第36話 絶望を断ち切る翼 その①
絶望を断ち切る刃
未来を切り開く翼
1
「今思い出したことがある・・・」
クロナに名刀・黒鴉を渡した響也が口を開いた。
「あの、名刀・黒鴉についてだ・・・」
「あの刀がどうしたのぉ?」
カレンは鳥居の下に倒れていた架陰を抱え起こしながら、響也の話に耳を傾けた。
「【名刀・黒鴉】。一度、資料を読んだことがある。あれは、SANAが制作した刀の中で、【最高傑作】かつ、【失敗作】と称される刀だ・・・」
響也の言葉に、カレンは首を傾げた。
「最高傑作なのに、失敗作?」
「ああ、あの刀は、伝説のUMA、【八咫烏】の素材から作られたものだ」
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UMA図鑑【八咫烏】ランク S+
体長 十メートル
体重 一トン
遥か昔、神武天皇を導いたとされる伝説の神鳥。十数年前に、SANAのUMAハンターによって、翼の一部分だけを採集することに成功した。
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「伝説のUMAとあって、羽一枚だけでも、かなり強力な力を持っていた。SANAは、それを武器として活かしたんだ・・・」
それが、黒真が握っていた「名刀・黒鴉」。
「確かに、あの刀は強力に仕上がった。SANAの最高傑作だと言える。だが、SANAは、【八咫烏】のあの攻撃力を、完全に再現することは出来なかった。つまり、【失敗作】なんだよ・・・」
「名刀・黒鴉!」
響也から刀を受け取ったクロナは、架陰の名刀・赫夜を放り投げ、黒鴉に持ち替えた。
すばやく刀を抜き、攻撃を仕掛けてくる白陀から距離を置く。
初めて握る刀だ。
だが、クロナは本能的に知っていた。この刀の使い方を。
まるで、兄の記憶そのままを受け継いだかのように、迷うことなく刀を強く握りしめていた。
「【能力】発動!!」
「あれは!」
クロナの挙動を見て、響也が戦線に飛び出す。
つられてカレンも飛び出した。
「カレン、時間を稼ぐぞ!!」
「時間?」
「ああ、クロナがあの刀の能力を発動させようとしている。あの技の発動には、時間がかかる!!」
響也はクロナに全てを託していた。
The Scytheは刃こぼれだらけで、白陀を斬ることができるかどうか怪しい。カレンの翼々風魔扇も、突破力に欠ける。
ならば、残ったのは、クロナの名刀・黒鴉だけだった。
「クロナ、決めろよ!!」
「わかってますよ!!」
黒鴉の漆黒の刃から、まるで絵の具が溶けだしたかのように、黒いオーラが沸き立った。
まるで、架陰の魔影のような色形だった。
「キシャアアアア!!!」
響也とカレンの乱入に気づいた白陀は、大口を開けて二人に襲いかかった。
「風神之槍!!」
カレンが竜巻を放って、攻撃の起動を逸らす。
そこに、響也がThe Scytheを握って襲いかかった。
「一の技、【命刈り】!」
ギンッ!!
全力で放った斬撃は、白陀の硬質な鱗を前に跳ね返される。
「くっ!」
響也は猛攻を辞めない。
上体を捻り、連続攻撃を繰り返した。
「オラオラっ!!」
ギンッ!!
ギンッ!!
キンキンッ!!
「くそ、刃が通らない!!」
すべて、白陀の防御の前には無傷だった。
諦めずに、攻撃を繰り返そうとする。
「っ!?」
響也の背中を、冷たいものが駆け巡った。
(何か来る!?)
それはほほ野生の勘。危機回避能力と言ってよかった。
響也は地面を蹴って白陀から距離を取った。
それと同時に、カレンが竜巻を発生させ、クロナの周りに風が渦巻く結界を施した。
次の瞬間、白陀が吠えた。
「キシャアアアア!!!」
ドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッ!!!
「うっ!!」
響也とカレンは、初めて体験する【白鱗炸裂攻撃】だった。
響也はThe Scytheを高速回転させて、飛んでくる鱗を全て叩き落とす。
カレンは竜巻の結界で、一切の鱗を受付なかった。
「今よぉ!!」
白陀が黒蛇に変化したタイミングで、カレンが竜巻を解除した。
「道は開けた!」
クロナの刀、名刀・黒鴉の準備が完了したのだ。
「名刀・黒鴉・能力発動!!」
クロナの刀は、「生きている刀」と言っても差し支えは無かった。
黒い刀身の表面には、八咫烏の細胞が埋め込まれている。
それを、刀の柄に蓄積させたエネルギーを用いて、一気に刺激するのだ。
さすれば、刃は目覚め、ある別の形へと変化する。
「あれは・・・!」
「翼!?」
クロナが構えていた名刀・黒鴉は、元の黒い刃の形を失っていた。
その代わりに、刃の周りに、漆黒の羽が生え揃い、八咫烏の巨大な翼へと変化していたのだ。
「名刀・黒鴉は、【斬る刀】ではない。【貫く刀】だ」
振り下ろした時の遠心力で、生えた硬質の羽を、一気に射出する。まるで散弾銃のような、白陀の【白鱗炸裂攻撃】と似て似ざる攻撃法。
そんな力を持っている刀を、何故黒真が握っていたのか。
それは、黒真が、一番、「名刀・黒鴉を握るのに値する男」だったからだ。
(お兄ちゃんの居合は、ハンターの中で群を抜いていた。この刀は、生えた羽を全て飛ばせる程の斬撃スピードを持つ者にしか使いこなせない・・・!)
つまり、兄の跡を継いで、居合の名手となった自分なら、使いこなせるということだ。
絶望を断ち切る、刃。
未来を切り開く翼。
「名刀・黒鴉!!!」
クロナは、鍔から巨大な翼を生やした刀を振り上げた。
そして、神速のスピードで振り下ろす。
「くらえっ!!!」
ドドドドドドドドドドドンッッ!!!!!
数百発の黒き羽が、いっせいに射出された。
まさに、弾丸の雨。
黒真は、この技をこう呼んでいた。
「明鳥黒破斬!!!」
その②に続く
武器図鑑【名刀・黒鴉】
SANAの最高傑作かつ失敗作の刀。
八咫烏の素材から作られており、SANAの資料には、「八咫烏の攻撃力を再現した超強力な武器。だが、本来の力には遠く及ばない」と記載されている。
使い手の意思に反応して、刃から硬質の羽を生やす。その量、約二百発。それを、超高速の居合いで振り切ることにより、無数の羽の槍を放つという攻撃方法だ。
もちろん、刀としての役割も果たすが、あくまで「長距離狙撃用」の近接武器と言える。
柄にエネルギーを蓄積させることができ、一度の蓄積で、「明鳥黒破斬」は四発放つことができる。
所有者は雨宮黒真。彼の死亡により、妹である雨宮クロナに受け継がれた。




