【第39話】架陰を取り戻せ!! その①
手を繋ぎ合う
桜と椿
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「なるほど・・・」
鉄平から、架陰が連れ去られた経緯を聞いた山田は、丸メガネを押上げ、こくりと頷いた。
「つまり、【悪魔の堕慧児】と名乗る者たちが襲撃してきて、桜班の市原架陰殿を誘拐したということですね」
「そうだ!」
「彼を、今から椿班全員で救いに行くと」
「そうだ!」
山田は短いため息をついた。普段寡黙な彼がため息をつくということは、あまり乗り気では無いことが見て取れた。
「・・・、架陰殿の居場所は分かるのですか?」
「もちろん!!」
鉄平は赤スーツの内ポケットからスマホを取り出した。
電源を付けると、地図上で赤い点が動いているのがわかった。
「これは、追跡アプリ。架陰がいつどこにいてもいいように、オレがこっそり発信機を付けておいたんだよ!!」
「鉄平さん、後で警察に行きましょうね」
まさか、自分たちの班長がストーカー紛いのことをしているとは思わなかった。
だが、これは好機だった。
架陰を連れ去った彼らは、架陰のトランシーバーだけを壊している。つまり、鉄平が付けた発信機には気づいていないということ。
「こいつで、奴らにバレないように追っかける!!」
鉄平が意気込んだ瞬間、食堂の扉が開いて、赤スーツに着替えた真子と八坂が入ってきた。
「準備完了っス!!」
「こちらも完了です」
「よっしゃ、行くか!!」
「お待ちを」
鉄平が早速部屋を出ていこうとしたので、山田の豪腕が引き止める。
「味斗さんへの報告は?」
【補足】・・・火村味斗(26)は、椿班の総司令官である。ちなみに、桜班総司令官のアクアとは同期。
「いらねえよ。あの人に報告したら、絶対に『ダメだ』って言うに決まってんだろ」
「言うわけないだろ。ボクが君たちに」
まるで測ったかのように、扉が開いて、我らが椿班総司令官の【火村味斗】が入ってきた。
「味斗さん!?」
「来てたんですか!?」
「うん、来てたよ」
味斗はこくっと頷いた。その拍子に、富士額から伸びたサラリとした髪の毛が揺れた。
「話は聞かせてもらった」
やはり味斗は測ってこの部屋に入ってきたようだ。
「ならば、【市原架陰奪還作戦】は、総司令官のボクの名のもとに指示をするよ」
「っっ!?」
作戦の承認は、椿班戦闘員の四人さえ予測していなかったことだった。
椿班の総司令官は、策士と言っていいほど、冷静沈着な男だった。無駄な争いや、勝ち目のない相手には立ち向かわない。
それが、他班の男のために、自分の班員を任務として駆り出させるのだ。普通に考えて、異例だった。
「本当に、行っていいんですか?」
味斗が反対することを予想していた鉄平も拍子抜けだ。
味斗はにっこりと笑った。
「うん、行っておいで。そして、架陰くんを助け出しなさい」
「はい!!」
鉄平は意気込んで大きく頷いた。
そして、早速鉄棍を装備して外に出ていってしまった。
残された真子、八坂も慌てて鉄平の背中を追う。
山田だけだった。我らが総司令官に疑問を抱いたのは。
「味斗さん。どうしてですか?」
「どうして?」
「はい。なぜ許可をされたのか聞いているのです」
「やはり山田、君は鋭いね」
味斗は何かを企んでいるような顔をした。
「【悪魔の堕慧児】に会ったんだろ?」
「ええ。鉄平さんはそう言っていました。私には何のことだかですが」
「架陰くんを取り戻すということはつまり、その【悪魔の堕慧児】と戦うということだ」
味斗の穏やかな目に、鋭い光が宿った。まるで、目の前の獲物を絶対に逃すまいとする蛇のようだった。
「十年、待ったんだ。ボクと、アクア。それに、風鬼や光、平泉だって・・・」
「・・・?」
山田には、味斗が何のことを言っているのか分からなかった。
「必ず、【悪魔の堕慧児】は殲滅する!」
※
「さあ行くぜ!!」
勢いそのまま、鉄平は寮のガラス扉を押し開けて外に出た。
その瞬間、彼の勢いは急速に衰えることとなる。
「よぉ、椿班さん」
「こんにちはぁ」
「久しぶりね。鉄平くん」
寮の前で、桜班の連中が待機していたのだ。
【班長】鈴白響也。
【副班長】城之内カレン。
【三席】雨宮クロナ。
「げげげ!!」
と半歩下がった時にはもう遅い。
響也は音も無しに踏み込み、鉄平に接近する。流れるような動きで、彼を雑草だらけの地面に叩きつけた。
「さて、ウチの架陰を護れなかった落とし前はどうつけてくれるんだ?」
「す、すまねぇ!!」
遅れて、アクアがやってきた。
「はいはい、響也。そこまでよ」
響也を鉄平から引き剥がす。
「架陰が連れ去られたことは、椿班の総司令官、味斗から聞いたわ」
どうやら桜班をこの場に呼んだのは、味斗らしい。
鉄平、いや、真子や八坂の脳裏にも、嫌な予感が掠めた。
前回のバンイップ同様、桜班が関わってくる時は一悶着が起きるのだ。
アクアは椿班の考えを読んだようにニヤリと笑った。
「これより、【桜班椿班合同市原架陰奪還作戦】を開始するわよ!!」
その②に続く
その②に続く




