架陰を取り戻せ! その②
朔の日に君を探す
望月に君を見つける
2
アクアが用意したマイクロバスに、桜班、椿班のメンバーは乗り込んだ。
アクアは運転席に。味斗は助手席に座る。
「さあ、みんな。シートベルトを締めて! 出発するわよ!」
アクセルを踏んだ瞬間、マイクロバスは勢いよく走り始めた。慣性の法則で、シートに押さえつけられる一同。
「鉄平くん。架陰の居場所は分かる?」
「あ、分かるぜ」
鉄平はスマホの画面の覗き込んだ。
地図上で、架陰を示す赤い点が動いている。猛スピードで北へと向かっているのがわかった。
「北だ」
赤い点は、一直線に飛んでいる。つまり、道路を無視して、空中を横切っているということだ。
(あの、【ガーゴイル】の能力を持っているやつか・・・!)
「今のうちに、チーム分けをしておくわね」
アクアは前方を見たままそういった。
「「「チーム分け?」」」
桜と椿のメンバーの声が揃った。
「ええ。敵は少なくとも二人。いや、それ以上と見るべきね。だったら、桜と椿の二班でも太刀打ち出来ない可能性があるわ」
アクアに代わり、味斗が口を開いた。
「だから、この七人のメンバーを、三つのチームに分けるんだ」
真子が手を挙げた。
「つまり、桜と椿の混合チームってことっスか?」
「そうだよ」
味斗は、両者の嫌そうな顔を無視して、各戦闘員の戦闘データに基づいたチーム分けを始めた。
「【Aチーム】が、鈴白響也、八坂銀仁」
「うげっ!!」
前回のバンイップとの戦いで、響也に首を落とされかけている八坂は、あからさまに顔を顰めた。
響也は面白がって、八坂の頭を叩く。
「よろしくな」
「ひぃいいいい!!」
この中で、一番接近戦に強いのは響也だった。それに、狙撃系統の武器を持つ八坂。バランスの取れた布陣だ。
味斗はBチームのメンバーを発表した。
「【Bチーム】が、雨宮クロナと、矢島真子だ」
真子は犬のようにクロナに飛びついた。
「よろしくっス!!」
「うん、よろしくね」
残りの、城之内カレンと、堂島鉄平。そして、山田豪鬼は、【Cチーム】となった。
「この3チームで、悪魔の堕慧児の本拠地に乗り込む。恐らく、彼らは武力を持って攻撃してくるはずだから、僕達も迎え撃つんだ」
一通りの作戦会議は完了した。
マイクロバスは、堂島が指示する方向へと走っていく。
鉄平は、拳を握りしめた。
「【Cチーム】は、あの笹倉って野郎と戦うぜ!! 架陰を連れ去ったその罪、百回殺して後悔させてやる!」
「あらぁ。架陰くんを護れなかった罪は、どうなるのかしらぁ?」
カレンの静かなる皮肉が、鉄平の心臓を貫いた。
カレンはニコニコとしながら、翼々風魔扇を取り出す。
「鉄平くん。百回死ねるのかしらぁ?」
「す、すまん・・・」
凄んで脅しをかけてくるヤクザよりも、この女の方がよっぽど怖かった。
クロナと真子は、もう打ち解けあって、悪魔の堕慧児との戦闘になった時のシュミレーションをしていた。
「私がここに立つとして・・・」
「じゃあ、私はこうやって援護するっス」
「そうね、こうなったら、ここでこうなるから」
「はい、思いっきりぶっぱなしますっス!」
「真子ちゃん。偉いわね」
「えへへへ!」
クロナに頭を撫でられ、真子が照れていると、横から八坂が口を挟んだ。
「クロナ姐さん。そいつは媚びを売りまくるから、気をつけた方がいいですよ」
「あ?」
真子は車内で弓矢を構える。
「脳天撃ち抜くっスよ?」
「あ? 脳天撃ち抜いてやろうか?」
八坂も負けじとライフルを構えた。
「やめろ」
すかさず、響也が八坂の首を締めあげた。
「ぐええええええ!!」
「響也姐さん!! そのままで!!」
「おう! 殺れ、真子!!」
桜班と椿班のやり取りを見て、アクアは楽しそうに微笑んだ。
「みんな、すっかり仲良くなったわね」
「いや、あれで良いのか?」
味斗は少し心配だった。彼らがくだらないことで仲間割れして、戦いに全く機能しなかった場合を。
「あ、アクアさん。そろそろ着きますぜぇ!」
マイクロバスは、いつの間にか山道へと入っていた。前回の蛇山よりも遥かに広い。アスファルトの道は、いつの間にか砂利道へ。砂利道はいつの間にか土の道へと変わった。
道幅一杯に伸びた木の枝が、バスの窓を傷つけて行く。いつの間にかすりガラスのようになっていた。
「そろそろ、車じゃ無理ね」
アクアはブレーキを踏んだ。
「ここからは降りて、歩いてアジトを目指しましょう」
「了解!」
アクア、味斗、そして、七人はバスから降りる。
鉄平が、「いや歩く必要ないな」と、スマホを見たまま言った。
鉄平のスマホの位置情報は、架陰の位置情報と、限りなく一致していた。
つまり、目の前にあるこの建物。まるで、何かの工場のようなこの建物に、架陰がいることは明白だった。
「ここが、悪魔の堕慧児のアジトだ!!」
その③に続く
その③に続く




