魔影・参式 その③
朽ちゆく肉体に鞭を打ち
今日も僕は荒野を駆ける
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「【魔影】・【参式】!!!」
架陰がそう叫び、能力を発動させた。
架陰の体表から湧き出す、漆黒のオーラのような、煙のような、影のようなものを見た時、夜行は、「弐式とは変わらねぇな」と思った。
魔影の仕組みは、もう理解した。
身体や武器に纏わせ、対象物との間に衝撃波を発生させる能力だ。
つまり、脚に纏わせれば、足裏と地面との間で反発を起こし、超起動と超速の動きを実現する。
腕に纏わせれば、拳と対象物との間で衝撃波を発生させ、相手を粉砕する。
そして、刀に纏わせれば、斬りこんだ相手に衝撃波を叩き込み、一刀両断する。女郎がやられたのもこの能力の力だ。
【参式】と聞いて、何が変わるのかと思えば、とんだ子供だまし。
「・・・、いや違うな・・・」
夜行の肌がピリッとした。
明らかに、変化した。
架陰の身体から発せられる魔影の量が、弐式の時の比じゃない。明らかに、増えている。
「【魔影】【参式】は、弐式の時の二倍量の魔影を発生させる!!」
二倍とは、単に量が増えただけでは無い。
架陰は、【魔影刀】、【魔影脚】、【魔影双拳】、【魔影盾】と、弐式の系統を使い分けていた。
そのため、【魔影脚】を発動させた時は、必ず刀と腕が留守になる。逆に、【魔影刀】を発動させたときは、脚や腕が留守になるのだ。
つまり。
「【参式】は、弐式で使用可能だった、形態を、二種類同時発動させることが出来るんだ!!」
架陰がそう叫んだ瞬間、架陰の指示で、魔影が蠢き、形を変え始めた。
二つに別れた魔影は、架陰の刀に、脚に纒わり付く。
「これが僕の新たな力!!」
架陰の握る名刀・赫夜の刃に魔影が纒わり付き、漆黒の大剣と化す。
架陰の脚に纒わり付いた魔影は、ゆらゆらと陽炎のようになりながらも、三本の鍵爪のようなシルエットを作り出した。
「【魔影】・【参式】・【魔影刀】+【魔影脚】!!!」
架陰の新たな形態を前に、夜行は身震いした。
分かる。ただの虚仮威しではない。
架陰は、明らかに強くなっている。
「ひひひひひ・・・」
思わず、笑みが漏れていた。
架陰が、漆黒の魔影刀を夜行に向ける。
「・・・、行きますよ」
夜行もまた、剣を構えた。
「来い!!!」
次の瞬間、架陰は床を蹴っていた。
足裏で魔影の衝撃波が炸裂して、床の岩を粉砕する。
まるでロケットのように放たれた架陰の身体は、一直線に夜行に迫った。
「獄炎!!!」
「魔影刀!!!」
夜行が黒い炎を放つが、架陰の黒い斬撃がそれを吹き飛ばす。
刃から放たれた衝撃波が、まるで刃物ような鋭さを持って、夜行の右肩を抉った。
「ぐっ!?」
抉ったとは語弊がある。正確には、「消し飛ばした」だった。
「にゃろぉ!!」
夜行は右肩に力を込め、新たな腕を生やす。
間髪入れずに、架陰の魔影刀がその腕を切り落とした。
「こいつっ!!」
夜行は床を蹴って架陰から距離を取ろうとした。
だが、架陰の魔影脚は、夜行の回避スピードを上回る速さで夜行との間を詰めた。
(こいつ、反射能力も上がってやがる!!!)
架陰は身を捩り、夜行の腹に蹴りを入れた。
ドンッ!!!
衝撃波が炸裂して、夜行の腹の肉が消し飛ぶ。
「ちっ!!」
胃袋、腎臓、それに脊椎までもが吹き飛ばされた。体幹も粉砕されたので、身体を支えられない。
バランスを崩したところ、架陰が魔影刀を振り下ろす。
夜行は、剣で受け止めた。
魔影刀の漆黒の刃は、剣の刃を、いとも簡単に叩き折ると、勢いそのまま、夜行の右鎖骨に衝撃波を食らわせた。
ドンッ!!!!
夜行の右半身が消し飛ぶ。
「くそっ!!」
夜行は、力を込めた。
早く。早く再生しろ。
例え不死であろうが、身体が消えれば、戦いに支障をきたす。
だが、架陰は速かった。
「はあっ!!!」
夜行の身体が再生する前に、魔影刀を連続で叩き込む。
その度に夜行の身体は、魔影から発せられる衝撃波に当てられ、肉体を、ミンチのように削られていった。
そしてついに、夜行が生首だけとなった。
「だアッ!! くそ!!」
首だけとなっても生きている夜行は、辺りに飛び散った自身の肉片に司令を入れた。
架陰が夜行の生首に刀を振り下ろそうとした瞬間、架陰の腕が重くなる。
「っ!?」
夜行が操作した肉片がこびりつき、架陰の腕を止めていたのだ。
無理やり振り切るが、振り遅れ、衝撃波が何も無い場所を穿ち、床の岩を粉々に砕く。
その隙に、夜行は、再生を始めた。
首から下の胴体が生え、腕が生え、足が生える。
「よし!!」
裸体になろうと、完全に回復した夜行は、肉片に戸惑う架陰に攻撃を仕掛けた。
「喰らえ!!!」
夜行の腕が伸縮して、触手のようにうねりながら架陰に迫る。
「っ!?」
架陰の刀を握る腕を掴んだ。
「肉爆弾!!」
その瞬間、架陰の手が、夜行の手諸共破裂する。
「ぐっ!」
手首から先が吹き飛ばされた架陰は、血を垂らしながらうずくまった。当然、魔影は解除され、手を離れた刀が床に落ちる。
「さあて、もっと楽しんで行こうぜ!!」
第51話に続く
【魔影・参式】について
魔影とは、漆黒の影のような物質である。これが物体に触れると衝撃波を発生させる。イメージによって自在に動き、形を変える。架陰は、これを刀や腕に纏わせて強化している。
参式は、弐式の二倍の量の魔影を発生させることが出来る。
そのため、【魔影刀】や【魔影脚】等を同時に発動させることが出来るのだ。




