第35話 名刀・黒鴉 その③
お目覚めかい?
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ドンッッ!
クロナは狙いを定めて引き金を引いた。
空を切って放たれた鉄の弾丸は、黒蛇の金色の瞳を貫いた。
「キシャアアアア!!!」
黒蛇が顎を大きく開けて唸った。
その瞬間、頭を振り、胴をうねらせ、尻尾を地面に叩きつけて暴れ始めた。
「くそっ!!」
弾丸は、黒蛇の命に、届かなかった。
「キシャアアアア!!!」
怒り狂った黒蛇は、毒を噴出させるのも忘れ、ただひたすらに、暴れた。
土煙が舞い、地面が粉砕する。
爆音と地響きが、辺り一帯を地獄と化した。
クロナは渾身の力を込めて地面を蹴り、気絶した鉄平を回収する。
黒蛇が追ってくる。
「煙幕!!」
クロナは懐から取り出した煙玉を地面に叩きつけた。
黒蛇の視界を奪ったところで、脱出を試みる。
しかし、黒蛇には関係なかった。
煙の中、黒蛇は身震いをして、白陀に変化する。
そして、白鱗炸裂攻撃を放つ。
これだけでよかった。
ドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッ
「がはっ!!」
無防備なクロナの背中に、大量の鱗が突き刺さった。
血が吹き出す。
視界に火花が弾けた。
「くそ・・・」
クロナは鉄平を抱き抱えたまま地面に倒れ込んだ。
黒蛇は、悠々と二人に近づく。
(もう、終わりだわ・・・)
身体中に白鱗が突き刺さり、痛みと大量出血で体が動かなかった。
(やっぱり、私は、勝てなかった・・・)
頭の中に、色々な人の顔が浮かんだ。
架陰、響也、カレン、アクア。
そして、兄の黒真。
(ごめんなさい・・・)
心の中で詫びた。
兄の仇を前にして、何も出来ぬまま、苦痛と悔しさを抱き抱え、その牙に切り裂かれる。
その運命が、クロナの目の前に、鈍重に横たわっている。
死ぬのは構わない。ただ、このUMAにだけは殺されたくなかった。
「ごめんなさい・・・」
クロナは、涙を流し、目を閉じた。
来るべき死を、静かに待つ。
「動くなよ・・・」
鉄平が口を開いていた。
「えっ!?」
鉄平は、白鱗が突き刺さり、どくどく出血している腕をあげた。そして、手の中にあった何かを握りつぶす。
「この時のために、とっておいてよかったぜ」
ドンッッ!
クロナの背中に、鉄平が手を押し付けた。何か、滑らかな液体を塗り込む。
「っ!!」
クロナの心臓が脈を打った。
背中の傷がカッと熱くなり、傷が塞がる。
「回復薬の、【椿油】だ!!」
「あんた、回復薬は使い切ったんじゃ!?」
「俺の分はな!! これは架陰のために使おうと思っていた分だよ!!」
鉄平は二人分の回復薬を持ってきていた。
架陰と、自分の分。
鉄平は冷静に分析をしていた。白陀の攻略法を。
(目を潰されているのに動くってことは、嗅覚が発達しているんだ!!)
赤スーツの内ポケットから「臭い玉」を取り出す。
「臭い玉!!」
玉を黒蛇に向かって投げつけた。
ぼふんっ!!
黄色味がかった煙が立ち込める。
「これは、硫黄の・・・!」
「行け!! 姐さん!!」
嗅覚を使ってクロナの居場所をロケーションしていた黒蛇は、「キシャアアアア!!!」と、悪臭に鼻をひん曲げた。
傷が治ったクロナは、鉄平を抱えて跳ぶ。
「よし!!」
一気に跳躍して、黒蛇から距離を取る。直ぐに木々の陰に隠れ、白鱗炸裂攻撃に備えた。
黒蛇は身を震わせ、白陀へと変化。
そして、尻尾を振り、立ち込める悪臭を薙ぎ払った。
「来た!!」
逃げるか、立ち向かうか。
クロナが身を震わせた時。
「クロナ!!」
神社の敷地内に、響也の声が響き渡った。
「響也さん!!」
鳥居をくぐって参道に現れたのは、桜班班長鈴白響也。そして、副班長城之内カレンだった。
響也は、木の影に隠れているクロナを視認すると、手に握っていた刀を投げた。
「受け取れ!!」
まるで闇を切り取ったかのような漆黒の日本刀が飛んできた。
クロナは木の影から飛び出し、それを受け取る。
響也が握りしめ、ほんの少し熱を持っていたその刀は、クロナの手にしっかりと収まった。
「この刀は!!」
全て読めた。
アクアが、何をしようとしているのか。
「白陀を攻略するには・・・」
この刀を使えということだ。
十年前、愛すべき兄が握っていた刀。
自分が、受け継ぐのを躊躇ってしまった刀。
SANA生産の武器として、最高傑作かつ、失敗作の刀。
(これならっ!!)
クロナに向かって白陀が突進してくる。
クロナは迷うことなく、その刀を腰に差し、柄に手をかけた。
握りしめる。
(ああ、やはり、しっくりとくる)
クロナは願った。
(私に、力を貸してよ・・・)
兄が残した刀。
クロナが使うべき刀。
十年間、心の奥底で、ひっそりと息をしていた刀。
その名を。
「【名刀・黒鴉】!!!」
第36話に続く
響也「おまえ、なんでこんなところに横たわっているんだ?」
架陰「・・・・・・」
カレン「架陰くん、大丈夫?」
架陰「・・・・・・」
響也「回復薬を飲んだみたいだな。傷が深い」
カレン「もう少し寝かせて起きましょうよ」
響也「そうだな。でもって、あそこで暴れているUMAをさっさと片付けよう」
カレン「次回第36話【断ち切る翼】」




