第34話 決戦! 白陀!! その①
夜が明ける
鴉は動き出す
夜が明ける
蛇は眠る
1
夜が明けた。
白い光が蛇山に差し込み、休息をとっていた者達の瞼を照らす。
「うう・・・」
カレンは目を覚ました。
「気がついたか・・・」
目の前に響也がいた。
カレンは寝ぼけ眼で、辺りの状況を把握する。
湿気た洞窟の中。自分は響也の横で眠っていた。どうして眠っていたのか。機械生命体との戦いで傷ついたから。その傷はどうなったのか。
腕。異常なし。
胸。異常なし。
肩。異常なし。
機械生命体により傷つけられたカレンの身体は、全快していた。
響也は何も言わず、カレンの顔を濡らした手ぬぐいで拭った。
「響也・・・」
「驚いたよ。私の傷が治って、外に出てみれば、お前が血まみれで倒れているんだ・・・」
カレンは首をもたげて自分の着物を見た。
白基調の着物ということもあり、黒く変色した血液が異様に目立って見えた。
「お前、私が気づかなかったら死ぬところだったぞ・・・」
響也が自分にしてくれたことは分かった。
カレンを洞窟に引き入れ、無理やり回復薬を食べさせたのだ。
「ありがとう、響也・・・」
カレンがお礼を言うと、響也は照れくさそうに頭をかいた。
「私こそ。まさかゴートマンが握っていた斧が、【機械生命体】だとは思わなかった。道理で太刀筋が読まれていると思ったよ・・・」
響也はカレンが使ったあとのThe Scytheを手に取った。
「あ、ごめんなさい、響也」
「気にするな・・・」
機械生命体との激しい剣戟で、The Scytheの鎌状の刃は刃こぼれをしていた。
斬れ味は格段に落ちていることは目に見えた。
「こんなことは初めてだ。長年このThe Scytheを握っているが、ここまで刃こぼれをさせられるとは・・・」
「本当にごめんなさい。私の使い方がお粗末で・・・」
「いや、The Scythe以上に、機械生命体が硬かったということだ」
響也は、カレンが倒した機械生命体の遺骸を手に取る。
「とても生物とは思えん。こんなに硬い金属は初めてだ・・・」
コツコツと叩く。動く気配は無かった。
「なあ、カレン」
「なあに?」
「この機械生命体の所有権、私にくれないか?」
「え、いいけど・・・」
カレンは前に一度、ローペンの所有権を響也から貰っている。
カレンが所有することになったローペンは、名扇【翼々風魔扇】となって生まれ変わったのだ。
響也は不敵に笑った。
「この機械生命体の金属を使って、新しい武器を作るとしよう・・・」
そして、二人は動き出した。
この斜面を下って、クロナと架陰を探しに行っても良かったが、二人はそれをすることを辞めた。
四人が進んでいた道には、続きがあったのだ。
「とりあえず、この道の先をゆこう・・・」
襲ってきたリザードマンとゴートマン。そして、道中で見つけた謎の看板。
響也は、この戦いが、ただのUMAハントの任務ではないことを、薄々勘づいていた。
全ては、削られて作られた道の先にある。
「行くぞ・・・」
響也とカレンは地面を蹴って走り出した。
時間はかけられない。スピードを上げて、道を進む。
まるでクロスカントリーのコースのような道を10分ほど走った時、道が途切れた。
「っ!?」
「これは・・・!?」
そこは、山の頂上だった。
木々が高く生え、眼下の町の様子は分からないが、その場所に、ひっそりと何かが佇んでいた。
それに、二人は近づく。
「これは、刀・・・?」
「ええ、刀だわ・・・」
まるで誰かの墓のような岩が佇み、その岩に、黒い刀が突き刺さっていた。
「鞘ごとか・・・」
響也は刀の鞘の部分を握り、引っ張る。
ズコッと言う音がして、刀は簡単に抜けた。
まるで闇から切り取ったような刀だ。鞘も、柄も、全て濃淡のある黒で装飾されている。
そして、刃も。
「刀身も黒色か・・・」
響也は、刀のはばぎの部分に衝撃を加え、柄から刃を取り外した。
「ちょっと、勝手に分解して大丈夫なの?」
「大丈夫だろ」
見たところ、刃は本物。
ならば、製作者は誰だ?
刀身の中央部には、「SANA」「雨宮黒真」と彫ってあった。
「SANAの、製作だと・・・!?」
裏にも何か彫ってある。
「名刀・黒鴉・・・?」
「ねえ、この名前・・・」
雨宮黒真。
雨宮クロナと、似た名前だ。
響也とて馬鹿ではない。似た名前を前にして、二人の関係性を疑わないわけがなかった。
「おい、カレン・・・」
「なあに?」
「とりあえず、クロナと架陰を探そう・・・」
「ええ、もちろんよぉ」
今二人がすべきことは、この黒い刀を、クロナに届けることだった。
その②に続く
その②に続く




