悪魔大翼 その②
必殺技を持たない僕は
傘の柄を握りしめ
降りしきる雨粒に刃を振るう
2
「畳み掛ける!!!」
この隙を逃さない。
架陰は、強い決心のもと、夜行へと斬りかかった。
「魔影刀!!!」
魔影が名刀・赫夜の白銀の刃にまとわりつき、漆黒の大剣と化す。
「舐めるな!!」
夜行は吹き飛ばされた腕に力を込め、一瞬で再生させた。
(ちくしょう・・・)
架陰の魔影刀を喰らえば、確実に身体のどこかが欠損する。欠損すればするほど、戦闘能力は落ちる。それを再生するのにも隙が生まれる。
「はあっ!!!」
架陰の黒い刃が、夜行の右肩に叩き込まれた。
ドンッ!!!
夜行の右半身が肉片になって飛び散る。
「ひひひひひ、今だ!!!」
夜行は、右手でパチンッと音を鳴らした。
その瞬間、飛び散った肉片が生き物のように蠢き始める。
「っ!?」
ベタベタと、架陰の身体にまとわりついた。
「死ねや、肉爆弾!!!」
ドンドンドンドンドンドンッ!!!
肉片が次々と破裂していき、架陰の肉を吹き飛ばした。
架陰の肩や腕、脚に腹の肉が大きくえぐれ、血液が噴出した。
「ぐっ!!!」
さらに夜行の操った肉片が、架陰の右足首にへばりついた。
「っ!?」
「歩けなくしてやる!!」
肉片が破裂する。
架陰の右足首から下が消し飛んだ。
「があっ!!!」
激痛にバランスを崩した架陰は、反射的に脚を前に出した。だが、右足は消えている。
ゴリッと、断面からはみ出した白い骨が架陰の身体を支えた。
「痛っ!!!!」
架陰は、すかさず魔影を脚に纏わせて補強した。
「傷が深い・・・!!」
今の攻撃で、かなりの体力を奪われた。すぐにでも、夜行の肉を喰って回復しなければならない。
「【魔影脚】!!!」
架陰は、魔影を纏わせた左脚で床を蹴り、半ば強引に夜行へと距離を詰めた。
「そう来ると思ってたぜ!!」
夜行は先を読んでいた。
身体の一部を欠損した架陰は、必ず自分の肉を喰って回復しようとしてくる。つまり、自分と距離を詰めてくるということだ。
「ひひひひひ!!!」
既に再生した右腕を、左手でむんずと掴む。
ブチブチと、筋繊維や神経、肉を引きちぎり、その右腕を架陰に向かって投げた。
「死ねや!!!」
「ちっ!!」
架陰は魔影刀を振り、夜行の腕を切断した。
その瞬間、腕の肉が破裂する。
ドンッ!!!
「ああっ!!!」
爆風に煽られた架陰は、バランスを崩し、床に不時着した。
二人の激闘で、まるでヤスリのようにざらついた床に身体を擦ったおかげで、架陰の頬の肉がベロリと剥がれ落ちる。
「・・・、クソ・・・」
それでも架陰は手を着いて立ち上がった。
架陰の顔の右半分は、皮がめくれ、理科室の人体模型のように筋肉の繊維が覗いていた。
ジュクジュクと血が流れ落ちる。
「はあ・・・はあ・・・」
「ヒヒヒヒヒ、どっちが化け物かわかんねぇな」
夜行はゆらゆらと架陰に近づき、血まみれになった架陰の首を掴んだ。
「ぐっ・・・」
指が首に食い込む。メリメリ、メリメリと肉に埋まっていく。あと数ミリで、架陰の大動脈が裂けてしまう。
「終わりだよ・・・」
夜行はそう呟くと、手の力を強めた。
その瞬間、架陰が手に握った何かを投げる。
「っ!?」
架陰が投げたのは、二人の激闘で崩れた床の破片だった。
たった数センチの破片に何ができるのか。
架陰は、その破片に魔影を纏わせていたのだ。
パンッ!!
魔影を纏わせた破片が夜行の右頬に触れた途端、衝撃波が放たれ、夜行を怯ませる。
架陰はその隙に夜行の手から逃れると、体重をかけて、夜行の首筋に噛み付いた。
再び、口の中に苦い味が広がる。
「くっ!!」
一思いに、肉を噛みちぎった。
「てめぇ!!!」
夜行が腕を振りきるよりも先に、架陰は、床を蹴って夜行から距離をとった。
夜行の肉を飲み込む。
直ぐに、吹き飛んだ右足と、抉れた傷が治った。剥がれた頬の皮も綺麗に元に戻った。
「はあ・・・はあ・・・」
夜行の肉の力は凄い。少し食べただけで、身体中の傷が再生し、腹の底から活力が湧いてくる。
それなのに、架陰の呼吸は荒く、速かった。
(これ以上、肉を食べるわけにはいかない・・・)
化け物とはいえ、元人間の肉。人肉だ。
一口噛めば噛むほど、自分が人間から離れていくような感覚がした。
架陰は刀を構えた。
「そろそろ、決着といこうか・・・」
夜行も同じことを考えていたらしく、「ヒヒヒヒヒ!!!」と笑った。
「いいね。とっとと殺してやるさ・・・」
架陰は脚に纏わせた魔影を解除した。
その魔影を、魔影刀に纏わせる。
参式により発生した魔影の全てが、架陰の握る名刀・赫夜に集中して、赫夜の刃は、巨大な大剣となった。
「じゃあ、見せてあげるよ・・・」
魔影の形が崩れないよう、神経を集中させる。
「僕の、必殺技を・・・!!」
その③に続く
その③に続く




