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特別機の座席に座ったサヨコの手の中で、アクリルケースに入った真新しい『草』の粒が小さく音をたてている。
それは、ここへ来る前にもらった青い粒ではなかった。『第二の草』でもない。連邦警察関与の下で極秘開発中の新しい『草』だ。 匂いも前のものより柔らかい。
一見したところでは淡い真珠色の粒だが、特殊な塗料で染められていて、ある方向から光を当てるときらきらとした明るい緑の色を反射させて輝く。
今、新しい『草』は、アクリルケースの中で、その特別な緑色の光をはね散らせて動いていた。
その明るさは乗り込む寸前にサヨコを見つめたスライの瞳を思わせる。彼の瞳に過った、とても鮮やかな光の色を。
光の差し込み方で幾種類もの緑を煌めかせる。
どの緑も美しい。どの緑も愛おしい。
それは命を育む色だ。
変わりたい、よりよくありたいと願う祈りの色だ。
込められた切なさに、胸が、詰まる。
(スライ)
地球へ来るといった。会いたいと言った。
どんな話をすればいい。どんな話から始めればいい。
でも、時間はすぐにたつだろう。
話したいことはサヨコの胸にもいっぱいあふれつつあるから。
サヨコは目を閉じ、アクリルケースをしっかり握った。
胸の奥に、この数日間の経験と、最後に見たスライの顔を、とりわけ最後にこちらを覗き込んだ必死な瞳を刻み込む。
いつか、この『草』が宇宙に広がる日がくるのだろう。自分の恐怖と戦いながら、それでも何かに呼ばれるように地球を旅立つ『GN』達の手の中にしっかりと握り締められて。
そのときには、『CN』であることや宇宙を飛ぶことは特別なものではなくなり、そしてまた、『GN』であること、地球で暮らすことも人の在り方の1つに過ぎなくなっていることだろう。
いつかきっと。
互いの傷みを乗り越えて。
互いの喜びを分け合って。
サヨコはそう信じる。
自分の命をかけて、そう信じる。
信じることの力を感じながら、アクリルケースの『草』にその願いを託す。
緑満ちる宇宙。
特別機は、静かに『新・紅』を離れていく。
おわり




