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緑満ちる宇宙  作者: segakiyui
第2章 宇宙ステーション『新・紅』

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 事故だとしたら。

 だが、モリが『誤って』多量の睡眠薬を飲み、『誤って』中央ホールの夜間ロックをこじ開けて入り、『誤って』フィクサーを使って自分の体を固定したうえで眠り込んでしまう可能性となると、他殺より少ないだろう。理性的に考えれば、モリは何らかの原因で、自殺したと考えるのが正しい。

 おそらくは、カナンもそう考えているはずだ。

(本当に、そうか? 『CN』が宇宙で自殺なんてするだろうか。それは、『CN』も『GN』と同じ、『宇宙不適応症候群』になるということだ。それでは、『CN』と『GN』の差なんて、ないことになる)

 だから、スライは、地球連邦に対して、あらゆる可能性を調査するということで、連邦警察の派遣を要求したのだ。なのに、それに対する答えは心理療法士の派遣、それもいくら優秀とは言え『GN』の心理療法士を派遣するという。

(カナンは『CN』を信じてないからな)

 『CN』に支配されていく宇宙をカナンは歓迎していない。今回も、へたに『CN』を送って庇い合われては困る、ということではないだろうか。

 スライはうんざりした。

(宇宙は『GN』のためにあるんじゃない)

 それは、地球連邦の名を借りた、地球内での国際勢力をもつ国家が、結局は宇宙も陣取り合戦の戦場にしてしまった今でもそうだ、とスライは思っている。

 確かに、現実を見る限り、人類は果てしなく己の欲望を満たし、支配範囲を広げることに夢中で、対象が宇宙になっただけ、己の本質を新しく目覚めさせるような存在になってはいない。

 だが、『CN』には、その先駆けとなれそうな要素があるのではないか。それが、宇宙環境への適応ということではないのか。

 スライは地球連邦に入った当初、そう述べて、カナンと真っ向からぶつかった。

 カナンによれば、スライの意見は、自分達を新人類と考えたいための詭弁にしかすぎない。人類はそもそも地球に在ってこそ、その種に適した進化を成し遂げていくものである。やたら宇宙にこぎ出そうとするのは、かつて巨大化していった恐竜達が、やがては自分達の体を持て余して滅びたと同じ結果を人類にもたらす。人類は地球上で十分に成熟してこそ、宇宙へと広がる種としての条件を満たすのであり、現在の『CN』には、そのような成熟は認められない、と主張した。

 2人の意見は、それぞれの立場で熱狂的に支持された。カナンが地球連邦総合人事部の長として健在なのも、スライが完全に葬られることなくそれなりの地位を保てるのも、そのせいだ。

 スライにとっては、宇宙こそ『CN』に開かれた場所、だからこそ、そこで自殺することを選ぶという発想は理解できない。

 スライは、ゆったりとした足取りで、エレベーターを乗り継ぎ、中央ホールに入った。

 太陽や星々の光をグラスファイバーで巧みに取り入れ、ホール全体に拡散させているせいで、グレイに塗られた壁面はかすかに光っているようだ。エレベーターが通る筒を中心に球形に広がる空間は、光の取り入れ方次第で、宇宙空間のような演出もできる。

 エレベーターの壁を軽く突いて、スライはホールに体を浮かばせ漂わせた。フィクサーは使わずに、ゆらゆらと船内換気の微細な流れにまかせたまま、ホールの中で浮いている。

 無重力空間の常で、首はわずかに仰け反り、腰は曲がり、両手が浮く。見えない椅子に腰かけているような、重力下では不安定に思える姿勢だが、へたに地上と同じ姿勢を取ることは余計な筋肉疲労を招くだけだ。

 フリュード・シフトと呼ばれる、無重力空間で体液が上半身に集まってくる現象は、既にエレベーター内から始まっていたが、それで起こるぼうっとした顔面や上半身の腫れたような感覚も、スライにとっては苦痛というより自分の内側に集中するための手順に感じる。

 気持ちがみるみる、体を越えた外へと広がり出していくようだ。スライは軽く目を閉じた。

 忘れたくとも忘れられない思い出がよみがえりつつあった。


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