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UMAハンターKAIN  作者: バーニー
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悪魔の堕慧児 その③

サヨナラはまだ言わない

3


場面は移り変わる。


ここは、架陰たちと悪魔の堕慧児の戦いの場から数キロ離れた町。都会と言うほど栄えてもいないし、田舎と言うほど何も無い訳ではない。


小さなショッピングモールや、小さな遊園地が存在し、欲を出さなければ一生ここで生きていけるような町だった。


その町に、とある寮が建ってあった。


清潔感のある白い壁は、五年経った今でも健在で、海外の洋館をモチーフにした窓は、通りすがりの者の目を惹く。「一体どんな人が住んでいるんだろう?」と噂になっていた。


簡潔的に言えば、そこは、【椿班本拠地】だった。つまり、鉄平とその仲間が暮らす場所だ。




【補足】・・・椿班班長は、堂島鉄平。副班長は山田豪鬼。三席は八坂銀仁。四席は矢島真子。である。






「・・・・・・、遅いっスねぇ」


食堂の椅子に座り、脚をブラブラさせていた椿班四席の真子はため息をついた。


「ねぇ、八坂さん。鉄平さんはまだ帰って来ないんスか?」


「知るか。どうせ桜の架陰といちゃついているんだろう・・・」


折角、鉄平の退院祝いで料理を用意していたのに、帰宅予定時刻を二時間過ぎても、鉄平は帰って来なかったのだ。


椿班三席の八坂はインスタントコーヒーを一口啜り、「まあ、これで良かった」と思った。


真子の作った料理なんて、食べられたものじゃない。チキンは黒焦げ。唐揚げは生揚げ。親子丼の卵はガチガチに固まり、手羽も塩辛すぎる。


「って、お前は鳥しか調理できねぇーのかっ!!」


「仕方がないじゃないスか。寮の前には鶏しかいなかったんスから」


「ああ!?」


八坂はテーブルに手をついて立ち上がった。


未だにパジャマ姿の真子の胸ぐらを掴む。


「てめぇ、まさか、卵産ませてた鶏、全部殺ったのかっ!!」


「そうッスよ」


あっさりと頷く真子。


八坂は呆れて物が言えなくなった。


まさか、毎日新鮮な卵かけご飯を食べるために飼っていた鶏を、この馬鹿女に殲滅されるとは思わなかった。


「さぁさぁ、八坂さん。八坂さんの鶏の命を大事に頂きましょう!!」


「おまえ、命を侮辱してるぞ?」


八坂は炭のようになった唐揚げを一口食べた。


「・・・・・・・・・」


「どうっスか?」


「不味い」


「あ?」


真子は素早く壁に立てかけてあった【名弓・天照】を掴むと、矢を放った。


八坂の頬を矢が掠め、壁に突き刺さる。


「・・・、寮を壊すな」


「不味いって言うなッス」


「炭のような味だ」


「一緒ッスよ!!」


二人がいがみ合いの喧嘩をしていると、食堂の扉が開き、赤スーツ姿の山田が入ってきた。


「何をしているのです?」


八坂と真子はお互いを指さした。


「こいつが!!」


「こいつがっ!!」


二人が喧嘩の原因を言う前に、山田の拳骨が二人の頭に直撃した。


「ぐへっ!!」


「があっ!!」


二人仲良く頭にたんこぶを付けて、埃っぽくなった床に倒れ込む。


「朝から騒がしい。近所迷惑ですよ」


山田は涼しい顔でキッチンに向かうと、冷蔵庫にあったアイスコーヒーをガラスのコップに注いだ。


そして、涼しい顔をして、真子が作った炭の鳥料理を一口食べる。


「・・・」


山田も、なんとも言えない顔をしていた。


丁度その時、食堂の扉が勢いよく開いた。


「おいっ!! 大変だ!!」


身体中泥だらけになった鉄平が飛び込んで来たのだ。


彼の事情を知らない部下達は、いそいそと鉄平の退院祝いパーティを開く準備を始めた。


「鉄平さん、コーラですか? 三ツ矢?」


「鉄平さん、炭ですか? デリバリーですか?」


「鉄平さん、シャワー浴びて来てください」


「それどころじゃねぇんだよっ!!」


パーティグッズ片手に浮かれ始める一同を一括。


「大変だ。架陰が、謎のUMAに連れ去られたんだよ!!」


「ああ、そうッスか」


真子は軽く受け流すと、鉄平にパーティ用とんがりボウシを被せた。


そして、鉄平の目の前でクラッカーを鳴らす。


「祝、退院祝い〜!!」


ゴツンっ!!


真子の浮ついた頭を、鉄平の拳骨が制裁する。


真子は地面に突っ伏して目を回した。


容赦なく部下を殴った鉄平を見て、八坂は引き気味になった。


「鉄平さん、真子だって一応女の子なんですから・・・」


「関係ねぇ」


鉄平は焦っていた。


それに気づいていたのは、副班長の山田だけだった。


山田はコーヒーグラスをテーブルに置くと、恭しく尋ねた。


「鉄平さん。どうかされたのですか?」


「ああ。架陰が連れ去られた」


「それで、我々にどうしろと?」


「決まってんだろ!!」


鉄平は豆だらけの手を握りしめ、近所中に響き渡る声でこう言った。


「特殊任務だ!! これより、【椿班・桜班下っ端市原架陰奪還作戦】を開始する!!!」











第39話に続く

八坂「どうしたらこんなに不味くなるんだ?」


真子「なんでッスかね?」


八坂「考えてみろ。卵かけるだけで飯は上手くなるんだぞ? お前は焼くだけで炭にしてるんだ」


真子「焼いたら炭になるのは自然の摂理じゃないスか?」


八坂「わかってるんだったら止めろよ!」


真子「とりあえず、この肉料理は家畜の餌ッスね」


八坂「てめぇのせいで、もう家畜はいないんだよ!!」


真子「次回、第39話【架陰を取り戻せ!!】」


八坂「何のもんじゃーい!!」


真子「八坂さん、死にますよ?」


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