第34話 決戦! 白陀!! その②
疑う事を知らぬ者は
疑う間も無く死する者
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「こりゃ凄い・・・」
鉄平は、白陀が通った跡の光景を見て、そう言った。
木々はなぎ倒され、地面は抉れ、小動物は押しつぶされて死している。
まるで、災厄のようだった。
「この跡を辿れば、白陀の元にたどり着けるのね・・・」
クロナは唾を飲み込み、折れた枝を拾い上げた。
この先、この木々がなぎ倒された先を追えば、宿敵に会うことができる。
「じゃあ、行くぜ!」
鉄平が率先して歩き始めた。
「クロナさん、行きましょう!」
架陰も歩き始める。
クロナも、「わかったわよ」とだけ言って歩き始めた。
クロナは、架陰のおかげで、前に進む勇気を得た。だが、それはまだ完璧なものではなかった。
決意はしたのだ。「白陀と戦う」と。だが、恐怖は常にクロナの心の隅で息を潜めていた。
「・・・・・・」
クロナは反射的に、腰のホルダーに入った拳銃の感触を確かめていた。
(この銃じゃ、まず白陀の防御を突破することは叶わない・・・)
せめて、得意の刀が欲しかった。
この三人の中で、一番攻撃力を持っているのは架陰だ。あの極上の斬れ味を持つ、【名刀・赫夜】に、【魔影刀】を合わせれば、恐らく、白陀にダメージは与えられる。
鉄平はどうだ。
彼の武器は【鉄棍】。つまり、打撃武器だ。
対人戦なら、彼のカンの鋭さと、身体の柔らかさを利用すれば上手く戦えるところだが、あの巨大な体に硬質の装甲を持っている白陀とは相性が悪いように思える。
(やっぱり、攻撃力が足りないわね・・・)
架陰は白陀と戦うのは初めてだ。恐らく、白陀の【白鱗炸裂攻撃】に対応出来ない。
あれを放たれれば、まず回避は不可能。兄の黒真さえ不意を突かれたのだ。
そして、白鱗に一発でも被弾すれば、体内で白鱗が動き、肉を抉ることによる激痛が伴う。運動能力は著しく低下するだろう。
(・・・、どうする?)
クロナは考えた。白陀の攻略方を。
「クロナさん・・・」
架陰がクロナの名を呼んだ。
「何よ」
「いや、とても怖い顔をしていたので」
「そりゃあ怖い顔はするわよ。白陀とどう戦うのか、考えていたんだから・・・」
いや、考えていただけでそんな顔をするわけが無い。
クロナは、やはり恐怖していたのだ。
兄を殺した、白陀というUMAの存在に。
「止まれ!」
鉄平がそう叫んだ。
「何だ、ここは・・・?」
鉄平、架陰は、目の前に広がっていた光景を見て、疑問を頭に浮かべた。
クロナは、目の前に広がっていた光景を見て、背筋が凍るのを感じた。
(ここは・・・!!)
アクア、いや、この舞台を用意した者だろうか。
よくもこんな酷い真似をしてくれたと思った。
「これは、神社ですかね?」
白陀の這った跡を辿ったその先には、古びた神社があったのだ。
赤い鳥居が不気味に光り、まるで三人を誘うような雰囲気を醸し出してある。
そして、その奥。本殿の扉が破壊され、大きな穴が空いていた。
その中に、白陀が、どくろを巻いて眠っていたのだ。
「白陀!!」
「この神社を巣にしてやがったのか!!」
クロナは心の中で、「違う」と首を横に振った。
(誰かが、白陀のために、この場に神社を建てたのか・・・!!)
疑問と怒りが錯綜した。
この山、一体何なのだ?
ただのUMAハントの任務ではない。そんなこと気づいていた。それが、この神社を見て、確信に変わった。
何かの、陰謀が渦巻いている。
「っ!!!」
クロナは腰のホルダーから銃を引き抜いた。
「寝首を搔くわよ!」
響也やカレンと合流する暇などなかった。一刻も早く、こいつを殺したかった。
10年前、白陀は、アクア達の手によって退治されたはずだったのだ。だが、誰かが、それを生かしてきた。この10年間、ずっと。
「分かりました・・・」
架陰は腰の刀を抜いた。
「僕が、一気に決めます!!」
そうだ。この中で一番攻撃力を持つのは架陰だ。
「名刀・赫夜!!」
架陰の新たな刀が、陽光を反射して、白銀に光り輝いた。
「魔影・弐式!!」
架陰の腕から黒い霧が湧き出し、赫夜の刃にまとわりつく。
「【魔影刀】!!!」
名刀・赫夜は、漆黒の大剣へと変化した。
「殺って!!」
「はい!」
架陰は石畳が敷き詰められた参道を駆けた。
本殿の中でいびきをかく白陀との距離を詰め、黒い斬撃を放つ。
「はあっ!!!!!」
ドンッッ!!!!!!!
魔影から発せられた衝撃波が、白陀の脳天を穿った。
衝撃波は勢いを周りに飛散させ、神社ごと、一刀両断する。
砂煙が舞い上がった。
「やったか!?」
手応えあり。
白陀は眠ったままその攻撃を食らった。躱すことも出来ない。
ただ、待っているのは死だった。
だが。
ドドドドドンッッ!!!!ドンッッ!!!!!!!ドンッッ!!!!!!!ドンッッ!!!!!!!ドンッッ!!!!!!!ドンッッ
「っ!?」
砂煙の中から、無数の白陀の鱗が飛び出す。
躱すことが出来なかったのは、架陰の方だ。
「がはっ!!?!?」
架陰の身体を、無数の鱗が穿った。
腹。
腕。
脚。
血が、噴水のように飛び出した。
「架陰!?」
「架陰っ!!」
砂煙の中から、白陀の白い尾が飛び出し、架陰を虫けらを払うかのように吹き飛ばした。
血塗れとなった架陰の身体が、飛んでくる。
「くそっ!」
何とか鉄平が受け止める。
腕の中に、ヌメった感触が残った。
砂煙が晴れ、白陀が姿を表した。
「嘘だろ・・・!?」
架陰の攻撃は、確かに直撃していた。
だが、白陀を殺すに至らなかったのだ。
「架陰の魔影すら通さない、防御力・・・!?」
絶望が、再びクロナの目の前を覆った。
その③に続く。
その③に続く




