魔影・陸式 その②
復讐は復讐を呼ぶ
囚われたのではない
魅入られたのだ
血の弾ける復讐に
2
(身体が、言うことを聞かない!?)
架陰の足が、架陰の命令を無視して前に出た。
架陰の手が、架陰の命令を無視して刀を拾い上げる。
架陰の目が、架陰の命令を無視して夜行の方を見た。
身体が、勝手に動いている。
(どういうことだ!?)
感覚は残っているようで、背筋にゾワゾワとしたものが走った。
悪魔の声が耳に響く。
「くくく、お前の身体は乗っ取らせて貰った。今お前の身体はワシが動かしているんだよ・・・」
どういう意味か?
説明よりも先に、動いた方が早かった。
悪魔に操られた架陰の身体は、夜行の首筋に名刀・赫夜の刃を当てた。
思い切り引くと、首が切断される。
夜行の生首は、一度床の上で跳ねてから転がって止まった。
恨みに満ちた目が、様子のおかしい架陰を見上げる。
「てめぇ、まさか・・・」
「ああ、そのまさかだよ」
架陰の声をした悪魔は、ニヤッと笑った。
その瞬間、架陰の身体に変化が訪れた。
「魔影・・・、陸式・・・」
体表だけでなく、地面から、空気中から、大量の魔影が溢れ出し、架陰の身体を覆う。
架陰は、黒い繭のような姿になった。
(これは・・・!?)
「こいつが、【魔影】の最終形態だ」
架陰の身体に纒わりついた魔影が姿を変えていく。
パキパキと皮膚表面が変化して、闇色の、爬虫類質の皮膚に変わる。
頭から、悪魔の角が生える。
肩甲骨辺りの皮膚を突き破り、コウモリの翼を模した悪魔の翼が生える。
まるで甲冑を身にまとったかのように、架陰の顔以外が、悪魔の身体へと変貌した。爪は鋭く、眼球は充血して、鱗のような皮膚が黒光りする。
「仮の姿だが、マシだな・・・」
悪魔は、架陰を依代として、実体化したのだった。
指の関節をパキパキと鳴らし、身体の調子を確認する。
指先に力を込めると、魔影が集まってきて、黒い塊を作った。
「魔影陸式になると、魔影は、ほぼ無限に作り出せる。ワシだからできることだな・・・」
そう言うと、その魔影の塊を夜行にぶつける。
ドンッ!!!!
衝撃波が夜行を穿ち、夜行の身体が粉々に吹き飛んだ。
残った生首を、悪魔の足で踏みつける。
頭蓋が生卵のように割れ、中からピンク色の脳みそが飛び散った。
「さあて、邪魔者は消えた・・・」
眼球を赤く染め上げ、人間の生気を失った架陰は、首を動かして、斜め上を見上げた。
あの観客席からこちらを見ている、包帯男と、侍姿の男。
あの二人を、とりあえず殺すとしよう。
すると、侍姿の男が包帯男に耳打ちしているのに気づいた。
そして、侍姿の男だけが走り出し、どこかへと消えていった。
(なんだ・・・?)
架陰の身体を操る悪魔は、ペロリと頬に飛び散った夜行の血液を舐めた。
(まあいい、とりあえず殺す)
そう思い、あの包帯男の所まで跳躍しようとした。
その時。
「架陰!!!」
戦場の奥の扉が勢いよく開いた。
二人分の足音が聞こえたかと思うと、架陰の前に、桜班総司令官のアクアと、椿班総司令官の味斗が入ってきた。
二人とも、この惨状を見て困惑の色を浮かべた。
「辺りのものが破壊されている・・・!?」
「まさか、架陰くんがやったのか?」
「そうだよ」
架陰の身体を通して、悪魔は言ってやった。
興味が、あの包帯男から、アクアと味斗へと移り変わる。
やっと会うことができた。
十年前、自分を倒したUMAハンターに。
首から下を悪魔へと変化させた架陰を見て、アクアと味斗は、一瞬で察した。
「あなた、架陰じゃないわね・・・」
「この気配・・・、まさか、十年前の!!」
察しがいい。
悪魔は、ニンマリと笑った。
「久しぶりだな。アクアに、味斗。今日は、ヒカルと風鬼はいないのか?」
「やっぱり、あなた、悪魔ね!!」
「ああ、十年ぶりに、復活したぞ・・・」
悪魔は、架陰の身体を操り、ゴキゴキと首の骨を鳴らした。
その音に、アクアと味斗が身構える。
悪魔は失笑した。
「さあて、続きと行こうじゃないか。十年前の、【目次録の再臨】の続きだ」
「っ!!」
アクアが奥歯を噛み締める。
「まさか、十年前に私たちが討伐した悪魔の魂が、架陰の魂に取り憑いていたなんて・・・」
「くくく、気づいていなかったのか・・・」
悪魔が手のひらに力を込めると、シャキッと爪が伸び、三十センチ程の刀剣のような形に変化した。
「どうする? このまま、架陰諸共ワシを殺すか? まあ、十年前、ヒカルと風鬼、平泉と、アクア、そして、味斗の五人でやっと殺せたワシだ。二人で、なにかできるとは思わんがな・・・」
その瞬間、アクアと味斗の背後で、扉が開く音がした。
何者かが飛び込んでくる。
「ふっ、オレもいるぞ・・・」
アクアと味斗の前に、助っ人としてやってきたのは、大柄の男だった。筋肉隆々で、獣のような目がぎらりと光る。
その姿を見て、アクアと味斗の顔が見るからに明るくなった。
「鑑三さん!!!」
かつて【最強】の称号を得たUMAハンターが、かつて【世界を救った】UMAハンターたちの前に、現れたのだった。
その③に続く
その③に続く




