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緑満ちる宇宙  作者: segakiyui
第9章 星渡るオリヅル

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2

 サヨコはモリの仲間の整備士達に会いにいった。

 本当はもっと早くそうしたかったのだが、立て続けの事件に振り回されて、結局コンピューターに入っている情報しか検索できていない。

 けれども、本当に大事なことは、人と会うこと、そこから得られる感触のようなものだ。

 俺達はいいところまで来ているはず、とスライは言った。

 サヨコの感じている手応えも同じだ。

 ファルプの役割さえわかれば、すべてがつながってくるような気がする。

 そのファルプが沈黙を守っているのは不思議と言えば不思議だが、もし、サヨコ達の捜査が失敗した場合、事前にむやみに動くのは逆効果と考えているのかもしれない。

 だが、モリの仲間から得られた情報は、コンピューターに打ち込まれたものや、スライ達から聞いたものと、そう大差はなかった。ただ、整備士仲間ではないが、客室の係を受け持つトグがモリと親しかったと聞いて、会いに行った。

 トグは昼食後の休憩で自室にいた。

 モリのことを尋ねると、もうあまり話したくないんだ、と言いながらも、モリの地球への連絡先について教えてくれた。

「何でも、幼なじみが住んでるとか言ってたかなあ。小さいころ、彼女だけがモリを日系だからと差別しなかったんだそうだ。フェライア、とかいう名前で、『CN』だけど宇宙へ出るのを嫌ったそうだ」

(その名前も本名ではなかったかもしれない)

 『フェライア』は地球のある地方のことばで『いとおしむもの』の意味がある。

「年取った母親を抱えてるからって、ときおりモリも送金してたみたいだな。何でも、彼女の父親は別の村に働きに行ってたらしいんだが、そこでテロに巻き込まれたんだそうだ。『青い何とか』って奴らで、モリが送金に熱心になったのはそれからじゃないのかな。ステーションが廃棄処分になったら、地球に降りてその村へ行くと言ってたときもあったよ。けどさ、地球はどうなってんのかねえ、その村も何かに襲われて……フェライアも殺されたとか行方不明だとか……」

 サヨコの脳裏に事件の情報が甦った。

 トグは溜め息をついて続けた。

「モリは、フェライアを探しに行くつもりだったみたいだな。ステーションを降りようと思うって、冗談みたいに言ってた」

 少しことばを切ってためらうように付け加える。

「ほんとは、こういうこと、スライに話せばよかったんだろうけど、オレ、一応ばあさんが日本人でさ。スライが疎ましそうだったの、知ってたし……つい、話しにくくって…」

 サヨコは重い溜め息をついて、トグに礼を言って別れた。

 少なくとも、モリはステーションを降りようとしていたのだ。

 ところが、それはファルプの好むところではなかった。ファルプとモリはそれで揉めていた可能性がある。

(でも、どうして、モリがステーションを降りてはいけなかったんだろう)

 サヨコは首をひねった。

 『GN』であることがわかるから?

 いや、モリさえ、再度宇宙に出ようとしなければよかった。おまけに、モリは宇宙にいることに固執していなかったのだから、『GN』だの『CN』だのとわざわざ言って回る必要はなかったはずだ。

 何らかの理由をつけてステーションを降り、地球で大人しく暮していればよかったはずだ。宇宙にいない『CN』も結構いるし、別にモリ1人、目立つようなことはないだろう。

 そこでサヨコは、はっとした。

 モリが地球に降りて、フェライアを捜し出し結ばれたとしよう。モリが『GN』だから、フェライアとの間に生まれてくる子供は『GN』と『CN』のどちらの可能性もある。

 ところが、モリは一応『CN』と診断されている。

 『CN』同士が結ばれた場合、『GN』が全く生まれないことはないにせよ、その可能性は極めて低いとされている。だからこそ、いまだにサヨコが症例として有名なのだ。

 もし、モリとフェライアの子どもが『GN』だったとする。

 当然、遺伝子を含む調査が地球連邦の名の下に行われるだろう。それは、モリやフェライアの再検査をも意味する。

 モリが『GN』であることは白日の下にさらされ、彼が勤務していたこのステーションにも調査の目が向けられるだろう。ファルプが関わる『第二の草』も見つかりかねない。

 一旦、モリを『CN』とした以上、安易に野放しにするわけにはいかなかったのだ。

 モリはファルプと知り合って、『GN』だが宇宙へ出る機会を与えられることになった。若いモリにはかなりの誘惑だっただろう。ファルプの誘いに乗り、『第二の草』を投与されながら、ステーションで働き始める。その中でいつしか、自分が『GN』至上主義の『青い聖戦』に関わっていると気づいたが、ここにいる限り、それは意味を持たなかった。

 だが、地球には、『CN』でありながら宇宙に出ないフェライアがいた。彼女はモリにとって大切な人間だった。

 ステーションで働きだしてから間もなく、モリは彼女の父親が『青い聖戦』のテロに巻き込まれて死んだことを知る。償いの意味を込めて、モリは彼女に送金を始めた。それで、モリは彼女に誠意を尽くしたつもりだった。

 ところが、『青い聖戦』のテロはついにフェライアをも巻き込む。

 モリの我慢も限界だった。年齢を重ね、自分の能力にも見極めがつきだした。もう、宇宙に未練はない。

 ステーションを降りると言い出したモリを、ファルプは扱いあぐねた。

 いつばらすかわからない人間を手の届かないところに放つわけにはいかない。モリの方も、降ろさなければすべてをスライに話す、とでも言ったかもしれない。

 ファルプはモリの始末を決意する。

(ああ、ようやく見えてきた)

 サヨコは思考をなおも広げた。

 ファルプはモリを始末できた。それも、予想以上にうまく、自殺に見せかけることもできた。

 意気揚々とカナンに報告する。だが、カナンの対応は芳しくなかった。ファルプを責めたかもしれない。

 どちらにせよ、カナンはファルプのやり方を危ぶみ、表向きはサヨコを送り込んで対処したように見せて、その実タカダを付き添わせ、ファルプの動きを牽制した。

 これはファルプには面白くなかった。タカダが疑われ出したのを理由に、タカダをモリと同様の方法で殺す。そうすることで、ファルプはカナンに彼の出方一つでカナンの首も危ないのだと知らせることができる。

 死なば諸共なのだから馬鹿なことは考えるなよという、ファルプの脅しだとしたら、タカダのこれみよがしの死は、カナンにとって衝撃だったはずだ。


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