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緑満ちる宇宙  作者: segakiyui
第3章 出会い

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1

 きり。

 総合人事部、カナン・D・ウラブロフの時間が取れるのを隣の部屋で待ちながら、サヨコは奥歯がどんどん擦り減っていくような気がした。噛みしめるたびに、ぎしぎしした感触がひどくなる。それにも増して、力を込めて硬直させた体が、ぐいぐい内側へ締まり続けていく。

 宇宙ステーション、『新・紅』への出向は事実だった。

 サヨコの訴えに、フィスはカナンが決めたことだからといって取り合ってくれず、とうとう思い詰めて、サヨコは総合人事部までやってきてしまった。

 カナンに面会を頼んだ瞬間から、この一室で待たされている数十分間、サヨコは後悔し続けている。

 切れ者と名高いカナンが、一度下した決定をサヨコごときの抗議で変えるはずはない。フィスにもそう言われたのに、サヨコはここへ来てしまった。

 理由はただ1つ、宇宙へ出たくない、それだけだ。

 4歳の体験の恐怖からだけではない。

(本当は…)

「サヨコ・J・ミツカワ」

「あ、はい」

 カナンの秘書に呼ばれて、サヨコは椅子から立ち上がった。足が砕けて、転んでしまいそうだ。

 ドアを開けて入り、サヨコは一瞬、部屋を間違えたのかと思った。

 重厚な木製の書棚が部屋の壁を埋めている。1カ所だけの窓には重そうなカーテンがかかり、今は左右に分けられて金色の房で留められている。ふんわりと深く沈む絨緞が敷き詰められた数世紀以上前のヨーロッパ風の部屋だ。

 書棚の前、どっしりした木製のデスクについているカナンを見つけて、サヨコはようやく我に返った。

「どうかして?」

 プラチナブロンドの陰から、ごく淡いグリーンの目が笑いかける。サヨコが回りの調度に気持ちを飲み込まれるのを見ていたらしい。

 サヨコは顔が赤くなるのを感じた。

「あの……貴重なお時間を頂いて申し訳ありません、カナン部長」

「カナン、でいいわ。何かしら?」

 人を逸らさない魅力的な微笑が珊瑚色の唇にこぼれた。

 サヨコは、ますます小さく縮こまっていく自分を感じながら、必死にことばを続けた。

「あの……お聞き及びかもしれないのですが……『新・紅』への派遣のことです」

 そこまで口にしただけで、体力のほとんどすべてを消耗したような気がした。

 カナンがちかりと目を光らせる。野獣のような、美貌に不似合いな猛々しさが、相手の目を掠めた。

「ああ、そう、あなたを選んだのは私です。期待に応えてくれることを望んでいますよ」

「でも……どうしてでしょう?」

 サヨコは両手をしっかり握り締めた。見えない圧力に押されまいとして、足の位置を直し、少し息を吐いてから問いかける。

「……難しいケースだと聞きました」

(大丈夫、言える)

 心の中で自分を励ます。患者に対して、どうしても言いにくいこと、けれども言わなくてはならないことを口にするときのように、ゆっくりやれば、きっと言える、と。

「わたしは『GN』です。宇宙滞在訓練もしていないし、ましてや、『CN』の心理療法はほとんどしたことがありません。経験不足ですし、宇宙に関する知識は……皆無です…」

 それでも、最後のことばが消えそうになった。

「でも、この間はきちんと回復させたわ」

 カナンはどこか諭すような口調で応じた。

「宙港の報告には目を通しました。今までの経歴も知っていますし、『GN』であることも考えた上での選択です。以前、シゲウラ博士にもコンタクトを取り、連邦が必要と認めたならば、あなたを宇宙へ派遣してもよいとの返事を得ていますよ」

 シゲウラ博士の名前で急に体中の力が抜けた。


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