獄炎 その②
獄炎に身を焦がれ
靡いた髪を掴む
2
「さあ、続きと行こうぜ!! ひひひひひひ!!!」
夜行がそう言った瞬間、彼が握る剣に異変が起きた。
ドグンッ!!
と、脈を打ったのだ。
その全身に針刺すような感覚は、架陰にも伝わっていた。
剣を握る当の本人も、「なんだ、こりゃ?」と、刃をまじまじと眺める。
その時、笹倉が観客席から身を乗り出して叫んだ。
「夜行殿!!! そいつは【能力武器】です!!」
「能力武器?」
夜行はボサボサの髪の毛を掻きむしり、考え込んだ。爪が頭皮を抉り、流血する。
頭を刺激したことにより思い出したのか、夜行は手を叩いた。
「ああ、思い出した。UMAの素材を使った武器のことか。10年前から研究が進んでいたよなぁ」
この武器が能力武器だと理解してからの夜行の行動は早かった。
【地を這い仰ぎ見る黒狼の脊椎】の刃を天井に向けた。
「さあて、行くぜ。能力、解放!!」
そう叫んだ瞬間、剣の刃から、漆黒の炎が上がった。
「っ!!」
凄まじい熱気だ。
空気を通して、架陰の頬がチリチリとした熱さを感じた。
「ヒヒヒヒ、こりゃいい!! こいつは、【獄炎】の能力か!!!」
「はい!! オレがSANAから盗み出しました!!」
笹倉が声を張り上げて頷いた。
『まさか、【獄炎】の能力まで手に入れているとは・・・!!』
謎の男の困惑した声が聞こえる。
「どういうことですか?」
『あの武器に使われているUMAの素材も、元UMAハンターのものだ』
「UMAハンター!?」
まさか、あの武器の素材が、人間だと言うのか?
『正確には、半分UMA。半分人間。今の悪魔の堕慧児みたいなものさ。UMAの名を、【マナナンガル】という』
「マナナンガル?」
『西洋の魔女と呼ばれるUMAでね、アクアたちの総司令官だった女の成れ果てだ。彼女も、UMAと化して反乱を起こし、アクア達に討伐されている・・・。その死体も、SANAに回収されていたはずたが、夜行と一緒に盗み出されたようだね・・・』
謎の男が言っていることの半分が理解不能だったが、「かなり強い」ということは伝わってきた。
「さて、行くぜ!!」
夜行が、黒い炎を纏った剣を振った。
「【獄炎】!!!」
剣から灼熱の焔が放たれ、架陰に迫る。
「魔影刀!!」
架陰は炎に向かって漆黒の刃を振り下ろした。
魔影から放たれた衝撃波が、炎を貫く。
一時は吹き飛ばされた獄炎だったが、直ぐに渦巻いて、架陰を取り囲む。
「うっ!!」
熱い。熱い。熱い。
防火性のある戦闘服の繊維の隙間に熱気が入り込み、架陰の身体を焼いた。
名刀・赫夜を握る右手の甲に焔が直撃して、ジュワッと皮膚がめくれ上がった。
「くそ・・・」
架陰は反射的に魔影刀を解除して、魔影で自分の周りを取り囲んだ。
魔影が炎を防ぎ、呼吸が楽になる。
夜行は「へえ」と笑った。
「あの黒い物質で、結界を作ったか・・・」
浅知恵だが、悪くない選択だ。
「だが、これは防げねぇよ」
もう一度、剣を振る。
ブォッ!!と刃から灼熱の炎が放たれ、架陰に直撃する。
「くっそ!!!!」
架陰は赫夜を強く握りしめると、身を捩り、薙いだ。
ザンッ!!!
魔影が炎をかき消す。
「はあはあ・・・、はあ・・・、はあ・・・」
あの一撃を食らっただけで、架陰の頬や腕には火傷が残り、じゅくじゅくとした組織液が染み出していた。
「【魔影】・・・、【魔影刀】!!」
再び、赫夜の刃に魔影を纏わせ、漆黒の大剣に変化させる。
夜行もまた、刃に獄炎を纏わせた。
「さあて、行くか・・・」
二人同時に走り出した。
架陰は夜行に。
夜行は架陰に。
背筋が寒くなるほどの殺意を向けて、刃を交えた。
ドンッ!!!
「ぐっ!!」
「ちっ!!」
二人同時に吹き飛んだ。
【魔影】と、【獄炎】の威力はほぼ同じ。相殺してしまったのだ。
架陰は体勢を整えて着地する。休む暇なく、夜行に斬りかかった。
着地した瞬間、夜行の脚がゴキッと折れ曲がった。
「ちっ、脆くなってやがる・・・!!」
「勝機!!」
バランスを崩した夜行に、架陰が魔影刀を振り下ろそうとした。
その時だ。
夜行はニヤッと笑った。
「とまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれ!!!」
夜行が、何やら呪文のような言葉を架陰に向けて放った。
「っ!!」
その言葉を聞いた瞬間、魔影刀を振り上げていた架陰の身体がビタっと止まる。
「動けない!?」
「終わりだな!!!」
直角に折れ曲がった夜行の脚が元に戻り、床を蹴って架陰に接近した。
「これが、オレの能力、【呪】だよ・・・」
「っ!!」
横に薙いだ夜行の剣が、動けなくなった架陰の腹を斬り裂く。
「がはっ!!」
「おらあっ!!」
架陰の胸骨部に、夜行の蹴りが入る。
パキッと渇いた音がして、架陰の肋が折れた。
架陰は吐血して、吹き飛ぶ。
受身をとることが出来ず、床の上で二、三回バウンドした。その衝撃で、肋がさらに二本ほど砕けた。
「く、そ・・・!!」
「殺さねぇようになぶらねぇとな!!」
その③に続く
その③に続く




