍足ながらも、霧の中に佇む悪魔に直撃した。
アクアが満たしていた水気のおかげで、威力を増し、悪魔が氷漬けになる。
「鑑三さん!!」
「任せろ!!」
鑑三がめり込んだ床から立ち上がる。
「能力【蓄積】!!!」
左腕にエネルギーを蓄積させ、悪魔を封じ込めた氷の岩に迫る。
その寸前で、悪魔が氷を砕いて脱出する。
「インパクト・クロウ!!!」
鑑三の拳が、悪魔の腹に直撃する。
ドンッ!!!!
「くそっ!!」
悪魔が血を吐いた。
「うおおおおぉ!!!」
鑑三は雄叫びを上げて、腕を振り抜く。
悪魔の腹は、クレーターのように大きく凹み、裂けた皮膚からあばら骨が飛び出した。
力なく吹き飛ばされ、奥の壁に衝突。土煙が湧き上がった。
「どうだ・・・」
鑑三の両腕がダランと垂れた。全力で放ったために、筋肉が引きちぎれたのだ。
煙の中から、悪魔が動き出すような気配は無い。
「ちょっと鑑三さん!! 一応、あれは架陰の身体ですよ!?」
容赦ない鑑三の攻撃にアクアが困惑した。
戦いに夢中で忘れがちだが、悪魔は現在、架陰の身体を依代として実体化している。つまり、悪魔の身体は架陰なのだ。
鑑三は煙から目を離さなかった。
「大丈夫だ。怪我をしても回復薬がある」
「そういう問題じゃ・・・」
まあ、水責めにしたアクアにも非はある。
鑑三は右脚にエネルギーを蓄積させ、悪魔がいつ飛び出して来てもいいように備えた。
土煙が晴れる。
そこには、砕けた瓦礫があるだけで、悪魔は消えていた。
「っ!!」
「悪魔がいない!!」
どこに消えた?
例え悪魔と言え、実体化した生物。動けば土煙は荒れるだろうし、その音だってする。
何より、アクア、味斗、鑑三の三人は伝説のUMAハンターだ。気配は直ぐに感じることが出来る。
「どこだ!?」
味斗がミントタブレットのケースを握りしめる。
その瞬間、強い力が手のひらに加わり、ケースを弾かれた。
「っ!?」
天井へと打ち上がるタブレットケース。
懐に、悪魔が潜り込んでいた。
「こいつ!!!」
「貴様の能力は封じた!!!」
タブレットがなければ、味斗は能力を発動出来ない。
悪魔の拳には、魔影が纏わりついている。
「【魔影拳】!!!」
その③に続く
その③に続く




