【第40話】 半人間半UMA その①
僕の中に流れる人間の血と
君の中に流れる悪魔の血は
果たして本当に別物なのだろうか
1
「おい、起きろ」
頬に鋭い痛みが走り、架陰は夢の世界から連れ戻されていた。
「・・・?」
目を開けたら、見知らぬ場所に横たわっている。
どこかの部屋だということはわかったが、競技会くらい開けそうなくらい広い。
床は白色タイルで覆われ、壁は紫がかった黒色で架陰を取り囲んでいた。
天井は、体育館と同じくらいだろうか。
「・・・ここは、どこ?」
「オレたちの本拠地だよ」
笹倉が隣に立っていた。架陰と戦った時はガーゴイルの姿をしていたが、今は元の人間の姿に戻っている。
「暴れんなよ。一応、お前はVIP扱いなんだから」
「VIP?」
つまり、特別待遇者のことか。だが、架陰にはそんな者になった覚えがなかった。
「ボクって、そんなにすごい人だっけ?」
自分の鼻を指さしてそう聞くと、笹倉は顔面蒼白となった。
「お前、知らないのか?」
「うん、知らないよ・・・」
本当に知らない。
強いて言うなら、魔影を発動させた時に時出てくる「謎の男」の姿が思い浮かぶくらいだが。
「しゃーね」
笹倉は面倒くさそうに頭をかくと、指をパチンッと鳴らした。
次の瞬間には、この本拠地全体が小刻みに揺れた。
「っ! 地震!?」
「違う」
体育館並に広い部屋の壁かの刻みに揺れた。いや、壁のように見えていたのは、「暗幕」だったようだ。
「紹介するぜ。これがオレの仲間だぜ!」
長方形型の部屋を取り囲んでいた暗幕が取り外される。
その瞬間、雄叫びのような声が響き渡った。
「おおおっ!! 我らが王よ!!」「彼が私たちの王様ね!!」「王様に似ているなぁっ!!」
「・・・、これは!」
目の前に姿を表したその光景を見た架陰は、静かに瞳孔を開いた。
それは、観客席だった。
ざっと数えて、2000人は入れそうな、折りたたみ式ベンチが並べられている。
まるで、何かの試合を見るために造られたようなデザインだ。
そこには、ざっと数えて2000人程の人間が座って、架陰の登場を心から喜んでいるように見えた。
「あの人たちは?」
「奴らも、悪魔の堕慧児だぜ」
「こんなにも・・・?」
笹倉と唐草を相手にするだけでも苦戦、いや、敗北を喫することとなったのだ。まさか、二人を追い詰めた悪魔の堕慧児が、2000人近くいるとは思えない。
「と言っても、奴らはまだ手術を終わらせて居ない奴らだ」
「手術?」
「ああ、【悪魔の堕慧児】の能力を手に入れるための手術だ」
「えっ!?」
架陰は驚きのあまり、数センチ後ずさって、笹倉の身体を指さした。
「さっきのガーゴイルの姿は、手術で手に入れたの!?」
「ああ、そうだよ」
笹倉は手足を動かして見せた。
「お前は、本当に何も知らないみたいだな。お前の中の主は、何をしてるんだ?」
「主・・・?」
やはり、架陰の心に住み着く、あの謎の男のことを言っているのだろうか。
「まあいいや」
笹倉は手を叩いて話を切り替えた。
「教えてやる。悪魔の堕慧児について」
「え、教えてくれるの?」
結構親切な人のようだ。
相変わらず観客席では、「悪魔の堕慧児」達が叫んでいた。
そのためか、笹倉の言葉も自然と大きくなる。
「悪魔の堕慧児ってのは、DVLウイルスに許された者のことを言うんだよ」
「許された?」
【補足】・・・DVLウイルスとは、10年前に世界中に蔓延したウイルスのことである。主な効果として、「能力者の素質がある者の、能力を開花を止める」、「生物に突然変異を促し、UMA化させる」というものがあげられる。
笹倉は説明を続ける。
「普通、DVLウイルスに感染した者は、能力の覚醒を妨げられる」
【補足】・・・DVLウイルスの感染者は、基本的に全員である。つまり、クロナや、響也、カレンも感染者である。
「だが、DVLウイルスに許された者は、【能力者】として覚醒するんだ」
「アクアさんみたいに、水を出したりすること?」
「少し違うな。DVLウイルスは、能力者の能力を強化させる。どちらかと言えば、【UMA化】に近いものだ」
「UMA化・・・」
UMA化するということはつまり、先程の笹倉のガーゴイルのような姿になるということか。
「DVLウイルスに許された者は、身体が急速に変化し始める。DVLウイルスが遺伝子を組み替えてしまうからだ。そして、完全に変換されると、全く別のもの生物になってしまう。それを防ぐために、オレたちは手術を受ける。そうすれば、UMA化の進行を止め、人間とUMAの姿の切り替えができるようになるんだ」
「ボクを蹴って気絶させた子も、変化ができるの?」
「ああ、唐草のことか。あいつも、UMAに変化できる」
笹倉の説明で、架陰ははっきりと理解した。
今自分の目の前に立つ者は、人間であり、UMAであるということを。
もし、その時が来るとしたら、架陰はこの人間を斬らなければならないのだ。
「・・・」
架陰は口を噤む。
まだ下手なことは言えない。下手に逆らえない。
興味が沸いた。
この悪魔の堕慧児達に。
自分の、生い立ちに。
(ここで、得られる情報は全て得てしまおう・・・)
架陰、孤独の戦いが始まった。
その②に続く
その②に続く




