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緑満ちる宇宙  作者: segakiyui
第8章 モリ

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「いつあなたが来るかもしれないという状況なら、もっと短時間で死んだんじゃないのかしら……例えば、モリが『第二の草』を飲んでいたなら、その夜、ファルプは『第二の草』と偽って睡眠薬を飲ませることができるでしょう? モリが眠り込む前に、中央ホ−ルで話があると言って連れ出して、ホールの中で眠り込むのを待つ。それから……何かの方法でモリを窒息させる……換気を止めておけば、発見されたときの状況からは、モリが自分で睡眠薬を飲んで中央ホールに行き、換気を止めて自殺を図ったと思われるでしょう」

(その方法があったか)

 すべてをファルプがするのではなくて、途中までモリの意志で同行したとすれば、他殺だとしても不可能なことではない。

「ということは……タカダの死に方がモリに似ていたのは……わざと、だな。モリはこうして殺せたぞ、というファルプの意思表示……だが、どうして、そんなことをしたんだ?」

「スライ……誰に対してか、ということも考えた方がいいかもしれない」

 サヨコが静かに言った。

「誰に?」

「そう……ファルプが意思表示したのは、ひょっとしたら…」

 サヨコが端末に目をやった。

 その端末の遠い端にいる1人の人間が思い浮かぶ。

「カナン、か」

 スライはサヨコのことばを横取りした。

 今までファルプとカナンを同一線上で考えていたから、起こった事件が噛みあわなかったのだ。

 もし、何らかの原因で、ファルプとカナンが敵対しつつあったとしたら、このちぐはぐな事件はそのまま、ファルプとカナンのやり取りになる。

「それに…」

 サヨコは考え込んだまま言った。

「わたしは、まだ、ファルプの役割がわからない。ファルプは何のためにステーションにいたのかしら」

「モリの管理だろう?」

 何にこだわっているのかわからず、スライは答えた。

 サヨコがゆっくりと首を振る。

「それだけなら、何かの理由をつけて、モリが死んだ時点でステーションを降りていれば、その後の面倒なことに関わらずに済んだでしょう? けれども、ファルプはステーションに残った。そればかりか、味方であるはずのカナンと敵対するような行動を取っている。どうしてかしら」

 スライはサヨコのことばに導かれるように考え続けた。

 そう、おそらくは、モリの事件をきっかけに、ファルプとカナンの関係に何か不都合が起こったのだ。だが、お互いに相手を見切ってしまうわけにはいかない理由があった。

 だからこそ、カナンはタカダをステーションに送り、ファルプはそのタカダに疑いがかかったと見るや、殺してしまう。

「そこがわからないと……本当にモリが巻き込まれた状況はわからない……モリが死んでしまった理由がわからないような気がする…」

 呟いたサヨコがふいにふらついた。バランスを崩して倒れかけ、かろうじてデスクに手をついて体を支える。

「サヨコ?」

 スライはぎょっとして、サヨコの体を支えた。必死に瞬きを繰り返しながら体を震わせているサヨコを覗き込む。

「大丈夫か?」

「……大丈夫……ちょっと……緊張し過ぎて」

 サヨコはスライの声に顔を上げて微笑んだ。わずかだが、顔色が青い。

 サヨコが『草』を飲んだのは昨夜だ。それも、ひょっとすると『第二の草』だったかもしれないもの、残留効果は考えている以上に短いかもしれない。

 スライは強いて笑顔をつくった。

「もう、昼になる。食事を取りに行こう。それから、もう一度、モリのことを考えよう。俺達はいいところまで来ているはずだ」

「そうね…」

 サヨコが頷いたのに、スライはほっとした。サヨコの体を支えた手を名残惜しくそっと外しながら体を起こし、ドアの方へ歩きだしかけ、床に落ちていた金色の紙製の鳥のようなものを見つける。

「これは…」

「ああ」

 サヨコがスライの手からそれを大事そうに受け取った。

「『草』を出すときに落としたのね……日本の……古いお護り、『オリヅル』って言うんですって。アイラが作ってくれたんです」

「ふうん」

 少し前なら、日本と聞いただけで嫌悪感を持っただろうに、その『オリヅル』を手に載せているサヨコがひどく愛らしく見えて、スライは我ながらうろたえた。ことさらさっさと部屋を出ながら、サヨコを誘う。

「食事に行こう、サヨコ」

「あ、はい」

 いそいそとついてくる相手を引き寄せて抱き締めたくなるのを、必死に自制する。

(そんなことをしたら、今度こそ本当に嫌われちまう)


 その昼食が、サヨコがステーションに来てからスライとともに摂る、最初で最後の食事になるとは、そのときのスライには想像もつかなかった。


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