第34話 決戦! 白陀!! その③
堕ちていく悠久の時を
駆け登る貴方は
魑魅魍魎の爪痕を残して
3
架陰の攻撃は、間違いなく直撃していた。
そして、その威力が凄まじかったのも確かだった。
架陰が名刀・赫夜に魔影を纏わせて放った一撃は、眠っていた白陀の頭を穿つと共に、衝撃を後方に流し、白陀のねぐらであるお社を粉砕したのだ。
土壁が崩れ、白い煙が舞う。
屋根瓦は破壊され、黒い破片が飛び散った。
誰もが、この状況で、「白陀が生きているわけが無い」と、鷹を括ってしまったのだ。
ドンッッ!!!!!!!ドンドンドンドンドンっ!!!ドンドンドンドンドンッッ!!!!!!!
「がはっ!」
白陀が放った【白鱗炸裂攻撃】を至近距離から喰らってしまった架陰は、身体中から血を噴出させて吹き飛んだ。
「架陰!」
鉄平が架陰を受け止める。
架陰は鉄平の腕の中で血を吐いた。
「す、すみません・・・、殺りきれませんでした・・・」
煙の中から、黒い大蛇がはい出てくる。
「な、白陀が、黒蛇に変化した・・・!?」
「あれは、防御の盾だった白鱗を拡散させたからよ。装甲を失った白陀は、黒い蛇に色を変える」
クロナは、架陰が握る名刀・赫夜を取り上げた。
「鉄平、あんたは架陰に回復薬を!!」
「でも、姐さん、俺の椿油は使い切っちまったぜ!」
「私のがあるわ!」
クロナは着物の懐から桜餅を取り出し、鉄平に投げた。
「さっさと架陰を回復させて!」
こいつは、架陰の魔影の力が無いと勝てない。
「私が、時間を稼ぐから!!」
鉄平の返事を聞かぬうちに、クロナは地面を蹴って跳躍した。
黒蛇の鋭い瞳が、クロナの方を向く。
(よし、注意を引き付けた!!)
クロナは黒蛇から一定の距離を保った。
(黒蛇に変化した時の戦闘能力は、まだ分からない・・・)
クロナが幼い頃に見たのは、白陀の時の姿だった。
白陀の特徴としては、「鱗が硬質」であるということ、「鱗を拡散させる」ということ。
その防御にも攻撃にも変わる鱗を失った今、黒蛇はどのように動くのか。
単に「防御力と攻撃力が落ちた」だけではないような気がした。
「とりあえず、様子見ね!!」
四方八方に飛び回り、黒蛇の注意を引きつける。
その瞬間、黒蛇が身震いをした。
「っ!?」
クロナは身構える。
(こいつ、何をしようとしているの!?)
「キシャアアアア!!!」
黒蛇がひと鳴きした瞬間、黒蛇の漆黒の体表から、純白の鱗が生えた。
「鱗が、再生した!!」
そして、白陀はもう一度身震いする。
「来る!!」
クロナは近くの杉の木の裏に隠れた。
その瞬間、白陀の体表を覆う鱗が、散弾銃のような勢いで発射された。
「くっ!!」
クロナが隠れる杉の木の幹に大量の鱗が突き刺さった。
(なるほどね・・・!)
防御も、攻撃も、身体に鱗が生え揃っている時、つまり、「白陀」の状態の時にしか行えない。
ならば、弱点は黒蛇の時か。
「今なら・・・!!」
クロナは木の影から飛び出した。
架陰の赫夜を握り、防御も攻撃も失った黒蛇に接近する。
「やつが鱗を生やす前に、叩く!!」
刀を中段に構え、姿勢を低くした。
流れるような動作で、黒蛇の懐に潜り込む。
「殺った!」
そう確信して、刀を振った。
その時だ。
「っ!?」
クロナの背筋を、冷たい悪寒が走り抜けた。
「くそ!」
本能的な危機管理能力は信用に値する。
クロナは黒蛇の攻撃を中断し、距離を取った。
その瞬間、黒蛇の体表から、黒紫の煙が噴出した。
「あれは、毒煙!?」
毒々しい色をした煙が崩れた神社の木材に触れると、「ジュワッ!!」という音を立てて、木材が溶けた。
「あれに触れたらまずいわね・・・!」
白陀の時は、硬質の鱗を武器とし。
黒蛇の時は、毒を武器とする。
隙が全くなかった。
「キシャアアアア!!!!!」
黒蛇がひと鳴きして、身体中に鱗を生やす。
黒蛇から白陀へのフォルムチェンジだった。
「近寄れない・・・!」
白陀はクロナの姿を捉えると、土煙を撒き散らして襲いかかってきた。
「くそっ!!」
クロナは左手で銃を構えると、連続で発砲した。
ドンッッドンッッドンッッ!!
だが、白陀の鱗の前に、鉄の弾はいとも容易く弾かれる。
(全く効いてない・・・!)
白陀の勢いは止まらない。
クロナは上空に跳躍して回避した。
白陀は、追撃の【白鱗炸裂攻撃】を放った。
「っ!!」
咄嗟に身体を丸め、表面積を小さくする。
ドンッッドンッッドンッッドンッッドンッッ!!!
「くっ!!」
クロナの背中に、白陀の鱗が突き刺さった。
血が吹き出す。
架陰よりもダメージは少ない。
しかし、クロナの肉に食いこんだ鱗は、体内で動き、激痛を伴う。
「痛いわね・・・」
クロナの運動能力が一瞬で低下した。
何とか、崩れた神社の瓦礫の上に着地する。
そこに、黒蛇の尻尾が叩き込まれた。
ドンッッ!!!!!!!
砂煙が舞い上がる。
ギリギリで回避したクロナは、参道の上を転がった。
(まずい・・・)
クロナは背中に指を回すと、思い切って鱗を引き抜いた。
ギザギザの返しが肉を抉り、クロナの指は自身の血で赤黒に染まった。
(どうする・・・)
敗色濃厚の戦いだった。
だが、もう二度と、逃げたくなかった。
第35話に続く
鉄平「架陰んんんん!!!!」
架陰「ご、ごめん・・・、殺りきれなかったよ」
鉄平「気にすんな!! 今すぐ回復薬を飲ませてやるからな!」
架陰「ありがと・・・」
鉄平「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ!!」
架陰「何してるの?」
鉄平「そりゃお前、噛み砕いて食べやすくしてるんだよ!!」
架陰「普通に食べさせて」
鉄平「もぐもぐ、次回、もぐもぐ、第35話【名刀・黒鴉】!! もぐもぐ!!」
架陰「は、早くして、死にそう・・・」




