表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑満ちる宇宙  作者: segakiyui
第6章 『青い聖戦』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/71

10

「まだ、わからないことだらけだしな」

 クルドは指先で顎をひねりながら言った。

「タカダ……が『第二の草』を持ち込んだにせよ、なぜ、ここに持ってくる必要があったのかがわからない。タカダがテロリストなら、なおさら顔を知られてはまずいだろうに」

「それに、その持ち込まれた『第二の草』はどうなったのか、だ」

 スライは立ち上がりながら言った。

「どこかへ運ばれたのか、それとも、別の目的があったのか」

「それに、モリがそれに関わっていたならば、どういう役割だったんだ? なぜ、死ぬ必要があった? 誰が…殺したんだ?」

 考え考え付け加えたクルドに、アイラが応じた。

「実は……カナンと密かに連絡を取り合っていた人物がいます。こちらが突き止められたのは、その人物が『エッグ』と呼ばれているということだけです。ここへ来るまでに乗務員を調べましたが、『エッグ』のあだな、もしくは、『E』のつく名前の者はいませんでした。でも…」

 4人の胸に、ほとんど同時に1人の男の姿が浮かんだのではないか。

 童話に出てくる登場人物よろしく、ころころ太っていて無害そうで、年中白衣を引っかけた男。赤い髪と青い目の丸顔で、始終上機嫌の医師、ファルプ。

「ハンプティダンプティで、エッグ、か? 笑えない冗談だな」

 スライは顔をしかめた。

「だが、それでも意図がつかめない。なぜ、ファルプは『第二の草』が必要だったんだ? あいつは『CN』だぞ」

 クルドが首を振りながら言った。スライが眉を寄せて、

「とりあえず、今は謎解きをしている暇がない。サヨコは『草』を飲んでないんだ。アイラの連絡がつき次第、サヨコは連邦警察の船で、緊急用の『草』を投与してもらって地球へ降りる。証拠固めはその間にタカダを捕まえて吐かせる」

(どんなことをしても)

 自分の声が冷えてぴりぴりしているのがわかる。

「まだ、カナンにはこっちが気づいたことを知られない方がいいだろう」

「緊急用と言えば、ファルプのところに『草』の予備があったんじゃないか?」

 はっとしたようにクルドが言った。虚を突かれ、スライは振り向いた。自分がそんなことも思い出せないほどうろたえていたのに、今さらながら気がついた。

「ああ、そういえば……だが、カージュやサヨコの初めの発作で使っているから、あまり残っていないかもしれない」

「だが、あるかもしれない」

 クルドは目を輝かせた。

「どうだろう、あんたとアイラはタカダを捕まえる。だが、それをファルプに邪魔されると困る。おれとサヨコが医務室へ出掛けて、サヨコの『草』が盗まれたことを話してファルプに『草』をもらう。そうすれば、あんた達の動きから、ファルプの目を逸らせられ…」「いや、それはまずい」

 スライは遮るように口走ってしまった。

「誰がサヨコの『草』を盗んだのかはわかっていないが、意図は2つ考えられる。1つはサヨコへの脅し、もう1つはサヨコに『草』を求める行動を起こさせることだ。このステーションで、個人のもの以外の『草』は医務室にしかない。医務室はファルプの手の内にある。サヨコを医務室へ連れて行けば……それこそ、向こうの手に乗ることになる」

 ぞく、と無意識に体が震える。

(このうえ、サヨコを危険に晒す、だと?)

 一瞬アイラが妙な表情でスライを見たが、それを無視して首を振る。

「危険すぎる」

「わたし…」

 黙っていたサヨコが、ふいに口を開いた。

「わたし……クルドの意見に賛成です。ファルプが本当に敵だとはまだ思えない。それに、クルドの頭の傷も診てもらったほうがいいと思います。クルドの診察と手当の間に、わたし、モリのことを調べたいんです。医務室の端末なら、何か違う情報が入っているかもしれない」

 スライは瞬間、喉を締めつけられたような気がして、ことばが出なかった。

 さすがに、同じくぎょっとしたらしいアイラが、

「そんな、あなた」「いや、サヨコ、それは」

 クルドも口を合わせてやめさせようとするのに、サヨコは2人をじっと見た。黒く深い瞳が、視線に気圧されたように黙り込むアイラとクルドから、ゆるやかにスライに目を移す。

 意志をたたえてたじろがない瞳、まるで自分の進む道がまっすぐ見えているような、それをひたすらに見つめるような。

 揺さぶられ続けたスライの心が、その瞳に吸い込まれ呑み込まれていく。

(ああ、この目だ)

 スライは思わず微笑んだ。一番手に入れたかったものが何なのか、ようやくわかった気がした次の瞬間、サヨコは頷いてぽつりと宣言した。

「わたし、まだ、地球へ戻りません」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ