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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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第8話 通らない刃 その③

蛙の歌が聞こえる

3


「あ、あいつですよ! あいつが僕の友達を!!」


西原の陰に隠れ、翔太が震える指で鬼蛙をさした。


「ど、とうするんですか!? あのお兄ちゃん、死んじゃいますよ!」


声も震えていた。


突如道端で出会ったお嬢様と、その執事と思わしき者の言われるがまま、あの鬼蛙の住処に案内した翔太だったが、一刻も早く此処を立ち去りたかった。


翔太は見てしまったのだ。


三人の友人が、鬼蛙の消化液を前に溶かされ、殺されていく様を。


もがき苦しみ、翔太に助けを求めようとする。伸ばした手から、指の肉が落ちる。


自分が殺されることも怖いが、あの鬼蛙に戦いを挑んで、返り討ちに合う架陰の姿だって見ていられなかった。


「大丈夫でございますよ」


西原は骨の浮いた手で翔太の頭を撫でた。


「お嬢様が、いますので」


「お、お嬢様・・・・・・」


翔太は、鬼蛙の方へ一歩、一歩近づいていくカレンを見た。


小学生の目から見ても、カレンは華奢だった。


とてもではないが、あの巨大な化け物を相手するには無理があるのではないか。


「・・・」


だが、この西原と言う執事の絶対的な自信に何も言えなかった。


「行くわよぉ」


カレンは、架陰が使った同様の閃光弾を地面に叩きつけた。


カレンを、白い光が照らす。その時、カレンの左手に握った「何か」がギラりと光った。


「名扇【翼々風魔扇】!!」


それを黒い空に掲げる。


それは、少し大きな扇子だった。


丸みのある柄は漆が上品に塗られ、そこから、三本の鳥の爪が放射状に伸び、骨組みの代わりをしている。その爪の間に爬虫類質の紫の皮が張られていた。


人目見て、ただの扇子ではない。


「ふふ・・・」


カレンは微笑む。


胸の前で、丁度、体操選手のリボンのように扇子を回転させる。


すると、扇子の回転の中心で、空気が旋回を始めた。


「風神槍」


カレンの一言で、空気が風となり、風が竜巻となる。


翼々風魔扇によって、竜巻が作り出されたのだ。


その竜巻は小柄で、細さ10センチ。長さは1メートルほど。まさに風で作られた「槍」のような形状だ。


「はっ!!」


カレンは大きく振りかぶると、槍投げのフォームで、翼々風魔扇を振り下ろした。


風神槍が、空中の雨や塵を巻き込みながら発射される。


鬼蛙の横腹に竜巻の尖端が直撃。


その瞬間、圧縮され、旋回していた空気が爆発し、強烈な衝撃波が鬼蛙を襲った。


粘液が弾け、腹に大きな波紋を呼ぶ。


たちまち、鬼蛙の巨体が吹き飛んだ。


「!?」


一体何が起きたのか。


理解出来ぬまま、鬼蛙が空気の抜けたゴムボールのようにボテボテと転がった。


「ぷはっ!!」


鬼蛙の下敷きになっていた架陰が顔を上げた。


酸欠の金魚のように、湿気を含んだ空気を吸い込む。


「死ぬかと思った!!」


「大丈夫ー?」


架陰の無事を確認したカレンは、ひゅらひゅらと手を振った。


それを見て、架陰の目が丸くなる。


「えっ、カレンさん!?」


「そうよぉ、カレンさんよぉ」


架陰は約20メートルの距離から、閃光弾に照らされるカレンを見る。


白を基調とした着物。雨風に揺らぐ羽織。そして、薄紅の桜模様。


架陰が纏っているものと同じ着物だ。


「それって・・・」


「ええ、桜班の戦闘服よぉ」


「つ、つまり、カレンさんは・・・」


その時やっと、架陰は「カレン」という名前を耳にした場所を思い出した。


アクアと響也の声がフラッシュバックする。



(カレンからのお土産です・・・)



「そうよお」


カレンはにっこりと笑った。


「私が、桜班副班長、【城之内カレン】よぉ」


その言葉を聞いて、架陰は軽い目眩を覚えた。決して酸欠ではない。


西原という男が、何故架陰に助けを差し伸べたのか、わかった気がした。


「全部、分かっていたんですか?」


架陰が桜班に加わった、新しいUMAハンターだということを。わかった上で、架陰をあのリムジンの中に引き入れたということを。


あの、上品な笑みの裏側に潜む、「策略」的なものを感じた。


「違うわよぉ」


カレンは直ぐに首を横に振った。


「たまたまよォ。城之内家は困っている人を助けるわぁ。架陰くんがUMAハンターだと気づいたのは、あの翔太くんの話を聞いて、直ぐに駆け出したところよぉ」


「・・・、たまたま?」


架陰は叫びたくなった。「イッツアスモールワールド(狭い世間だ)!!」と。


もっとカレンに質問したいことがあったが、架陰の後方でのたうち回っていた鬼蛙が体勢を整える。


「架陰くんっ! 直ぐに立ち上がりなさい。鬼蛙が来るわよぉ」


「あ、はい」


カレンに言われ、架陰は反射的に立ち上がった。そして、刀を握り直し、鬼蛙と対峙する。


架陰の10メートル後ろでカレンが扇子を構える。


「さて、即席の連携といくわよぉ。ちゃんと合わせてねぇ」


「は、はい!!」


架陰は刀を握る力を強めた。


目の前の鬼蛙は、口から消化液と唾液が混じった液体を絶えず垂らしている。眼球を覆う瞼が釣り上がり、怒っていることは瞭然だった。


カレンは以前として笑う。


(いきなり過ぎるけど・・・)


架陰は未だにカレンが副班長であったということについての理解が追いついていなかったが、もう、やるしかなかった。


反撃開始といこうか。



続く




次回予告


架陰「カレンさんって、UMAハンターだったんですね」


カレン「そおよぉ」


架陰「その、小さい『ぉ』って、癖ですか?」


カレン「そおよぉ」


架陰「そうですかぁ」


カレン「そおですよぉ」


架陰「次回予告タイトルお願いしますぅ」


カレン「わかったわぁ」


架陰「(ちょっと楽しい)」


カレン「次回、第9話『架陰とカレンの共闘』」


架陰「お楽しみにぃ」


カレン「お楽しみにぃ」



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