架陰を取り戻せ! その③
天照に誓う
雨上がりの輝きを
八咫烏に誓う
せせらぎの道標を
3
山奥に佇むその建物は、清潔感のある白色の外装で、木々や苔に囲まれたその空間には似つかわしくなかった。
広さは、学校の校舎よりも少し低い程度。
一同は、入口らしき鉄の扉の前に立った。
「ごめんくださいっス!!」
真子が無遠慮に扉を叩いた。
「おいコラ!」
八坂が真子の頭を殴る。
「なんスか?」
「いきなり敵さんの家にノックする奴がいるか?」
「ここにいるっスよ?」
「・・・・・」
八坂は口を噤むと、静かに後ろへと下がった。もう、真子の相手はしていられなかった。
その瞬間、扉が「ギギギギ・・・」と不快な音を立てた。
ゆっくりと、扉が開く。
奥は薄暗闇だった。
そこから、コツンコツンと、まるで革靴のソールでタイルの床を弾いている音が近づいてくる。
「やあ、こんにちわ。侵入者たち・・・」
現れたのは、白い髪の男だった。まるで大昔の戦の兵士のような薄灰色の着物を見に纏い、簡易甲冑を腕に嵌めている。そして、右手には和傘を握っていた。
「こいつ!!」
鉄平の記憶に、この十八歳くらいの男の顔が一致した。
「オレを蹴ったやつだ!!」
男、いや、唐草は鉄平の顔を見て、「ああ」と手を打った。
「君は、僕に負けた弱い人だね」
「・・・、てめぇ!」
鉄平が今にも殴りかかろうとするのに対し、唐草はペコッと礼儀正しくお辞儀をした。
「歓迎するよ。一度UMAハンターの実力を見てみたかったんだよ」
「っ!!」
「鉄平、下がってて」
鉄平を手で制して、味斗とアクアが前に出た。
ニコニコと笑っていた唐草の顔から笑みが消える。
「へぇ、懐かしい気配かと思えば・・・。世界を救った子供じゃないですか」
「今は成人している・・・」
10年前の話だ。
そのことを知っているということは、やはり、唐草は只者ではない。
唐草は「いいですね!」と言って、紅葉のような色をした和傘をくるくると回した。
「ボク、ワクワクしてきたなぁ! この人たちと戦えるなんて!」
「戦う?」
この男から「戦う」という言葉が出るということは、やはり、「架陰を返してください」と言って返って来るものではないということだ。
「一応聞いておくわ。架陰はどこ?」
アクアの質問に、唐草は青い床を指さした。
「この下です。この、悪魔の堕慧児の本拠地は、地下深くに建設されているんですよ」
まるで、桜班本拠地みたいだ。とクロナは思った。
「一応聞いておくわ。返してくれないのよね?」
「ええ。架陰様は、ボクたちの王様なので。絶対に返すわけにはいきません」
「王様・・・?」
やはり、彼らの目的が分からない。
唐草は床を蹴ると、建物の奥に入ってしまった。
一同、つられて中に入る。
外観よりも広い場所だった。
何も無い殺風景だが、約80×80メートル程の広さ。床は青く、天井は30メートルと言ったところ。
のびのびと戦えそうな場所だった。
「さあっ!! 来てください!!」
唐草は和傘をとじ、床に突き立てた。
「架陰様を取り戻したくば、この先にスタンバイしている三人の【悪魔の堕慧児】を倒すことですよ!!」
「やっぱ、そうなるわよね・・・」
クロナはため息をつき、腰に差した【名刀・黒鴉】の感触を確かめながら前に出た。
真子がその横に並ぶ。
「クロナ・・・」
「はい。アクアさん。ここはBチームの私と、真子ちゃんが担当します・・・」
ここの階にいる悪魔の堕慧児は、唐草だけだった。全員で叩けば、何とかなる可能性もある。
だが、時間を食っている暇はない。
「いいねぇ!」
唐草は満足気に笑った。後ろにある、地下への階段を指さす。
「ここから地下に行けます。【全員で僕を袋叩き】にするか、【戦力の一部を削ぎ早く進む】が。どっちでもいいですよ!」
「・・・」
味斗、アクア。二人の総司令官が出した答えは。
「クロナ。真子ちゃん。頼んだわよ!」
「了解!」
「了解っス!!」
先に進むことだった。
アクア、味斗、響也、カレン、鉄平、山田、八坂が、唐草の横を通り過ぎ、地下への階段を下って消えていく。
取り残されたクロナと真子は、目の前で威圧感を放つ唐草と対峙した。
「さあ、始めようか」
唐草はペコッとお辞儀をした。
「僕は、【悪魔の堕慧児】の一人、【唐草】」
そして、赤い和傘を開き、柄を肩にかけた。
「最強の男だよ・・・!」
「ふざけんなっス!!」
自らを最強と名乗る唐草に、真子が反論した。
「じゃあ、私たちが勝ったら、私たちが最強っスね!!」
「あははは!」
唐草は楽しそうに笑った。
「うん。それでいいよ。面白いことだね。君は」
その瞬間、唐草の和傘がピシャリと折り畳まれ、矢のような勢いで飛んできた。
「っ!!」
咄嗟に躱す二人。
和傘は、建物の壁に勢いよく突き立った。
その間隙を縫って唐草が二人に接近する。
「僕の脚は、山羊の脚!!」
下駄による蹴りが、クロナを襲った。
ギンッ!!
何とか黒鴉で防ぐ。
「さあ、始めようよ!」
クロナ&矢島真子VS唐草
開幕!!!
第40話に続く




