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「いつあなたが来るかもしれないという状況なら、もっと短時間で死んだんじゃないのかしら……例えば、モリが『第二の草』を飲んでいたなら、その夜、ファルプは『第二の草』と偽って睡眠薬を飲ませることができるでしょう? モリが眠り込む前に、中央ホ−ルで話があると言って連れ出して、ホールの中で眠り込むのを待つ。それから……何かの方法でモリを窒息させる……換気を止めておけば、発見されたときの状況からは、モリが自分で睡眠薬を飲んで中央ホールに行き、換気を止めて自殺を図ったと思われるでしょう」
(その方法があったか)
すべてをファルプがするのではなくて、途中までモリの意志で同行したとすれば、他殺だとしても不可能なことではない。
「ということは……タカダの死に方がモリに似ていたのは……わざと、だな。モリはこうして殺せたぞ、というファルプの意思表示……だが、どうして、そんなことをしたんだ?」
「スライ……誰に対してか、ということも考えた方がいいかもしれない」
サヨコが静かに言った。
「誰に?」
「そう……ファルプが意思表示したのは、ひょっとしたら…」
サヨコが端末に目をやった。
その端末の遠い端にいる1人の人間が思い浮かぶ。
「カナン、か」
スライはサヨコのことばを横取りした。
今までファルプとカナンを同一線上で考えていたから、起こった事件が噛みあわなかったのだ。
もし、何らかの原因で、ファルプとカナンが敵対しつつあったとしたら、このちぐはぐな事件はそのまま、ファルプとカナンのやり取りになる。
「それに…」
サヨコは考え込んだまま言った。
「わたしは、まだ、ファルプの役割がわからない。ファルプは何のためにステーションにいたのかしら」
「モリの管理だろう?」
何にこだわっているのかわからず、スライは答えた。
サヨコがゆっくりと首を振る。
「それだけなら、何かの理由をつけて、モリが死んだ時点でステーションを降りていれば、その後の面倒なことに関わらずに済んだでしょう? けれども、ファルプはステーションに残った。そればかりか、味方であるはずのカナンと敵対するような行動を取っている。どうしてかしら」
スライはサヨコのことばに導かれるように考え続けた。
そう、おそらくは、モリの事件をきっかけに、ファルプとカナンの関係に何か不都合が起こったのだ。だが、お互いに相手を見切ってしまうわけにはいかない理由があった。
だからこそ、カナンはタカダをステーションに送り、ファルプはそのタカダに疑いがかかったと見るや、殺してしまう。
「そこがわからないと……本当にモリが巻き込まれた状況はわからない……モリが死んでしまった理由がわからないような気がする…」
呟いたサヨコがふいにふらついた。バランスを崩して倒れかけ、かろうじてデスクに手をついて体を支える。
「サヨコ?」
スライはぎょっとして、サヨコの体を支えた。必死に瞬きを繰り返しながら体を震わせているサヨコを覗き込む。
「大丈夫か?」
「……大丈夫……ちょっと……緊張し過ぎて」
サヨコはスライの声に顔を上げて微笑んだ。わずかだが、顔色が青い。
サヨコが『草』を飲んだのは昨夜だ。それも、ひょっとすると『第二の草』だったかもしれないもの、残留効果は考えている以上に短いかもしれない。
スライは強いて笑顔をつくった。
「もう、昼になる。食事を取りに行こう。それから、もう一度、モリのことを考えよう。俺達はいいところまで来ているはずだ」
「そうね…」
サヨコが頷いたのに、スライはほっとした。サヨコの体を支えた手を名残惜しくそっと外しながら体を起こし、ドアの方へ歩きだしかけ、床に落ちていた金色の紙製の鳥のようなものを見つける。
「これは…」
「ああ」
サヨコがスライの手からそれを大事そうに受け取った。
「『草』を出すときに落としたのね……日本の……古いお護り、『オリヅル』って言うんですって。アイラが作ってくれたんです」
「ふうん」
少し前なら、日本と聞いただけで嫌悪感を持っただろうに、その『オリヅル』を手に載せているサヨコがひどく愛らしく見えて、スライは我ながらうろたえた。ことさらさっさと部屋を出ながら、サヨコを誘う。
「食事に行こう、サヨコ」
「あ、はい」
いそいそとついてくる相手を引き寄せて抱き締めたくなるのを、必死に自制する。
(そんなことをしたら、今度こそ本当に嫌われちまう)
その昼食が、サヨコがステーションに来てからスライとともに摂る、最初で最後の食事になるとは、そのときのスライには想像もつかなかった。




