入り籠
この小さな世界の中に一体どれだけの世界が広がっているのだろうか。隣の閉鎖的な世界からは、流行りの音楽が流れていた。男女の恋物語を女性目線で丁寧に綴られた詩に耳から離れない音の羅列。
その音を遮るかのように、僕らを乗せた箱が次の場所へと運んでいる。
自分中心の世界が広がる小さな箱とその世界に接続する為の線を手に、また小さな箱の中に乗り込む。
大きな箱の中には一回り小さな箱が。
さらにその箱の中には一回り小さな箱が。
どこかでみたおもちゃの様には終わらない。
永遠にそれを繰り返す。
人々が他人に驚くほど無関心な、驚くほど無関係な世界。
自分自身の世界に閉じこもりながらそれぞれの目的地を目指す為、一時的にこの小さな世界に居るだけ。
そんな歪な世界が広がる小さな箱の中で僕は父と母について考えていた。
僕もこの世界と同じ「入り子」だった。