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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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第43話 通りゃんせ その①

行きは良い良い帰りは怖い


怖いながらも通りゃんせ通りゃんせ

1


架陰の魔影刀の斬撃を肩に喰らった女郎は、白目を剥いたまま、床の上に突っ伏していた。


会場を取り囲む観衆は、絶えることなく「うぉぉおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおお」と歓声をあげている。


「勝ったのか?」


架陰は恐る恐る上を見上げた。


観客席で、車椅子に座った包帯男と、侍の着物を着た男。そして、笹倉が架陰を見下ろしている。


架陰は女郎に駆け寄った。


「・・・、大丈夫?」


声をかけると、女郎はパチッと目を見開いた。そして、苦痛に顔を歪める。


「同情ですか?」


「そういうわけじゃないけど、人間を斬ったから、後ろめたくて・・・」


【鬼蜘蛛】の能力を発動させている女郎と戦っていた時は、自分の身を守るので必死で刀を振ったが、いざ女郎を倒し、彼が人間の姿に戻ると、「自分は人間を斬ってしまったんだ」という罪悪感が生まれた。


女郎の肩の傷から、どくどくと血が流れて落ちている。数分の内に失血死する量だ。


架陰は着物の懐に手を入れた。


「あの、これ、食べる?」


桜班の回復薬【桜餅】を取り出した。


それを見た女郎は、舌打ちをして、架陰から目を背けた。


「いりませんよ」


「でも、このままじゃ」


「死んでも構いません。どうせ、【悪魔の堕慧児】にならなかったら、死んでいた身です」


「死んでいた?」


「ええ。DVLウイルスに認められた人間は、姿が変わってしまう。僕の場合は、【鬼蜘蛛】でした。人間から、醜い鬼蜘蛛に変化して、自我を失ってしまう。僕にとっては死ぬことと同じです。【悪魔の堕慧児】になることはつまり、身体の形状を、人間とUMAの中間に留めておくことなんですよ」


女郎は吐血した。


「このまま死を待つのみです。貴方から王の力を引き出せなかったボクは役立たず同然ですから」


「・・・、そうなの?」


架陰はどうしようか悩んだ。この桜餅を彼の口に詰め込めば、彼の傷は治る。


だが、彼は拒否するだろう。


(どうする?)


架陰の手が震えた。


UMAハンターは、UMAから人間の命を守る仕事だ。


架陰の目の前で死にかけているのは、人間とUMAの力を持つ者。


彼は人間なのか。


それとも、UMAなのか。


「・・・・・・」


迷うまでもなかった。


(人間だろう・・・)


架陰は桜餅を半分にちぎった。それを、吐血ながら荒々しい息を吐く女郎の口に運ぶ。








その時だ。











ドンッ!!!









「っ!?」


突如、天井で爆発が起こった。


のっぺりとした天井に穴があき、粉々に砕けた瓦礫が架陰と女郎に降り注ぐ。






ドシンっ!!と音を立てて、架陰の前に誰かが立ち塞がった。


ボサボサの髪の毛に、爛れた皮膚。フランケンシュタインのように黒い糸が身体中に走り、かび臭いマントを身にまとっていた。


ニヤッと笑った口から、ボロボロの歯が覗く。消毒液のようなツンとした匂いが架陰の鼻を刺した。


男は、素早く、持っていた剣で自分の腕を裂き、吹き出した血液を女郎の肩の傷に塗り込む。


「っ!?」


その瞬間、女郎の傷が煙を噴出させて塞がった。


「オレの血は、【治癒能力】があるんだよなぁ・・・、ウヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!」


「誰だ、こいつ!?」


ザワっとした寒気に襲われた。


本能的に、「こいつはやばい!」と理解した。


男・・・、夜行は、充血した眼球で架陰を見た。


「お前が、悪魔の力を持つやつか?」


「えっ!?」


架陰は、反射的に身構えた。


その時、架陰の耳元で、架陰の心の中に住む【謎の男】が叫んだ。










「架陰!! 逃げろ!!!!」











「えっ!?」


慌てた声だった。


架陰と初めて出会った時も、架陰に能力を発動させた時も、架陰に魔影を教えた時も、冷静で、ミステリアスな表情を浮かべていた謎の男から聴く、初めての慌てた声だった。










ドンッ!!!










次の瞬間、架陰は空中に蹴り飛ばされていた。


「え?」


「楽しいなぁ!! おい!!」


架陰を蹴り飛ばした夜行は、狂ったような声をあげた。


「楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい。イヒヒひひひひひヒヒッ!! ヒヒヒヒッ!!」


裸足の足で、床を蹴る。


一瞬で、空中の架陰との距離を詰めた。


「だが、終幕だ!!!!」


架陰が腰の刀に手をかけた瞬間、架陰の腹に、夜行が振り下ろした直刀が突き刺さっていた。


「っ!?」


腹に熱いものが走る。


痛かった。だが、思ったよりも痛くなかった。刃の斬れ味が鋭すぎて、痛みを感じる暇さえ与えられなかったのだ。


「ヒヒヒヒ、あんまり痛くないだろ?」


夜行は架陰に顔を近づけた。


「行きは良い良い帰りは怖い!!!」


直刀の柄を握りしめ、思い切り引き抜く。


「怖いながらも通りゃんせ通りゃんせ!!」











ブチブチブチッ!! ブチブチブチッ!!











刃についた返しが、架陰の腹の肉に食い込み、血管と腸を巻き込んで、抉り出す。


ブシュッ!!!


と、噴水のように、架陰の腹から血が噴出した。


「がはっ!!」


消化器系をやられたらしく、架陰の喉の奥から血が込み上げた。








謎の男が叫ぶ。








「逃げろ!! 架陰!! このままじゃ、君は殺される!!!」










その②に続く

その②に続く

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