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緑満ちる宇宙  作者: segakiyui
第2章 宇宙ステーション『新・紅』

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3

 クルドが技術屋と呼ぶ、モリ・イ・トールプは、ステーションにおける一級の整備士だ。37歳、国籍はオーストラリア。日系移民の末裔で、もし適切な教育が受けられていれば、新しいステーションを開発し発明していたかもしれない。

 だが、現実には、モリはこのオンボロステーションしか整備できない技術屋で、このステーションが廃棄された後は、新しいステーションで働くこともできずに地上にいるしかない、と愚痴っていたと言う。

 もっとも、それが悩みだったというのではないらしい。その愚痴を言うときのモリは、不思議にさばさばした明るい表情のことが多く、宇宙に居ることを好む傾向にある『CN』にしては変わり者だと噂されていた。

 そのモリが、死体で発見されたのは、3日前のことだ。

 朝のミーティングに出てこないのに不審を抱いた仲間が、モリの部屋へ行くと妙に片づけられていた。日常品に至るまで個人所有のものが廃棄され人の気配がなくなっていた部屋に、仲間が異常を感じた。ステーションがくまなく捜査された結果、クルドが中央ホールの真ん中に浮いているモリを発見したのだ。

 中央ホールは、ステーションに来て無重力を楽しみたい人々や新人飛行士の訓練のために作られているホールで、居住区とドッキングプレートの間にある。

 モリは多量の睡眠薬を服用して眠っていた様子、しかも『フィクサー』で自分の体を固定していた。

 『フィクサー』とは、無重力空間で自分の位置を固定するために使われる、細いロープの先に小さな強力な吸着盤がついたものを発射する装置だ。

 モリはその数本を使って自分の体をホールの一箇所に固定しており、そのために無重力になった場で自分の吐き出した二酸化炭素が顔を覆う形となって窒息したのだろう、と医師のファルプが診断した。

 普通ならば、船内換気があるため、無重力空間で動けなくなったとしても空気が循環していて問題がないはずなのだが、換気が止まっていて空気が動かなかったのだ。

 多量の睡眠薬は、ファルプが、以前モリが不眠を訴えたときに与えたものと、モリが仲間内から集めたものと知れた。ファルプにそれほどたくさん薬はもらえない、けれど、どうも眠れないときがある、と言ってたらしい。

 多かれ少なかれ、ステーションに出て落ち着かなくなる傾向は『CN』にもある。睡眠薬は医師の診断によって投与されることになっているが、『新・紅』のように、長年同じようなメンバーで構成されたステーションでは、乗務員のなれ合いも珍しくない。

 中央ホールは、地球標準時間に合わせた夜間、午後10時から翌朝6時までは閉鎖されているはずだが、モリは整備士でもあり、管理室の警報を鳴らさずに、夜間中央ホールに入り込むことはできただろうと思われた。

 問題は、なぜ、モリが死んだか、だ。

 もし、ファルプがいうように、自殺だとすれば原因は何だったのか。将来への漠然とした不安か、それともクルドが言ったように、スライの無意識的な差別か。それとも、もっと別の原因か。

 スライには、自殺は納得できなかった。

 では、他殺だとすれば、なぜ、どうやって、誰が、モリを殺したのか。モリが誰かの秘密を知ってしまったのか。それとも、殺意に満ちた人物がこのステーションに入り込んでいて、たまたまモリが殺されたのか。恨み、嫉妬、恐怖…?

 たとえ殺されたとしても、どうやって、モリに多量の睡眠薬を飲ませることができたのか。食事は食堂で食べることになっている。モリ1人に、不自然でない形で、何かを多量に取らせるのは不可能に近い。もし、できるとすれば、モリ個人が、自室で、自ら取るしかない。

 それに、どうやって、夜間の閉鎖された中央ホールにモリを呼び出すことができたのか。

 多量の睡眠薬を飲んでいては連れてくるのが大変だったろうし、かと言って、飲む前に呼び出せばモリが不審がって出向かなかっただろう。顔を見られる危険もあるし、万が一何かの事故が起こって、モリが予定より早く発見されていたなら、彼の口から告発される恐れさえある。

 中継ステーションとはいえ、ここしばらくは人間の出入りがなかった。数カ月前に1度、お偉方の視察と称する宇宙見物ツアーがあった程度だ。言わば、大きな密室となっていたこのステーションの中で、仮に殺人者がいたとしても、正体がわかってしまう危険を起こすとは、スライには思えなかった。

(他殺は無理だ)


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