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「おれの村を襲った奴ら……『CN』をかばう者への制裁だとか言ってたかな……先頭に立っていたあいつをよく覚えている」
淡々とした声だったが、クルドのいつも穏やかな瞳がちろちろと危険な色の炎を浮かべている。
「村を襲った…?」
スライの問いに、クルドは我に返ったように瞳の光を和らげた。
「ずいぶん昔のことだ…まだ、地球にいたころ。母親と父親と祖母と暮らしていたころ……小さな村だった」
クルドは溜め息をついた。重い荷物をようやく降ろす、そんな深い溜め息だ。
「そのころは、今ほどはっきり『CN』だの『GN』だの区別されてなかったな。おれの村では、『CN』を単に『飛べる奴』と呼んでたよ。『飛べる』からってどうっていうことじゃない。ほとんどの人間が村で生まれ、村で死ぬ。同じように作物を育てて、同じように刈り入れをする。家畜の世話をし、夜には炉端でいろいろ珍しい話をしあって楽しむ。子供が生まれれば喜ぶし、年老いたものが先立つのを悲しみと敬いで見送る。あたりまえの人の暮らしをしてたんだ」
アイラが、クルドの話の先を知っていたのか、暗い目になった。
「そこへ……奴らが来た……。ある日、急に、な」
クルドは苦々しい顔になった。
「おれ達が、『GN』も『CN』も一緒に暮らして居るのは不自然だと言い出したんだ。自然の摂理に背いている、と。宇宙でも暮らせる者は宇宙で生きていけばいい。地球の少ない土地と、貴重な資源を分け与えてやる必要なんかない、と。それもそうだ、と思った馬鹿な者がいた。『CN』を疎ましがるものが出てきて、ささいなことで揉めるようになった。地球は『GN』の者だ、『CN』は出て行け、そう叫ぶようになった」
クルドは一瞬込み上げてくる激情に耐えるように唇を噛んだ。すぐに、
「おれの一家は、母親が『CN』で、父親が『GN』だった。祖母はテストを受けなかった。父親が、奴らの考え方に引かれ始めて、『CN』だとわかったおれと母親を疎み出した……そして、奴らが『地球のための聖なる戦い』だと言って、村を焼き払い、自分達のものにするのを、おれは見ていることしかできなかった」
クルドの静かな口調は激さなかった。それだけに、その傷みの深さが今のスライの胸にしみこみ、堪えた。
「人間はいったい何をやってるんだ? おれ達こそ、肌の色や生活や風習で差別されるつらさを味わってきたんじゃなかったのか。おれ達こそ、本当に大切なものは何なのか、自分達の苦しみの歴史から一つ一つ学んできたんじゃなかったのか。何かのための、ということばが、どれほど愚かで恐ろしいものか、充分に身に染みていたはずじゃなかったのか。……おれは、奴らと一緒に走り回る父親に、おれのすべてを否定された気がしたよ。それまでの生活すべて、父親と暮らしたことすべて。……だが、おれは、父親を憎みはしない……憎むべきは父親じゃない……誰の心の中にでもある、一つの誘惑だ。自分こそは特別なんだ、選ばれたものなんだ、という、意味のない言い訳だ……生きるときも死ぬときも、命は一つしか持ち合わせないのに、何を誇るんだ?」
クルドはスライを見た。
「おれは、それこそを、憎んでいる」
無言のスライに続けて、
「わかるか、スライ?」
「ああ…」
スライはようようことばを絞り出した。
「わかりたいと……思う」
今までクルドのことを何も知らずに、自分が一番悲惨な目に遭っているようにふるまっていたのが恥ずかしく、それと同じことをサヨコに押しつけたことを痛いほど理解した。
(俺は、本当は、何にもわかっていなかったんだ……クルドのことも……サヨコのことも)
何もかも、もう本当に手遅れなのだろうか。
(いや、それでも)
何かできるはずだ、何か。
スライは唇をきつく引き締めた。
(サヨコの気持ちは戻らないにしても、サヨコをこれ以上危険な目に合わせない、何かが)
クルドはスライの後悔を感じたのだろう、満足そうにうなずいた。
「タカダは警備保障会社の人間なんかじゃない……『GN』を至上存在とするテロリストの扇動者だよ」
アイラもうなずいた。
「ソーン……の方はわかりませんが、『青い聖戦』の中核的存在に、ヴェルハラ・K・ウント、もしくは、ヴェルハラ・W・ウントと呼ばれる人物がいたことが、最近になって連邦警察で確認されています」
クルドのことばを引き取るようにまとめた。
「決まりだな。今、ソーン・K・タカダと名乗ってる奴は、筋金入りのテロリストだったわけだ。だが、そのテロリストが、なぜか、カナンに身分保証されている」
スライはつぶやいた。
「やっぱり、カナン・D・ウラブロフの名前が出てきましたね。シゲウラ博士にもカナンは噛んでいます。今回のモリの死に対する対応にも、総合人事部長としては不自然なものがありました、ひょっとすると、『第二の草』を作ったのも…」
アイラが瞳の中にきつい光を宿す。
「なぜ、カナンを捕まえない?」
スライの問いに、アイラは複雑な微笑を返した。
「連邦警察内部にもカナンの息がかかっている者がいます。彼らは、カナンへの追及を望みません。スライ船長、あなたの連邦警察への要請ももみ消されています。ただ、みんながみんな、カナンの配下ということではない……とても皮肉なことですが」
アイラはサヨコを気遣うように、少し目を伏せた。
「カナンをはじめとする『GN』の宇宙進出を望まない『CN』が、今回の摘発の中心になっているのです」
「正義はどこにもないというわけだ。あるのは人間の思惑だけ、か。で……どうするつもりだ?」
スライはアイラを、続いてクルド、最後にサヨコをそっと見た。
アイラが目を上げる。
「サヨコのことがあります。まず、連邦警察に応援を求めます。カナンの掌握しているルートを通さなくてはならないので、今のままでは決め手に欠けるかも知れませんが。それから、タカダとタカダの持っている情報の確保……最悪の場合、このステーション内にもう1人、『第二の草』に関わっている者がいれば、タカダが消される恐れがあります」




