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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
147/530

暴走 その③

我々は畜生の血肉を食んで生き長らえる


畜生は畜生の血肉を食んで生き長らえる


変わらぬのだ


他者の命を食らった時点で万物は外道なり


変わらぬのだ


貴様も我も ただ一つの外道に

3


「次々と、邪魔者が・・・」


鬼丸は苛立った口調でそう言った。


暗闇の中ではっきりとは分からないが、誰かが、鬼丸が放った斬撃から響也を護った。


また、殺し損ねてしまった。


あの時、邪魔者が鬼丸の邪魔さえしなければ、あの響也という女は、楽に死ねた。鬼丸が楽に死ねるように斬撃を放っているからである。


あの女は、腕を失い、途切れることなく流れ落ちる血液が徐々に消えてゆき、地獄のような苦しみに襲われながら死ぬのだ。


せめて、この手で、あの女も、この火縄銃の男も、一思いに殺してやりたかった。それが 救いなのだと思っていた。


鬼丸は、足袋で床を踏みしめた。


音が反響して、辺りの様子をロケーションする。


鬼丸の横に、右腕を斬り落とされ、首筋を斬られた八坂。


前方30メートル先には、響也に斬られ、戦意を喪失している狂華。そして、視線を左に受けた側に、響也と、響也を助けた人物。


その響也を助けた人物は、人間とは形容しがたい容姿をしていた。身体中に縫い目のような傷が入り、筋肉はスイカでも埋め込まれたかのように発達している。見た目の年齢は四十歳といったところ。明らかに、響也や八坂といったUMAハンターとは別の者だ。


乱入してきた男は、巨体を揺らしながら、床の上に落ちた響也の右腕を拾い上げた。


「大丈夫だ。この腕は治る」


嗄れた声で言うと、響也の右腕を、右肩の断面に押し付けた。


そして、身にまとったマントの中から、小さな注射器を取り出す。


「っ!!」


その時、鬼丸の中でこの男の正体が割れた。


「させぬ・・・」


この男は、響也の傷を治そうとしていると見た。


素早く刀を振って、斬撃を放つ。


男は床を強く蹴ってそれを躱した。


鬼丸は舌打ちをして、刀を腰に収める。


たった一撃を放っただけで、斬撃のスピード、威力、射程範囲を読んで躱された。これ以上斬撃を放ったとしても、体力を無駄に消費するしか無かった。


鬼丸が攻撃をしてこないことが分かった男は、気を取り直して、響也の右腕の切断部に注射器の針を打った。


「こいつはかなり強力な回復薬だ。このくらいの傷、直ぐに治る」


そう言った通り、響也の傷は直ぐに回復を始め、鬼丸の斬撃によってぱっくりと斬り落とされた部分が元に戻った。


鬼丸は、男に話しかけた。


「貴様、【鑑三】だな・・・」


男の肩がピクっと揺れた。


「ほう、俺の名を知っているのか・・・」


「知っているとも。貴様らの情報は全て収集済み。貴様は、かつて【最強のUMAハンター】と謳われた、【鑑三】だな」


「その通り・・・」


鑑三と呼ばれた男は、のそっと立ち上がった。


鬼丸は背中に走るゾクゾクとした感覚を抑えながら、腰の刀に手をかけた。


「・・・、さしずめ、【夜行】を連れ戻しに来たのだろう。SANAで保管されていた夜行の研究体を守っていたのは、貴様だったからな・・・」


「まあ、そんなところだ・・・」


鑑三は、ラグビー選手のように太く引き締まった脚で床を蹴ると、鬼丸の方へと接近した。


鬼丸は身構えない。


この男の目的は、隣で倒れている八坂だということが分かったからだ。


鑑三は八坂を抱き起こし、響也の時と同じように、斬り落とされた腕をくっつけ、注射器を打っていた。


「その回復薬、さしずめ、【夜行】の素材を使ったものだな・・・」


「ああ、その通りだ」


鬼丸は「なるほど」と頷いた。


UMAハンター達が妙な薬を使っているということは把握していた。


桜班なら、【桜餅】。椿班なら【椿油】。どの種類も、体内に入れたり、患部に塗るだけで、たちどころに傷を癒す。


元の成分は、SANAで長い間研究体として利用されていた、【夜行】の細胞なのだろう。


夜行の特性は【不死】。どれだけ傷つけようと、たちどころに再生する。その高い治癒能力を、回復薬として利用しているのだ。


「貴様らも、我々と変わらぬことをしているのだな・・・」


「ああ、なんとでも言え・・・」


鑑三は嗄れた声のままそう言った。


こんな情報も、鬼丸は笹倉から仕入れていた。


鑑三は、夜行と同じ班だったということ。


そして、夜行に裏切られ、その責任で、UMAハンターを辞めざるを得なかったこと。


今は、SANAの本部で研究に勤しんでいたこと。


「貴様・・・、衰えておらぬか・・・」


「さあな。10年も戦っていないから・・・」


鬼丸は腰の刀を抜いた。


そして、目の前にいる鑑三に、切っ先を向ける。


「私と手を合わせよ。その状態で『衰えておらぬ』と申すのなら、至福の戦いとなろう・・・」


鬼丸がそう言った瞬間、鑑三は床を蹴って距離をとった。


やはり、速い。鬼丸ですら動きについていけなかった。


「悪いが、時間がないんだ・・・」


「やはり、貴様もこの下に行くのか・・・」


「ああ」


「無駄だ。聞こえぬか。夜行の叫び声が・・・」


「聴こえる。だから、オレが止めに来たんだ・・・。元、同じ班の仲間として・・・!!」


鬼丸はしばらく悩んだ後、刀を鞘に収めた。


あの男は、自分に興味を示していない。今襲いかかったとしても、軽くあしらわれるだろう。


鑑三の足音が小さくなっていく。


鬼丸はため息をつくと、床に座り込んだ。


「誰にも止められぬ。あの化け物は。あの、暴走した架陰は・・・」














第49話に続く



UMAハンター図鑑【鑑三】(48)


身長203センチ

体重112キロ


かつて、【最強】の称号を得たUMAハンター。身体能力は人間の域を超えており、その巨体からは想像出来ないスピードで動く。拳で対象を粉砕することも可能。

能力は【蓄積】。筋肉にエネルギーを溜めることで、超強力な一撃を放つことが出来る。エネルギーに蓄積には数秒を要し、蓄積中に攻撃されるとエネルギーの暴発が起きるという弱点を持つ。

現在、悪魔の堕慧児の手に落ちている【夜行】とは、同じ班の一員であった。だが、奈良でモケーレムベンベの討伐任務の最中に反乱を起こされている。その責任をとってUMAハンターを解任された。今は、SANA本部の研究機関で研究をしている。ちなみに、回復薬を発明したのはこの男である。

物語の鍵を握る重要人物である。

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