不屈の精神 その②
神と会話できるのは
烙印を押された
不死者のみ
2
クロナと真子が、悪魔の堕慧児である唐草と激闘を繰り広げている頃。
連れ去られた架陰もまた、悪魔の堕慧児の最深部で、女郎と戦っていた。
女郎は、床の上にうつ伏せに倒れている架陰を見て、「この程度ですか?」と言った。
「我らが王の力を受け継いだ者の力が、この程度ですか?」
「くっ・・・」
架陰はよろめきながら立ち上がった。
胸から叩きつけられたせいで、肺が痛む。身体中の関節からじくじくと痛みが広がっていく。
(どうする・・・?)
歯ぎしりをした。
【鬼蜘蛛】の能力を行使した女郎は、背中から四本の蜘蛛の肢を生やし、褐色に変色した腕から糸を放つ。
以前戦った鬼蜘蛛は、こんな戦い方をしなかった。
女郎はふっと笑った。
「鬼蜘蛛は、Cランクの雑魚だと思っていましたね。ですが、僕がその能力を使えば、ここまで強くなれるんです」
耳まで裂けた口からドロっとした唾液が滴り落ちた。黄色と黒のの肢がパキパキと蠢く。
「人間の頭脳と、UMAとの融合。これが、【悪魔の堕慧児】の力です!!」
女郎は手を前に翳した。
「【拘糸】!!」
白濁した糸が放たれる。
架陰は地面を蹴って躱した。
(あの攻撃を受けるわけにはいかない!!)
一度絡め取られたら、容易に振りほどくことが出来ない。
糸に捕まらないようにかわしながら、超高密度の一撃で、勝負を付ける。
「一気に決める!!」
架陰は能力を解放させた。
「【魔影】発動!!」
架陰の身体から、漆黒のオーラが染み出した。
それに意識を集中させて、自由自在に動かす。
「【魔影刀】!!!」
架陰の名刀・赫夜の刃の周りに魔影がまとわりつき、漆黒の大剣と化す。
女郎はニヤッと笑った。
「いいですね。それが王の能力ですか!!」
「王の能力!?」
笹倉も、あの包帯男も言っていたことだ。
(王って、どういうことだ!?)
「受けて立ちます!!」
女郎は両手を翳し、先程の糸より五倍程太い糸を放出させた。
「【粘縛糸】!!!」
「弍式、【魔影刀】!!!」
女郎の粘液が架陰の刃の斬れ味を奪うのが先か、架陰の魔影刀が粘液を吹き飛ばすのが先か。
ドンッ!!!
勝ったのは、架陰の方だった。
魔影刀の刃から衝撃波が放たれ、女郎の粘液を吹き飛ばす。
「っ!?」
斬撃の勢いは止まらず、女郎の右肩を穿った。
「がはっ!」
女郎の小さな肩がぱっくりと裂け、赤黒い血液が吹き出した。
女郎は白目を剥いて、膝から崩れ落ちる。
「くっそ・・・」
そして、女郎の肩甲骨から生えた蜘蛛の肢が、まるで灰が崩れるように消えた。変色していた体表は、少しずつ元の肌色に戻っていく。
女郎の能力が解除され、人間に戻っていくのを確認して、架陰は名刀・赫夜を鞘に収めた。
「やったのか・・・?」
その瞬間、架陰と女郎の戦いを観ていた観客達が「うぉぉおおおおおぉぉおおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおおぉぉおおおおお」と歓声をあげた。
「さすが我らが王だ・・・!」「あの女郎様をやってしまわれた!」「彼こそ、王の器!!」
拍手喝采。
敵陣に乗り込んでいる架陰だったが、嫌な気はしなかった。
その様子を、同じく観客席から見ていた包帯男も、パチパチパチと手を叩く。
「素晴らしい。さすが王の能力を持つ者・・・」
傍らに控えていた、侍の着物を着た男・・・鬼丸が、「いいのですか?」と口を開いた。
「女郎は力不足でしたね。彼の真の力を引き出すには至りませんでした」
包帯男は、「ソウダネ」と頷いた。
「ダケド、彼ガドレダケ能力ヲ使イコナセテイルカドウカ見ルコトガ出来タ」
「私が行きましょうか?」
鬼丸が半歩前に歩み出す。結わえた髪の毛がふわっと揺れた。腰に差した刀の柄を握りしめる。
「私なら、彼の力を引き出せると思うのですが・・・」
「イヤ、イイ」
包帯男は首を横に振った。
「鬼丸、確カニ君ナラ彼ヲ倒セルカモシレナイケド・・・、礼節ヲ重ンジル君ニ、彼ノ絶望ヲ誘ウノハ不可能ダヨ」
「では、どうするのですか?」
「彼二頼モウ」
「彼?」
「アア、ツィ最近、笹倉ガ、アメリカノ【SANA】ノ本拠地カラ盗ンデ来タ検体ガアッタダロウ?」
「はい、オレが盗んで来ました」
笹倉が頷く。
「準備ハ、デキテイルダロウ?」
「はい、実験班が蘇生に成功しています」
「彼ヲ、放チナサイ」
包帯男がそう言った瞬間、笹倉の表情が困惑に染まった。
「いいのですか?」
「イイヨ・・・」
※
場所は移り変わる。
悪魔の堕慧児の本拠地には、研究施設が設けられていた。
消毒液や、鼻を刺すアンモニア臭が漂うその部屋には、見たことがない薬品や、試験管が並び、白衣を着た医者達が人体実験に勤しんでいた。
基本的に、悪魔の堕慧児の手術は、彼らが行うのだ。
その部屋の奥には、人一人が入れる瓶が置かれていた。
その中は、緑色の液体に満たされ、誰かが身体中に用途不明のチューブを刺されて浮いていた。酸素ボンベからは白い泡が出ている。
「【夜行】・・・、出番だぞ・・・」
研究員が呼びかけた瞬間、中に浮いていた裸の男が、目を見開いた。
「きゃはっ!!」
その③に続く
その③に続く




