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緑満ちる宇宙  作者: segakiyui
第8章 モリ

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「モリは家族もなく、身寄りらしい者はいなかったと聞いていたんですが、この間、ファルプのところで情報を探ったときに、何度か地球へ通信しているのがわかったんです」

「地球へ?」

 眉を上げる。思わぬ情報に瞬きする。

 モリが個人的に通信していたとは知らなかった。

「ええ。もし、何か、モリの行動を変えるようなものがあって、それがステーション内ではなかったとしたら、その通信が鍵になるかもしれないと思って……ファルプのところで検索するわけにはいかないから、ここで検索できるかもしれないと思ったんですけど」

「ああ、そういった情報ならここで扱える」

 スライは端末に向かって、モリの情報を引き出した。サヨコがデスクについたスライの側に回り込み、一緒に画面を覗き込む。

 確かに、モリは死ぬ数カ月前まで、1カ月に1度の割合で、ヨーロッパのある村に通信を送っている。最後のものは、モリからの通信が受信拒否され、それ以後の連絡は途絶えたままだ。

「受信拒否理由は?」

 サヨコが反応した。

「ちょっと待ってくれ……受取人死亡、所在地に連邦警察介入、になっている」

 スライはサヨコに促される前に、慌ただしく村の名前を特定した。次に、そこで何が起こったのかを確かめる。

 ほどなく画面に現れた一連の情報は、その村が『GN』至上を訴える勢力に武力制圧されたこと、村人のほとんどが殺され、連邦警察の介入が開始されたことを告げた。

 サヨコが小さく息を呑んで呟く。

「『青い聖戦』…」

「おそらくは、な」

 スライは眉をしかめた。

(迂闊だった)

 もっと早くこの情報が掴めていたら、事態はもっと早く簡単に動いたに違いない。自分がどれほどモリの死に動揺していたか、見るべきものを見ていなかったかがわかり、今さらながら悔やまれた。

「モリはきっと『第二の草』でファルプとつながっていたんだろう。ファルプはカナンとつながり、カナンは『青い聖戦』とつながっていた。モリはどこかで、自分の関わっている相手が、知り合いを殺したことを知ったのかもしれない」

 スライは解説をつけながら次第に憂鬱な気持ちになった。

「もし……そうだとすれば、モリが死んだのは、やっぱり自殺かもしれない。自分も『青い聖戦』のグループと同じなんだと思ったのかもしれない」

(俺と同じように)

 死ぬまでの数カ月は、その悩みと迷いの時期だったのではないか。

 スライは、サヨコを人間扱いしなかった連中が『CN』だったと知ったときのショックを思い出していた。

 自分は人間として間違ったことはしてこなかった、自分は正当な憎しみを持っているだけだ。そう信じていたものが、見るも無残に崩れ去っていく瞬間。自分に遠くつながるものが、人間として恥ずかしい行いをしたのだと思い知らされた瞬間。

(モリもまた、そうだったのだろうか)

 『GN』であることをごまかして、『第二の草』を使い、宇宙に上がったモリ。

 連邦が分け与える『草』に理不尽なものを感じていたかもしれない。『第二の草』が広がることは何とも思っていなかっただろう。

 だが、その、自分につながった遠い場所で、自分達の至上性を護るためにテロを繰り返す人間がいて、彼らに大切なものが壊されたとき、モリもスライのように動揺しただろうか。

(自分は本当に間違っていなかったのか、と)

 スライは、ようやく、モリのことがわかってきた気がした。

「自殺…」

 サヨコが重く呟いて、スライは我に返った。

「まだ、引っ掛かる?」

 問いかけると、相手は頷いて画面にしげしげと見入った。スライが考え込んでいる間に操作したのだろうか、画面は元のモリの個人情報に戻っている。

「『GN』が宇宙で自殺する理由としては、まず、『宇宙不適応症候群』があげられます。発作から来る錯乱と恐怖、ショック。次には、どうしても宇宙から降りたくなくて、けれども『草』が途切れるとわかった場合。最後が、宇宙でのストレスから……でも、モリにはどれも当てはまらない」

「だから、それは、『青い聖戦』のしたことに衝撃を受けて……自分にも責任があると感じて…」

 反論しながら、スライは確かに違和感を感じた。

(でも、俺は自殺しようなんて思わなかった)

 スライの違和感をサヨコがことばにして返す。

「でも、それで自殺する人としない人がいる。モリが自殺するほど悩んでいたならば、なぜ、その後すぐにステーションを降りなかったんでしょう。モリは宇宙にいることに固執していなかったと聞きました。このステーションが廃棄処分になることで職を失うのを、愚痴ってはいたけど絶望してはいなかった。『青い聖戦』のしたことにショックを受けてファルプ達と手を切り地球に降りる。それならば、モリの行動としてもわかるんですが、事件の後数カ月、ファルプから『第二の草』をもらいながら暮らしていて、ある日突然罪悪感に駆られて自殺する、それも、前日まで普通にふるまいながら、というのは、モリという人間を考えたとき、どうにも腑に落ちないんです」

 スライは考え込んだ。

「だが、他殺だとしても、どうやってモリに薬を飲ませる? 眠り込んだモリをどうやって運ぶ? それに、あの日、俺はたまたま中央ホールに行かなかっただけだ、ひょっとしたら気を変えて行ったかもしれない。眠り込ませて死ぬのを待つ、というのは危険すぎるぞ」

「だから……モリは一晩かけて死んだんじゃないかもしれない」

 サヨコがぽつりと言い放って、スライはぎょっとした。


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