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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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番外編【市原架陰外伝】第二章 その②

フリードリヒ二世に乾杯

一歳の僕は、狭く、黴臭いアパートで暮らし、毎日母親に殺されかけ、父親の酒臭い臭気を浴びせられ、成長の止まった植物のような生活をしていた。


七歳の僕は、同じ境遇の、親のいないもの達と暮らしている。


つまり、僕はあの親から解放されたんた。そして、「親がいない」者として、あの施設で暮らすようになった。


終焉はいつだっただろうか・・・。


僕が、あの親から、解放された日は・・・。










走馬灯は続く。


八百年前、フリードリヒ二世は、赤子に対して、このような実験をしたことがある。


国中から集めた赤子に対して、スキンシップを取らないというものだった。五十人の赤子に対して、従者を大量に用意する。栄養バランスの良い食事を与える。だが、決して話しかけない。


泣いていてもあやさない。


オムツは変える。だが、決して話しかけない。


抱っこをしない。


頭を撫でない。


愛情を受けずに育った赤子は、皆、二歳にならないうちに死んだ。生き残った赤子も、二十歳にならないうちに死に、知的障害を患った。


フリードリヒ二世の人体実験は、倫理に反する最低なものだったのかもしれない。だが、その人体実験によって、僕達の人体に対する秘密が明かされたことを、誰も否定は出来ない。



僕は、そのフリードリヒ二世の実験に近いような生活をしていた。


母さんに首を締められ、食事は与えられるが、毎日毎日、後悔の念がこもった言葉を浴びせられる。


三歳まで生きていたのは、きっと、奇跡だったんだ。


その日、僕は死にかけていた。三日間まともな食事を与えられず、体はやせ細り、父さんに抑え込まれた時に脚は折れていた。「喉が渇いた」と伝えると、父さんはニヤッと笑って、僕の口に酒を流し込んだ。


水みたいに透明で、綺麗な酒は、僕の喉の奥を焼いた。


吐き出しても、まるで消しゴムを口に詰め込まれたような不快感が残って、僕は嘔吐した。


父さんは怒った。


「部屋が汚くなるだろうが!!」なんて叫んで、僕の首を締めたんだ。それは、母さんよりも百倍強い力だった。後悔だとか、恐怖だとか、そんなもの一切感じない、ただ純粋な殺意を持った腕だった。


母さんがやってきて、父さんを押し倒した。


「やめて!! 許してあげて!!」


母さんも馬鹿だなぁ。と思った。


母さんに押され倒れ込んだ父さんは、僕の吐瀉物に思い切り顔を突っ込んだ。


酒と胃酸で刺激臭を放つそれを顔に塗りたくられた父さんは、さらに怒った。


まずは母さんの腹を思い切り殴り、蹴り飛ばし、人間のものとは思えない唸り声を上げて、馬乗りになった。


何度も何度も、母さんの顔を殴った。


母さんは泣きながら「やめてやめて!!」と叫んでいたけれど、その声さえかき消す程の怒号を上げた父さんは止まらなかった。


母さんの顔は、五十発ほど殴られた頃には、青紫に腫れ上がり、充血した皮膚がパンパンになっていた。


それでも父さんは母さんを殴った。


百発くらい殴った瞬間、母さんの腫れ上がった頬が裂け、部屋に赤黒い血液が飛び散った。それが父さんの顔にかかったのだ。


あーあ、父さん、もっと怒ったよ。


まさに、火に油だった。


もう母さんは意識を失っているのに、父さんは何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も母さんを殴り続けた。


僕はそれをただじっと見ていた。


脚が折れて動けなかったというのもある。でも、視線すら外せなかったのは初めてだ。


ただひたすらに、殴られる肉の塊となった母さんを、見ていた。


ああ、人間はこうやって死んでいくのか。人間は、こうやって狂っていくのか。


目の前で、死にゆく、狂いゆく人間を目の当たりにして、僕の心は完全に壊れていた。いや、元から壊れていたんだ。


父さんは母さんが死んだのを確認すると、次は僕の方を見た。


もう、人間の顔をしていなかった。悪魔であった。


力に呑まれ、圧倒的権力に酔った支配者の顔だった。


僕は父さんのされるがままだった。


殴られ、肋骨を折られ、足の骨を折られ、足の骨を折られ、腕の骨を折られ、腕の骨を折られ、死なないように、少しずつ少しずつ、身体の自由を奪われていった。









そこで、僕は助かった。


隣の人が警察を呼んだみたいで、二人の警察官が部屋に入ってきて、父さんを僕から引き剥がした。


僕は身体中の骨が折れ、カッターナイフで切り刻まれ、「死んでいる」と言っても過言ではない状態だった。


それが病院に運ばれ、奇跡的に助かったんだ。


そして、僕はあの日からあの児童施設に行くこととなる。


奇跡なんてものは、あの出来事だけで十分で、僕に待ち構えていたのは、僕という人間が壊れゆく、終焉の日だった。











その③に続く

その③に続く

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