通りゃんせ その③
天神様の細道じゃ
御用の無い者通しゃせん
3
目の前で起こった、ありえない現象をみて、架陰は息を呑んだ。
夜行は、握っていた剣で、自分の首を斬り落としたのだ。
そして、転がってきたその首は、ニヤリと笑った。
首を失った胴体は、グラグラと動いた。
そして、落ちていた首を掴み、元の位置に戻したのだ。
「これがオレの特性、【不死】だよ!!」
「・・・、不死、だと!?」
「そうさ、不死だ」
夜行は剣の鋒を架陰に向けた。
「どんな攻撃だろうと、オレは直ぐに再生する。つまり、永遠に戦い続けられるってわけだ」
「・・・!!」
目を見開く架陰の耳元で、また、あの謎の男が囁いた。
『惑わされるな。彼の特性は、【不死】じゃない!!』
その言葉に、架陰も、精神を使って謎の男に語りかけた。
『どういうことですか?』
『彼は、夜行。元UMAハンターだ』
『元、UMAハンター!?』
あの殺意に満ちた異形者が、架陰と同じUMAハンターだとは思えなかった。
それと同時に、「どうしてそんなことを彼は知っているのか?」と疑問を抱いた。
『彼は、100年前に、【モケーレムベンベ】というUMAを喰って、不死にも勝る【治癒能力】を手に入れた男だ』
「治癒能力!?」
思わず、声に出てしまった。
夜行のニマニマとしていた顔が、ピクっと動いた。
「おいてめぇ、誰と話してやがる」
「・・・!!」
「そうか、お前に取り憑いた男とか・・・」
夜行が身を屈ませ、架陰と視線を合わせた。
「ヒヒヒヒ、聞こえているんだろ? 声が」
「声・・・」
もちろん聞こえている。
そして、夜行に気づかれた。
夜行は、奇妙なことを言い出した。
「おい、どっちだ? 悪魔と、シャドウピープル、どっちと会話している?」
「どっち?」
わけが分からない。
夜行はふっとため息をついた。
「いや、シャドウピープルの方が。悪魔がオレの特性の正体を知っているはずがねぇからな」
『架陰、やつの言葉は無視しろ!!』
無視をしろと言われたところで、架陰は聞いてしまった。自分の心の中に住み着く、この男の手がかりとなる情報を。
架陰がUMAハンターになった理由の一つとして、「あの男の正体を探る」も含まれているのだ。
『夜行と、貴方の関係は、何ですか?』
『今は彼を攻略することを考えるんだ!! 正直、ボクも彼の登場は予想外だった。まさか、やつらが夜行を復活させているとは、思わなかった!!』
『っ!!』
正直、腑に落ちない部分はあった。だが、この男は、自分に危害を加えない。味方だと信じている。
架陰は、精神の中の男に従うことにした。
『夜行は、元UMAハンター。10年前にむはんを起こして、アクア達に討伐されている。実際、彼はこの10年間、【死んでいた】んだ。必ず、攻略方法はあるんだ』
『分かりました・・・』
丁度そのタイミングで、腹の傷が塞がった。クラっとした感覚は消えないが、何とか動けそうだ。
両足で立ち、名刀・赫夜を中段に構える。
夜行はゾクゾクっとした感覚を抑えられずに笑った。
「ヒヒヒヒ、オレは殺せねぇよ。10年前、オレを殺したと思い切っていたアクア達でさえ、オレの復活は予想不可能だったろうが」
【地を這い仰ぎ見る黒狼の脊椎】の刃を、架陰に向けた。
「さあ、お喋りは終わりだ。ここからは、狂騒の時間だぜ・・・、ヒヒヒヒ!!!」
「くっ!」
架陰は床を蹴って夜行から距離をとった。
直ぐに夜行も追いかけてくる。
架陰は腰の刀に手をかけた。
「【地を這い仰ぎ見る黒狼の脊椎】!!」
「名刀、【赫夜】!!!」
ギンッ!!!
二人の刃が衝突した。
押し負けたのは、架陰の方だ。
「強い!!」
ふらついて、夜行の刃に吹き飛ばされる。
何とか、踏みとどまった。
『架陰!! 最初からフルパワーで行け!!』
「・・・、分かりました!!」
謎の男の言葉に従い、架陰は能力、【魔影】を発動させた。
夜行の圧倒的スピードと、圧倒的パワー。そして、圧倒的再生力を前に、対抗できる戦闘手段。
それで、堅実に攻めていく。
「魔影!! 弍式!!!」
架陰の着物の袴の周りを、魔影が取り囲んだ。
「【魔影脚】!!!」
魔影を纏わせた脚で、地面を蹴り出す。
ドンッ!!!
足裏と床との間で衝撃波が発生して、架陰をロケットのような勢いで跳躍させた。
「!!!」
剣を構えた夜行に、名刀・赫夜を振り下ろす。
ギンッ!!! と劈くような音が響き渡り、夜行の身体が数センチ交代した。
「おおらぁっ!!」
架陰は全力で刀を振り切った。
「くっそっ!!」
夜行は、空中に投げ出された。
直ぐに架陰は床を蹴って追跡した。
「はあっ!!」
空中で刀を一閃。
夜行の右腕が、胴体から切断された。
「っ!?」
「どうだ!!」
腕を切り離された夜行は、慌てる様子もなく、逆にこの状況を楽しんでいるかのようにニンマリと笑った。
「ひひひひひ!! いいねぇ、その目だ!!!」
空中で身を捩り、架陰の右側面に回し蹴りをお見舞する。
「ぐっ!!」
蹴り飛ばされた架陰は、床の上に墜落した。
「さあ、楽しもうぜ!!! オレの命が尽きるまで!! お前の命が尽きるまで!! 何百年、何千年と!!!」
死闘が始まる。
第44話に続く
第44話に続く




