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婚約破棄に至るまでの物語  作者: ROSE
1/3

公爵令嬢と王宮の人々

その日、王宮における新年の舞踏会がおこなわれた。

そんな明るく楽し気な着飾った人々の中心で、一人の美しい少女が、大柄な5人の青年とゴテゴテしたウェディングケーキのようなドレスの女が対峙している。

「もう一度、お願い致しますわ。」

美しい少女、メルリスレーンは以前から馬鹿なエロ男と認定している婚約者・・・王太子、ロディックに向かって微笑んだ。

「婚約破棄だ。理由は分かっているだろう。」

冷やかな婚約者の声に彼女は笑みを深めた。

「分かっておりますわ。何しろ13年に渡る付き合いでございますもの。」

婚約者にすがり付く彼女より明らかに年上の娘が、腕の影から嘲笑うような顔を彼女に見せている。

「ようやく、理想の年増の絶壁を見つけられましたのね!」

彼女の無邪気な発言に、ハラハラと見守っていた周囲の者達も婚約者も婚約者たる王太子の取り巻きも、人の婚約者に手を出す尻軽女も固まった。

「思い起こせば、初めてお会いしました時の貴方様は、絶壁や棒の様な身体つきは女ではないと申されておいででした。まだ3才の・・・婚約者候補でしかありませんでした私達に。」

メルリスレーンの発言に、周囲の者達は彼女の記憶力って凄いなあ、と暢気な感想を持ちつつ、2才年下の幼女達に投げ掛ける言葉ではないよななどとも思った。

「な、何を言って・・・!」

王太子は少し慌てた。

「当時の貴方様は、ちょっと小太り・・・いえ、ふくよかな子守り役の侍女、アメリがお気に入りで。」

懐かしそうに語る彼女に婚約者たる王太子の慌てる声は聞こえていないようだが、敢えて聞いていないふりをしているのかもしれないが。

「そういえば、当時の貴方様のマイブームは・・・アメリの豊満なFカップに頭から突進して、彼女をクッション代りにすることでしたわね。」

エロガキ・・・という言葉が周囲の人々の頭に浮かぶ。

「メルリスレーン!貴様!!」

顔を真っ赤にして王太子が叫び、傍観者達はああ、事実なんだと納得した。

「そうそう、その頃でございましたか?」

「な、何がだ?」

「王妃様のビスチェをぬいぐるみ代りに抱きしめて就寝されていたではないですか。7年間ほど。」

「!」

うわあ、と周囲の人々は恐れた。

「ロディック、それは誠のことか?」

一瞬の内としか表現出来ない素早さで、王太子の背後に幽鬼のような王が現れた。

「それは・・・!」

「私も知りたいわ。」

王の更に後ろから笑顔が恐ろしい王妃の登場だ。

「・・・メ、メルリスレーンの嫌がらせの戯れ言です!」

「まあ、そうなの?・・・メルリスレーン?」

「王妃様、私、昔を懐かしんでお話しすぎてしまったようですわ。」

少女はニッコリと微笑んで、ゆっくりと優雅に国王夫妻に礼をとり、傍観者達もそれに追従して礼をとった。

「・・・ですが・・・。」

と、少女は言葉を続ける。王と王妃が怖い笑顔で先を促しているので。

「王妃様のビスチェや王宮で紛失騒ぎのありました下着でしたら、ロディック様の私室に山程あるそうですわ。・・・壁の隠し戸棚や、ベッドの下、引き出しの奥や、クローゼットに追加されたという隠し金庫、それから・・・」

「待て!!メルリスレーン!!何故、知っている!!?」

あ、やっぱりあるんだ。と、傍観者達は思った。

「流石に、いつかは王妃様にご報告しなければと・・・思っておりましたので、報告書を作成してお持ちしておりました。・・・アルテス様?」

「お、おい・・・?!」

少女の横に同じ年頃の少女(アルテス嬢・嘗ての婚約者候補の一人・侯爵家出身)が出てくると、国王夫妻に深く礼をとる。彼女は抱えていた紙の束を王妃に恭しく差し出した。

「これは?」

王妃が尋ねると、メルリスレーンは微笑んで答えた。

「ロディック様の秘密の隠し場所や、宝物の預け先にございます。」

「まあ。」

「だから、何故知っている!!?」

喚く王太子をチラリと見て、彼女は不思議そうに首を傾げた。

「何故、気付かれないと思われていたのですか?・・・あれほど、分かりやすい行動をされていたではないですか!逆にお訊ねしますが、あれは私に自分の事を知っておけというサインではなかったのですか?」

「・・・え?」

「ああ、そうでした。婚約破棄ということでしたら、私に黙って持って行かれた・・・コルセットお返し下さいませ。未使用品とはいえ、未婚女性の下着に手を出すとは、殿方として不適切な行為では御座いませんか?・・・他にも、私の母の部屋から持ち出した夜着や、ペチコートをご返却願いますわ。それから・・・私の従姉、ダッドレー伯爵家のアルメリア様・・・現在は結婚されましたのでケレット侯爵夫人ですが、あの方の侍女を脅して手に入れられたガーターベルトもこの際お返し下さいませ。」

更に爆弾が落とされ、傍観者達は戦慄した。

何故ならばメルリスレーンの父、スロットレックス公爵は家族大好き武力系宰相である。

戦争や紛争でも起きようものなら、フル武装で飛んで行き、敵を徹底的に叩きのめしてくる。ようは、俺様の家族団らんの時間を邪魔するなということである。宰相としての仕事を滞りなく済ませる為に放つ殺気は凄まじいのだ。

そしてダッドレー伯爵も負けてはいない。

スロットレックス公爵一門である彼は家族大好き武力系財務大臣である。しかも、やることは公爵と変わりない。そして、ケレット侯爵も同じ事だ。侯爵は先年、10才年下のダッドレー伯爵家の令嬢を妻として溺愛している。例え、結婚前の話だとしても妻のガーターベルトを若い男がコレクションしていると知れば、血の雨が降りかねない。彼は武力系外交官なのだ。

「ふむ。」

大魔人系国王は、冷やかな視線を顔面蒼白になっているエロ王太子に向けながら口を開いた。

「我が妃よ。メルリスレーンとロディックのどちらが正しいか確認せねばなるまい。」

その目が、ブツが出てくれば分かっているなと、語っている。

「ミストンよ、今すぐ近衛騎士団長立ち合いの元、王太子の私室を確認せよ。メルリスレーンの報告書通りであれば、被害者の確認もせよ。」

背後に控える侍従長は、深く頭をさげた。

「御意。」

「ガセルよ、被害者の聞き取り調査を頼む。」

「はっ!」

近衛騎士団長も礼をとる。

侍従長は、王妃から報告書を受け取ると、退出の挨拶もそこそこに、近衛騎士団長と共に足早に大広間から出て行った。

傍観者達は、これで一旦休憩だろうかと考えた。安全地帯に逃げてしまいたい気持ちは、恐らく怖い方々に睨まれている王太子と変わりない。

「さて、メルリスレーンよ。中々、

面白い思い出のエピソードであるが、他にはないのか?」

王が、爆弾少女に優しく尋ねている。

「どのようなエピソードがよろしいでしょうか?」

少女の問い掛けに、王は少し考えてから答えた。

「そなた、先程は王太子の好みは年増の絶壁と言い、幼い頃は王太子は絶壁は女ではないと口にしていたと言ったな。」

チラリと、デコレーション過剰のウェディングケーキ女の俎板胸を見た。

過剰な装飾で遠目にはスタイルが良いように見えなくもないが、どう見てもペタペタのペッタンこである。

「ああ、それは・・・天国と地獄の、聞けば笑いと涙のお話ですの。」

「ほう・・・。どのような話かな?」

「メルリスレーン!!婚約破棄は取り消しだ!!止めよ!!!!」

王太子の悲痛な叫びに、少女は楽し気に答えた。

「まあ、遠慮なさらないで下さいませ。本当に理想の大年増のいかず後家の大絶壁な方ではありませんか。手を離してしまえば、二度と出会えませんわ。」

少女の言うところの年増女は怒りで顔を真っ赤にして、握りしめた拳を震わせている。

「ロディック、そなたは口を開くのは止めなさい。」

怖い笑顔の王妃が、王太子の首に扇をピタリと当てた。

「それで、何があったのかしら。」

怯える息子をそのままに、王妃は少女に先を促す。

勿論、傍観者達も興味津々な思いと同時に怖いもの見たさな気分だった。

自国の王太子の駄目さ加減については、皆、薄々気が付いてはいたのだ。

「あれは、2年と少し前の事でございます。」

少女は楽し気に話しだした。

「私の父方の遠縁にあたりますバートティーラ辺境伯爵様が、母の紹介で母の従妹であるキャラメリアローズ様を後妻として迎えられ、年末の国王陛下主催の舞踏会に参加する為、王都に参られました。」

「ああ、あの美しいご婦人ですね。」

「覚えているな。我が妃程ではないが辺境伯夫人の美貌は確かに目を引いた。」

何気にのろけている王に対して一寸反応に困った傍観者達であったが、少女は変わらぬ笑顔で話しを続けた。

「御夫妻は私の両親に挨拶に参られましたが、当時の私の侍女、ヘラのGカップ・・・いえふくよかな胸が大層お気に入りで、毎日のように屋敷に殴り込み・・・いえ、先触れもなく乱入・・・いえいえ、門番に格闘技を習いにお出ででしたロディック様と遭遇されたのです。」

うわあ、と傍観者達は思った。

宰相家である公爵家にケンカ売っているのかと。

但し、公爵家の人々は一見温厚そうでありながら、門番どころか庭師、下男、下女に至るまで、手練れである。

「ほう・・・。2年前といえば、王太子は16才。だというのに、マナーの一つも身に付いていなかったのか。」

「陛下・・・私もそれとなく申し上げたのですが・・・ロディック様曰く、自分より身分の高い人間はいないのだから、マナーなど不要との事でした。」

「なに?・・・自分より身分の高い人間はいない?!」

王太子は子兎のように小さくなっている。

取り巻きも、優越感に浸っていた絶壁女も顔色が悪い。

この少女、何を何処まで知っているのか。

全く想像がつかないのだ。

王太子の事を調べ上げている以上、側にいる自分達も調査対象ではないかということだ。ああ、怖い。

「はい。私、婚約者が両陛下をないがしろにして、自分より下に見下す反逆者であると初めて知った次第でございます。・・・なれど、まだロディック様は当時16才でございます。只、口が滑っただけと、周囲の者達にはかん口令を引き、王宮のマナー教師や、教育係に警告のお手紙を差し上げました。」

「年下の婚約者にそこまで気を使わせて・・・恥ずかしいと思わないのですか!」

王妃の思い切りよく、王太子の頭を扇で叩く。

その時、傍観者達は王妃が手にしていた美しく繊細な扇が、武骨なハリセンに変わっていたことに気が付いた。

いつ持ち変えた!?と、皆思ったが、ひっそりと立つアルテス嬢(メルリスレーン嬢助手)がハリセンの変えと、王妃の扇を

抱えているのを見て深く考えるのは止めた。

誰しも己が身は大切である。

「は、ははうえ・・・。」

「申し訳ございません、話がそれてしまいました。」

「メルリスレーン!頼む、もう許してくれ・・・!」

弱々しい王太子に対し、彼女は困ったように首を傾げた。

「メルリスレーン、陛下と私が聞きたいのです。王太子はいないものと思いなさい。」

「はい、王妃様。」

少女は安心したように微笑み、王と王妃を見た。

「ロディック様は、キャラメリアローズ様に対して、妾にしてやるので王宮で私に侍れと宣言されたのです。バートティーラ辺境伯爵様の前で。」

駄目だ、終わっているよ、と傍観者達は頭を抱えた。

「まあ、なんということを!!」

王妃の顔色が一気に青褪める。

「バートティーラ辺境伯爵様は、ロディック様の首を落とす。と、叫ばれて・・・沫やという騒ぎで御座いました。」

「あ奴は不敬であろう!!!!!」

「何がでしょう。例え先の結婚で未亡人となられても、キャラメリアローズ様は一旦は御実家に帰られて、御実家から辺境伯爵家に嫁いで来られた隣国の王族でございます。しかも、継承権もお持ちなのですよ?ロディック様は隣国王家から輿入れされた姫君に、妾にしてやるなどと口にされたのです。首一つで隣国に詫びを入れようとなさった辺境伯爵様の何処に不敬がございますの?あの場で、貴方様は王宮と口にはされましたが名乗りもしていませんでしたし、キャラメリアローズ様のお側には隣国から王命で付き従われていた侍女や護衛騎士もいたのです。」

「その報告は宰相から聞いている。辺境伯夫妻と隣国には謝罪したのだが・・・ロディックの話とは大分失礼の度合いが違うようではないか。」

王の声が地を這うように低い。

「ロディック様は、都合が悪い話は人の所為になさいますので。」

「本当に、恥を知りなさい!!」

王妃のハリセンが、スパーンと小気味良い音を上げた。

「ロディックの首が繋がっているということは、ここでもメルリスレーンに苦労をかけたということだな。」

「いえ、私よりも・・・キャラメリアローズ様のお力が大きいかと。寛大にも辺境伯爵様をお止め下さいました。」





一旦休憩

一言。絶壁・年増は自分のことでもある。(ノ_・,)




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