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ほぼ同時刻。
クルドは、管理室で、『サヨコの叔父』だという人物を捜し出して困惑していた。
資料では、男の名前はソーン・K・タカダとなっている。
地球の警備保障会社の社員ということで、今回もある人物の警護のための旅行とされている。彼が警護している人物は、極秘とされて明かされていない。おまけに、タカダの身分保証はカナンがしている。
もし、カナンが、万が一を考えて、サヨコにそれと知らせずに警護をつけたということならばわからないことではない。カナンの干渉を好ましく思っていないスライに対して、サヨコに叔父だと詐称させることも考えられる。
だが、もし、叔父として振る舞うならば、もっとサヨコとの連絡が密にされてもいいような気がする。
タカダの対応は、サヨコの窮地に対しても変わらず、第三者としての立場を保ったままだ。サヨコの警護というよりは、サヨコの監視といった方が当たっているかもしれない。
第一、こんな中途半端な関係をどうしてサヨコは容認しているのだろう。自分を見張っているだけで助けてくれない男を、叔父としてかばう理由は何だろう。
(カナンから言い含められているのか?)
いったい、何と言ってだろう。スライやクルド達に問題があるかどうかを監視するため、とでも聞かされているのだろうか。
(カナンならやりそうなことだ)
クルドは険しい顔になった。
(あるいは……連邦警察を内密に忍ばせたか)
確かにその方が、サヨコが無条件でタカダを叔父としてかばい、けれども積極的には関わらない相手として受け入れやすいだろう。
(いずれにせよ、こいつは要注意だな)
資料を片づけようとして、クルドは気を変えた。
(警備保障会社の男なら、前にも来ているかもしれない)
今回は事故続きで、スライもクルドも客に相対することが多いが、問題さえ起こらなければ、クルドはどちらかといえば裏方にあたる。初めと終わりのレセプションにだけ顔を出すということも少なくない。今までステーションを訪れていても、クルドの目に止まらなかった客もかなりいるはずだ。
クルドは資料を丁寧に調べ直した。
やがて、何年かおきに、タカダの名前を名簿から見つけることができた。
そればかりではない。彼が1回ごとに微妙に容貌を変えているのを見つけた。
単なるファッションやイメージチェンジというには程遠い、現在の姿から掛け離れているほど姿形をいじっているのもわかった。
記録をじっくりと追いかけたクルドは、どうやら一番最初に姿を見せたときと思われる記録を捜し出し、顔から血の気が引いていくのを感じた。
故意にだろうか、そのときだけ、名前が違う。
ソーン・V・K・ウント。
短い茶色の髪の毛の下に、酷薄そうな表情をたたえた灰色の目があった。角張った顔形、意志の強そうな大きなあご、薄く鋭い唇の線。
クルドが全く姿形の違うタカダを見つけられたのは、それまでのステーションに来ている確率と間隔から、もし来ているとしたらこのあたり、とつけた見当が正しかったからだ。
現在のタカダと共通しているところがあるとすれば、立体写真の奥からねめつける冷ややかな眼差しぐらいか。
だが、その名前と眼差しは、クルドにとって決して忘れられない、ある男の面影を髣髴とさせた。
ヴェルハラ・S・W・ウント。
クルドが幼いときに住んでいた村を襲った集団の、若き指導者の名前だった。




