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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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第8話 通らない刃 その①

蛙の歌が


聞こえる

1


架陰が周囲に意識を集中させた瞬間、沼から大きな水柱が上がった。


「!?」


どす黒い水が飛散し、より一層濃い悪臭が漂う。「ヘドロ」と思わしき粘性を持った液体が足元に落ちた。


ぞわりと、背筋に冷たいものが走った。


「何か来る!?」


咄嗟に架陰は飛び退いた。


その架陰の立っていた場所に、巨大な何かが墜落した。


「!?」


バシャンッ! と、まるで、水溜まりをトラックのタイヤが通過した時のような勢いで水しぶきが架陰にかかる。


(臭っ!)


架陰は顔を顰めた。


「なんだ・・・?」


改めて、架陰の前に現れた「巨大生物」を目に焼きつける。


その異形に、思わず身震いした。


「肉塊!?」


それは、白い肉塊だった。大きさ、約2メートル。全表面を疣が覆い、一つ一つの疣の間を、白い液体が伝って流れ落ちている。


所々に、青紫の血管が浮いて見えた。ブルブルっと痙攣している。


何かの生物だということは確かだ。


「どうする?」


架陰は腰の刀に手を掛けた。


とりあえず、切ってみるか?


だが、毒ガスでも放たれたらたまらない。


「うーん・・・」


架陰は刀を抜く決心がつかず、5メートル後ろから肉塊の様子を観察した。


肉塊はずっとピクピク痙攣している。


何もしてこない。


「UMAじゃないのか・・・?」


その時だ。


「!?」


肉塊の表面に一本の線が入った。


その線は切り込みとなり、ニチャアっと粘りのある音を立てて開く。肉塊の中から、ピンク色の体内が見えた。


チロチロと、細長い舌が顔を出す。


「く、口?」


さらに、その口らしきものの上部に、二本の短い線が入った。


丁度、「顔」のような形に切込みが入ったのだ。


その二本の線を不快な音を立てて開く。


中から、ビー玉のような眼球が姿を見せた。


「!!」


やはり、これは生物・・・、UMAだ。架陰は確信した。


肉塊の変化は、そこから早かった。


手が生える。


足が生える。


真の姿を、架陰の前にさらけ出す。その姿は、もはや肉塊と呼ぶべきではなかった。


「蛙!?」


巨大な、蛙だった。











2


巨大蛙は、カバよりも大きな口を開け、生臭い息を吐き出した。


「ぐふぅぅぅぅ・・・」


スイカのような眼球に張り付いた瞼がキロキロと動く。


「・・・・・・」


架陰は無意識に一歩右足を下げた。恐怖からだった。


(デカすぎるだろ・・・)


架陰に立ち塞がるそのUMAは、まるで岩のような存在感を持っていた。


(僕に、倒せるのか?)


そのような考えが浮かんだ瞬間、首を大きく横に振って、情けない思考を外に飛ばす。


(自分でここに来たんだ・・・、自分で何とかしないでどうする!)


半ばやけくそで、巨大蛙と向き合った。


「よし、お前は僕が倒す!」


架陰は刀をゆっくりと抜いた。地面に置いた簡易ランタンの光を反射して、刃が銀色に輝く。


(僕が見つけたUMAなんだから、命名権は僕にある。巨大な蜘蛛が『鬼蜘蛛』なんだから、巨大な蛙は『鬼蛙』ってところか・・・)


そんなくだらないことにこだわっていると、鬼蛙が小さな脚でぬかるんだ地面を蹴った。


(来る!?)


巨大な肉の塊が、架陰目掛けて突進してきた。


「くっ!」


何とか横に跳んで躱す。


殺気は十分だった。


勢い余った鬼蛙は、その巨体ごと地面に滑り込んだ。トンは超えるであろう体重に、地面がえぐれる。


「あれを食らったらまずいな・・・」


ローペンとの戦いや、クロナ、響也との特訓で、ある程度の判断能力が鍛えられていた架陰は、鬼蛙から距離を取った。


「少しずつ消耗させていこう・・・」


鬼蛙が顔をあげる。そして、その柔らかい体で架陰の方を振り返った。


再び、地面を蹴って突進する。


「ふっ!!」


架陰も再び躱した。


「読めるぞ・・・」


架陰はこの二撃で、既に鬼蛙の行動パターンを掴み始めていた。


心を落ち着かせ、力を抜いた身体で鬼蛙と対峙する。


(攻撃は単調・・・)


突進。


躱す。


突進。


躱す。


(当たらなければ意味が無い・・・)


躱す。


ところが、跳んで、着地した瞬間、ぬかるんだ地面に足を取られる。


「!?」


バランスを崩して、刀を持っていない左手を地面につく。


その間隙を縫って鬼蛙の突進攻撃が放たれる。


「くっ!!」


架陰は身を捩り、何とかそれを躱した。ヌメった鬼蛙の体表が架陰の着物の裾を掠める。


(落ち着けよ・・・)


今の一瞬で、架陰の心臓は口から飛び出すくらい脈を打っていた。


架陰は着物の上から胸を押さえ、逸る鼓動を抑える。


(周りの状況も、考慮しろ!)


頬を伝う雨の雫を拭う。


ただでさえ視界の悪い状況だ。なるべく、地面で光る簡易ランタンから距離を取らないように戦った。


そうすることで、かろうじて、鬼蛙の巨体の輪郭を捉えることができていた。


「こっちだ!!」


架陰は近くに生えていた木を背にして、鬼蛙を挑発した。


鬼蛙は直ぐに反応する。


まるで「食べてください」と言わんばかりのその架陰に向かって、大口を開け、渾身の突進を食らわせる。


「今だ!! 」


鬼蛙の口が架陰を呑み込む瞬間、架陰は木の幹を足場にして上に跳んだ。


木の幹に鬼蛙が直撃。その柔らかい顔に、ゴツゴツした巨木がめり込む。


そして、上空からは架陰。


「喰らえっ!!」


上体を捻って回転を加える。


重力と遠心力で強化された刀が、強力な一撃となって鬼蛙の背中に炸裂した。


手応え・・・、無し。


「!?」


振り下ろした架陰の刃は、鬼蛙の皮膚にめり込む。


さらにめり込む。


1メートルはめり込む。


だが、血は吹き出さない。


そして、遂には刃が滑って体勢を崩し、架陰は巨体の弾力に弾き飛ばされた。


「ぐはっっ!!」


架陰は身体を木の幹にぶつけた。しかめた口からうめき声が漏れた。


まるで超強力トランポリンに飛ばされたような勢いだ。


「き、斬れないだと!?」


その②に続く

その②に続く

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