【第41話】クロナ&真子VS唐草 その①
霧雨の月を見る
己の姿を水面に浮かべて
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架陰が女郎と戦っている頃、悪魔の堕慧児の本拠地の地上一階では、クロナと真子の激闘が始まっていた。
「僕の脚は、山羊の脚!!」
唐草が下駄で地面を蹴り、一瞬で距離を縮めてくる。
クロナは名刀・黒鴉の刃で、唐草の蹴りを受け止めた。
ギンッ!!
「重っ!!」
「僕の蹴りを止めれるやつなんていないよ」
踏ん張りが効かず、吹き飛ばされた。
「くっ!!」
クロナは床に手を着いて、衝撃を緩和させる。
「遅いね!」
唐草が畳み掛ける。
すぐ様、真子が矢を射った。
「【名弓・天照】!!」
「っ!?」
唐草の脳天めがけ、炎を纏った矢が飛んでくる。
「ふっ!!」
唐草は脚で蹴り飛ばした。
その隙にクロナが切り込む。
「名刀・黒鴉!!」
ギンッ!!
渾身の一撃も、唐草の下駄で防がれた。
「速いね!!」
「そりゃどうも!!」
クロナは地面を蹴って後退した。
接近戦はかなりまずい。あの男の蹴りを喰らえば、タダでは済まないだろう。
「さて、どんどん行くよ・・・!!」
唐草は戦いを心底楽しんでいるような顔をすると、ドンッ!!!と床を踏み込んだ。
衝撃で、床に蜘蛛の巣状の亀裂が入る。
「僕の脚は、山羊の脚!!」
「くっそ!!」
速い。かわせない。
クロナは黒鴉の刃で、右脚の蹴りを受け止めた。
ギンッ!!
足が十センチ下がる。
「はっ!!」
唐草は空中で身を捩り、左脚をクロナの右肩に直撃させた。
「ぐっ!?」
ゴキッと鈍い痛みが走る。
「吹き飛んじゃえ!」
為す術なく、蹴り飛ばされた。
「クロナ姐さん!!」
真子が、名弓天照の弦を引く。
「【焙烙火矢】!!」
鏃に塗りこまれた薬品が、空気との摩擦で発火する。
炎を纏い、矢が唐草に迫った。
「この程度で、僕を殺せると思った?」
唐草はニヤリと笑い、足蹴で火矢を払い除ける。
真子も、ニヤリと笑った。
「思っていないっス!!」
「っ!?」
唐草の背筋に、冷たいものが走る。
唐草は本能で理解した。ああいう顔をする時は、必ず何か仕掛けて来るのだと。
「クロナ姐さん!!」
真子の攻撃を払っていたおかげで、吹き飛んだクロナへの注意が散漫になっていた。
その隙に、クロナは、名刀・黒鴉の能力を発動させていたのだ。
「名刀・黒鴉、能力解放!!」
黒鴉の漆黒の刃から、鴉の翼を思わせる羽が生え、刀を大翼へと変えてしまう。
「【名鳥黒破斬】!!」
振り下ろした瞬間、刃から生えた無数の羽が、唐草目掛けて飛んでいった。
「っ!?」
唐草は直ぐに防御姿勢を取る。心臓さえ避ければ、何とかなる自信があった。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!
「くっそっ!!」
唐草の腕と腹に、硬質な羽が突き刺さった。
傷口から、赤い血が吹き出す。
(油断した!!)
唐草は床を蹴る。
「逃がさない!!」
クロナはもう一度、黒鴉の能力を解放させた。
刃に、黒い羽根が生える。
「名鳥黒破斬!!」
再び、数百に及ぶ羽の雨が、背を向けて逃げる唐草に目掛けて放たれた。
(間に合え!!)
唐草は、壁に突き刺さった和傘の柄を握る。
その瞬間、唐草の勝利は決定事項となった。
「【名傘・雨乃朧月】」
和傘を開き、盾のようにして、クロナの名鳥黒破斬を防ぐ。
「貫け!!」
「無駄だよ!!」
唐草が装備した傘は、降り注ぐ羽の雨を、いとも簡単に弾いた。
「私の名鳥黒破斬がっ!?」
唐草には一発も命中しなかった。
「行くよ!! 名傘・雨乃朧月!!」
唐草は少しばかり本気を出した。
右手に和傘を構え、地面を蹴る。
真子が矢を放った。
「火炎矢!」
「名傘・雨乃朧月、特性、【耐火】!!」
和傘で簡単に払い除けられる。
「飛び道具が、君たちだけの特権だと思わないでね!!」
唐草は、二人から少し距離を取り、傘を開いた。
「名傘・雨乃朧月・・・、能力、発動!!」
「あれも能力武器なの!?」
「まずい臭いっス!!」
赤い傘の表面に、プツプツの、水滴が浮かび上がった。
「【夕立】!!」
その瞬間、傘表面に浮かび上がった水滴が、弾丸のような勢いで発射された。
「っ!?」
クロナ、真子の身体を貫く。
「ぐっ!!」
小さく空いた穴から、少量の血が吹き出した。
唐草は「あはははは!!」と高笑いをした。
「楽しいねぇ!」
「くっそっ・・・」
「だけど、これだけじゃないからね!! 僕はまだ、自分の能力を解放していない!!」
その②に続く
武器図鑑【名傘・雨乃朧月】
製作者【一代目鉄火斎】
和傘の形をした能力武器。能力は、表面に水を発生させ、弾丸のように飛ばすことが出来る。かなり強靭で、クロナの名鳥黒破斬を防ぐことが出来る。どちらかと言えば、盾のような扱いの方が好ましい。




